表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神亡き世界の破壊論 ~全盛期の力を失った男が、再び世界を蹂躙するまで~  作者: KEN.AAA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

第7話『砂塵の行軍と、叛逆の土人形』

「傲慢な破壊神」と「苦労人の聖女」が、腐った世界をぶっ壊して救う話です。

面白いと思ったらブックマーク、評価をいただけると励みになります!

「いやぁぁぁぁぁッ!!」


 リシアの悲鳴が、夕暮れの荒野に響き渡った。

 背後から迫る巨大な岩の塊――(ほこら)の番人たるゴーレムが、侵入者を排除すべく、その丸太のような腕を振り上げたのだ。


 影が落ちる。


 リシアは反射的に身を(すく)ませ、死を覚悟して目を(つむ)った。


 ドォォォォンッ!!


 重たい衝撃音が空気を震わせ、砂煙が舞い上がる。


 だが、待てど暮らせど、リシアの体に痛みは走らなかった。


「……え?」


 恐る恐る目を開ける。


 そこには、信じられない光景があった。


「おい、木偶(でく)(ぼう)。6000年経って挨拶の仕方も忘れたか?」


 マーク・フェルトノートが、リシアとゴーレムの間に割り込んでいた。


 そして、振り下ろされた岩石の巨腕(きょわん)を、片手で受け止めていたのだ。


 魔法障壁ではない。純粋な腕力だ。


 マークの足元の地面が蜘蛛の巣状にひび割れ、陥没しているが、本人は涼しい顔で立っている。


「マ、マーク様……!?」


「あぁ? いちいち叫ぶなリシア、耳障りだ」


 マークは面倒くさそうに言うと、ゴーレムの赤い単眼(モノアイ)を睨みつけた。


「ギ……ギギ……」


 ゴーレムがさらに力を込めようと(きし)む音を立てる。

 だが、マークの腕は微動だにしない。


「俺が作った防衛機構(システム)だ。泥棒除けとしちゃあ優秀だが……」


 ミシッ、ミシシッ……!


 マークが掴んでいるゴーレムの腕に、亀裂が走り始めた。


「俺様に拳を向けるなんざ、不良品(ポンコツ)にも程があるぞ」


 ドガァァァンッ!!


 マークが腕を振り抜く。


 ただそれだけの動作で、ゴーレムの巨体は紙屑のように吹き飛び、(ほこら)の壁を突き破って荒野へ転がっていった。


 岩の身体がバラバラに砕け散り、動かなくなる。

 一撃必殺。魔力など一滴も使っていない。


「……は、はい?」


 リシアは口をパクパクさせたまま、へたり込んだ。

 この男、魔力が空っぽだと言っていたはずだ。なのに、このデタラメな強さは何なのか。


「ふん。(もろ)いな。経年劣化か」


 マークは掌の砂をパンパンと払い、何事もなかったかのように歩き出した。


「行くぞ、リシア。馬車を出せ」

「えっ、あ、はい! ……って、いやいや、ちょっと待ってください!」


 リシアは慌てて立ち上がり、マークの背中に追いすがった。


「指輪! 『起動の指輪』が粉々になっちゃったんですよ!?

 この先の遺跡には、さっきみたいなゴーレムが沢山いるんですよね? 鍵がないのに、どうやって入るんですか!」


 先ほどのゴーレム一体でさえ、リシアにとっては脅威だった。あんなものが軍団で襲ってきたら、ひとたまりもない。

 だが、マークは馬車の御者台に足をかけ、振り返ってニヤリと笑った。


「鍵がないなら、破壊して通る。それが近道だ」

「……は?」

「そもそも、俺の家に俺が入るのになんで鍵がいるんだ?

 扉が開かねぇなら、扉ごと壊せばいいだろ」


 そのあまりに乱暴で、しかし彼の中では一本筋の通った暴論に、リシアは言葉を失った。


 この男に「常識」や「慎重」という言葉は存在しない。


 あるのは、己の道を阻むものは全てねじ伏せるという、圧倒的な「」だけだ。


「さっさと乗れ。日が暮れるぞ」

「うぅ……もう、どうにでもなれ……!」


 リシアは半泣きになりながら、再び馬車へと乗り込んだ。

 目指すは砂漠の遺跡。

 鍵なき侵入者と化した家主による、正面突破が始まろうとしていた。


馬車に揺られること数時間。


 日が完全に落ち、砂漠の冷気が肌を刺すようになった頃、二人は砂海(さかい)の入り口に位置する宿場町『ガルド』へと到着した。


 そこは、遺跡に挑む冒険者や、砂漠を越える商人たちが集まる、喧騒(けんそう)と欲望の街だった。


「……チッ。随分としけた街になっちまったな」


 マークは御者台から街を見下ろし、つまらなそうに鼻を鳴らした。


「6000年前は、この辺りも緑豊かな楽園だったんだがな。人間どもの管理不足にも呆れたもんだ」

「そ、そうなんですか? 今はもう、砂と岩しかありませんけど……」


 リシアは疲れ切った顔で相槌を打った。


 マークに振り回され、強奪した馬車を運転させられ(マークは寝ていた)、心身ともに限界だったのだ。


「とりあえず、今日はここで一泊するぞ。

 砂漠の夜は冷える。人間なんぞすぐに風邪を引いて死ぬからな」

「……はいはい。お気遣いどうも」


 リシアは半眼で答えた。


 言葉は乱暴だが、要するに休ませてくれるということだ。その点だけは素直に感謝したい。


 二人は馬車を預け、街で一番大きな酒場兼宿屋へと足を運んだ。


 ギイィ……と重い扉を開ける。


 ムッとした熱気と共に、酒と汗、そして脂っこい料理の匂いが押し寄せてきた。


 店内は荒くれ者たちで満席だ。


 大声で笑う者、賭け事に興じる者、殴り合いの喧嘩をしている者。


 聖職者であるリシアにとっては、最も縁遠い場所である。


「うぅ……空気が悪いです……」

「そうか? 俺は嫌いじゃねぇぞ、この頽廃(たいはい)的な雰囲気は」


 マークはズカズカと店内を進み、一番奥のテーブル席を占領していた男たちを「退け」の一言と視線だけで追い払い、ドカッと腰を下ろした。


「店員! この店で一番高い酒と、肉を持ってこい!」


 マークの尊大な注文に、店中の視線が一瞬だけ集まるが、すぐにそれぞれの会話へと戻っていく。


 だが、その視線のいくつかは、マークの向かいに座るリシアに粘着質に張り付いていた。


 泥だらけとはいえ、リシアの容姿は際立っている。


 透き通るような銀髪に、宝石のような瞳。そして、聖職者のローブが隠しきれない清楚な美貌。


 このむさ苦しい酒場には、あまりに不釣り合いな「獲物」だった。


「……なぁ、お嬢ちゃん」


案の定、酔っ払った冒険者風の男たちが、ニヤニヤしながら近づいてきた。


 三人組だ。


「こんな場所でシスターのコスプレかい? 随分と熱心なこった」

「あ、あの……私は……」

「連れの男は陰気臭い奴だな。なぁ、俺たちと飲まないか? イイものを教えてやるよ」

 男の一人が、嫌らしい手つきでリシアの肩に手を伸ばす。

 リシアは青ざめて身を引いた。

「や、やめてください!」

「つれないなぁ。神様に祈るより、俺たちと遊んだ方が気持ちいいぜ?」


 下卑た笑い声。


 リシアは助けを求めてマークを見た。


 しかし、マークは運ばれてきたワインボトルをそのまま口に加え飲み続け、我関せずといった態度だ。


(そ、そんな……マーク様……!)


 リシアが絶望しかけた、その時だった。


「……おい」


 ドンッ!


 マークが空になったワインボトルをテーブルに叩きつけた。


 分厚い木のテーブルが、悲鳴を上げてヒビ割れる。


「あぁ? なんだよ兄ちゃん。今、いいところなんだよ」


 男たちが不機嫌そうに振り返る。


 マークは口元の酒を手の甲で拭い、深紅の瞳だけで男たちを射抜いた。


「酒が不味くなる。……消えろ」

 低い声。


 だが、酔いの回った男たちには、その警告の意味が理解できなかったようだ。


「ハッ! 何カッコつけてんだ?

 おい、やっちまえ! このモヤシ野郎を――」


 男が剣に手をかけた、瞬間。

 ガシャンッ!!


 マークが座ったまま、テーブルの上の皿を投擲した。


 皿は男の顔面に直撃し、粉々に砕け散る。


「ぐぎゃあっ!?」


「テメェらの汚い手で、俺のモノに触れようとしてんじゃねぇよ」


マークはゆらりと立ち上がった。


 その全身から、どす黒い威圧感(プレッシャー)が溢れ出す。


「そいつは俺が拾った。

 壊していいのも、こき使っていいのも、拾い主である俺の特権だ。

 雑魚が勝手なマネすんな」


「な、なんだコイツ……! や、やれッ!」


 残りの二人がナイフを抜いて襲いかかる。


 だが、マークにとっては止まって見えるような速度だ。


「遅ぇ」


 マークは一人の手首を掴んでへし折り、その悲鳴を上げる男を盾にして、もう一人の突進を受け止めた。


「ぎゃあああッ!?」


「邪魔だ」


 マークは二人まとめて蹴り飛ばす。


 男たちはピンボールのように店内のテーブルや椅子をなぎ倒しながら吹き飛び、壁に激突して動かなくなった。


 静寂。

 酒場中の客が、呆気にとられて口を開けている。


 魔法も使わず、ただの暴力だけで荒くれ者たちを制圧したのだ。


「ふん。興が削がれた」


 マークはマントを翻し、破壊したテーブルや気絶した男たちに見向きもせず、出口へと歩き出した。


「おいリシア、行くぞ。ここは空気が臭くてかなわん」


 そのまま出て行こうとするマークに、リシアは慌てた。


「あ、ちょっ、マーク様!? お支払いは!?」


 マークは答えない。破壊神に弁償などという概念はないのだ。


 リシアは青ざめて、カウンターの奥で震えているマスターに駆け寄った。


「ここの壊れた家具の代金です。迷惑料も入れてますので、お釣りは大丈夫です」


 リシアはそっと金貨1枚を袋から取り出しカウンターに置いた。


 この金貨は、王都を出る時にこっそり持ち出したなけなしの路銀だ。それが一瞬で消えていくことに涙が出そうになるが、聖職者として食い逃げと器物損壊を見過ごすわけにはいかない。 


「お……おぃ……」


 マスターが呆気にとられた声を出すのと同時に、入り口の扉からマークの怒声が響いた。


「何をしてるリシア! 置いて行くぞ」

「もぉ、マーク様、待って下さい~」


 リシアは慌てて荷物を持ち、マークの後を追った。

 

 店の外に出ると、夜風が火照った頬に心地よかった。


 前を歩くマークに追いつき、リシアは肩で息をする。


「はぁ、はぁ……もう、乱暴すぎますよ……」

「あぁ?」


 マークは不思議そうに振り返った。


「何がだ? 邪魔者を排除しただけだ」

「だからって、お店を壊さなくても……。

 ……でも、その」


 リシアは少しだけ俯き、小さな声で言った。


「……助けてくれて、ありがとうございました」

「勘違いするな」


 マークはリシアの顎をクイッと持ち上げ、至近距離で覗き込んだ。


「俺は、俺のモノに虫がたかってるのが不愉快だっただけだ。

 テメェのためじゃねぇ。俺の気分の問題だ」


「……」


 それはあまりに自己中心的で、傲慢な言い分だった。

 けれど、リシアは知っている。


 この不器用な破壊神が、決して自分を見捨てないことを。


「……はい。そういうことにしておきます」


「ふん。さっさと宿で寝るぞ。明日は遺跡を破壊しなきゃならねぇからな」


 マークは夜の街を歩き出した。


 その背中を見つめながら、リシアは小さく苦笑して、その後を追うのだった。






ここまで読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になる!と思ったら、下の「★★★★★」から評価をお願いします!


出来る限り※毎日22時には更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ