第8話『灼熱の廃都と、最悪の囮作戦』
「傲慢な破壊神」と「苦労人の聖女」が、腐った世界をぶっ壊して救う話です。
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翌朝。
宿場町ガルドを出発したマークとリシアは、広大な砂海を越え、目的の古代遺跡へとたどり着いた。
灼熱の太陽が照りつける中、風化した石柱が並ぶその場所は、かつて文明があったことを示す墓標のようだった。
だが、リシアが絶句したのは、その風景のせいではない。
「…………」
遺跡の入り口広場。
そこには、茶色の岩塊が整列していた。
一つや二つではない。百、二百……いや、奥に見える影も含めれば、五百体は下らないだろう。
昨日、祠でリシアを襲ったのと同じ、自動防衛ゴーレムの大軍勢である。
「すげぇ数だな。俺が寝てる間に勝手に増殖したか?
あるいは、俺の防衛プログラムが優秀すぎて、過剰生産しちまったか」
マークは眼下に広がる絶望的な光景を見て、他人事のように感心していた。
リシアは震える手でその数を指差し、乾いた笑い声を漏らした。
「あは、あははは……。
無理です! あんな数、勝てるわけありません! 帰りましょう……」
リシアは即座に踵を返し、乗ってきた馬車へと全力疾走しようとした。
だが。
グシッ。
「あぐっ!?」
背後から伸びた手が、リシアのローブの襟首をガシッと鷲掴みにした。
リシアの足が空転する。
「おい、どこへ行く」
「は、放してくださいマーク様! 死にます! あんなの物理的に無理です!
勇者様のパーティだって、あんな数相手にしませんよ!?」
リシアは猫のように吊り下げられながら、涙目で抗議した。
その言葉に、マークの手がピタリと止まる。
「ほぅ……今の時代には勇者がいるのか……」
マークは少しだけ興味深そうに目を細めた。
だが、それは「道端に珍しい虫がいた」程度の関心だったようで、すぐに鼻を鳴らして興味を失う。
「ま、今はどうでもいいか」
マークは不敵な笑みを浮かべて首を振る。
「落ち着け。誰が正面から全部壊すと言った?
今の俺は魔力がねぇ。あんな石ころ相手に消耗するのは愚策だ」
「え……?」
リシアは動きを止めた。
マークがリシアを地面に下ろす。
「いいか、リシア。俺の魔力を温存しつつ、最短でこの包囲網を突破する方法がある」
「ほ、本当ですか!?」
リシアの瞳に希望の光が宿る。
そうだ、この男は腐っても破壊神。かつて世界を震撼させた知性があるはずだ。
きっと、凡人には思いつかないような素晴らしい秘策が――
「さ、流石はマーク様! どんな秘策ですか?
古代の隠し通路を使うとか? それとも、ゴーレムを停止させる呪文があるとか?」
リシアは期待に胸を膨らませて尋ねた。
マークはニヤリと笑い、親指でリシアを指差した。
「テメェが走って《《敵を引きつけろ》》。その隙に俺が通る」
「…………《《はい?》》」
リシアの思考が停止した。
砂漠の風が、ヒュオオオと寂しく吹き抜ける。
「あ、あの……マーク様? 今、なんと?」
「だから、テメェが囮になれと言ってるんだ」
マークはさも当然のことのように説明を始めた。
「あいつらは俺が作った。思考回路は単純だ。
『侵入者を排除せよ』という命令で動いてるが、優先順位がある。
一番狙われるのは、高濃度の魔力を持った危険分子だ」
マークはリシアの肩をポンと叩く。
「おめでとう、聖女様。
今のテメェは魔力満タンだ。俺は空っぽだから、あいつらから見ればただの石ころと同じ。
つまり、テメェが全力で魔力を放出しながら走れば、あいつらは全員、涎を垂らしてテメェを追いかける」
「そ、そんな……!」
「その隙に、俺が手薄になった入り口から悠々と侵入する。完璧な作戦だろ?」
「どこが完璧ですか!? 私が死にますよ!?」
「安心しろ。そう簡単には死なねぇよ」
マークは有無を言わさず、リシアの背中をドンと蹴り飛ばした。
「行け! 聖女の輝きを見せてやれ!」
「きゃあああああっ!?」
リシアは勢いよく広場の中央へと飛び出した。
瞬間。
ズズズズズ……ッ!
数百体のゴーレムが一斉に起動し、その赤い単眼をリシアに向けた。
『侵入者、検知。魔力反応、高』
『排除。排除。排除』
「ひぃぃっ!?」
地響きと共に、岩の巨体が雪崩のように押し寄せてくる。
リシアは涙目で杖を掲げた。
「こ、来ないでぇぇぇぇッ!!」
リシアは全身から聖なる光を放ち、防御結界を展開しながら、遺跡の外周へ向けて全力で走り出した。
マークの狙い通り、ゴーレムたちは一斉に方向転換し、巨大な魔力源であるリシアを追いかけ始める。
それはまるで、砂糖に群がる蟻のようであり、あるいは地獄の運動会のようでもあった。
「ぎゃあああ! 来ないでえええ!
マーク様のバカァァァァッ!! 覚えてろぉぉぉッ!!」
砂煙を上げて逃げ惑うリシアと、それを追う数百の岩石軍団。
その光景を、マークは安全な高台から見下ろしていた。
「ハハハ、壮観だな。よく走る《《ペット》》だ」
マークは愉快そうに高笑いした。
リシアのおかげで、遺跡の正門は見事にガラ空きだ。
「さて。リシアが頑張ってる間に、家主のお出ましといこうか」
マークはポケットに手を突っ込んだまま、悠然と遺跡の入り口へと歩き出した。
時折、反応が遅れた数体のゴーレムが近づいてくるが、マークはあくび交じりにその脚を蹴り砕き、あるいは拳一つで粉砕して進んでいく。
悲鳴と轟音が響く灼熱の砂漠。
最低で最悪、しかし最も効率的な遺跡攻略が幕を開けた。
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