第6話『略奪という名の正義と、朽ちた鍵』
「傲慢な破壊神」と「苦労人の聖女」が、腐った世界をぶっ壊して救う話です。
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王都を出てから三日。
西へ向かう街道を、奇妙な二人連れが歩いていた。
「はぁ……はぁ……、ま、マーク様……少し、休憩しませんか……?」
聖女リシアは、膝に手をついて荒い息を吐いていた。
聖職者用のローブは裾が汚れ、整っていた銀髪も砂埃まみれになっている。
聖女とはいえ、彼女は深窓の令嬢のような育ちだ。
舗装されていない荒野の道を、三日三晩歩き通しというのは過酷すぎる。
「あぁ? もうバテたのか?」
先を行くマークが、心底不思議そうに振り返った。
彼は悠々と歩いているだけに見えるが、その歩幅は大きく、リシアが小走りでやっと追いつける速度だ。
「……あのですね。一般人は、魔力で身体強化して歩いたりしないんです」
「軟弱だな。もう少し頑丈にできてろ」
「私はモノじゃありません! 人間です!」
リシアは涙目で抗議した。
この男、伝説の破壊神のくせに、旅の常識がなさすぎる上に、自分を完全に「モノ」扱いしてくる。
そもそも、目的地が遠い。
「あとどのくらいなんですか、その『起動の指輪』がある場所は」
「もうすぐだ。この先にある宿場町の手前、古い祠に隠してある」
マークは懐から地図を取り出し、指で弾いた。
「いいか、リシア。これから向かう砂漠の遺跡には、俺が配置した防衛システム――『殺戮ゴーレム』どもがウジャウジャいる。
奴らは融通が利かねぇ。指輪なしで入れば、俺だろうがテメェだろうがミンチにされる」
「ミ、ミンチ……!?」
「だが、その『起動の指輪』があれば、奴らは俺を主人と認識して平伏す。無駄な戦闘を避けるための必須アイテムだ」
なるほど、とリシアは頷いた。
魔力が回復しきっていない今のマークにとって、無用な消耗は避けたいところだ。
「なら、急がないと……きゃっ!」
リシアが歩き出そうとした瞬間、足がもつれて転びかけた。
限界だ。足のマメが潰れ、もう一歩も歩けそうにない。
「……チッ。面倒くせぇな」
マークが舌打ちをした、その時だった。
背後から、ガラガラという車輪の音と、馬の嘶きが聞こえてきた。
「おい、そこを退け! 邪魔だ!」
振り返ると、豪奢な装飾が施された馬車が、砂煙を上げて迫ってきていた。
御者台にはガラの悪い男たち。
そして窓からは、見るからに裕福そうな太った商人が顔を出し、葉巻をふかしながらこちらを睨んでいる。
「チッ、薄汚い巡礼者か。貧乏人が道の真ん中を歩くんじゃねぇ! 轢き殺されてぇのか!」
商人が怒鳴ると、御者たちがゲラゲラと下卑た笑い声を上げた。
馬車の荷台には、鎖に繋がれた亜人たちが詰め込まれているのが見える。奴隷商だ。
「ひっ……! す、すみません!」
リシアは慌てて道脇へ避けようとした。
だが、マークは動かない。
むしろ、道の真ん中に仁王立ちになり、興味深そうに馬車を見つめていた。
「……へぇ。 悪くねぇ造りをしてやがる」
「ちょっと、マーク様!? 轢かれますよ!」
「おい、デブ」
マークは商人を指差し、ニヤリと笑った。
「その馬車、俺によこせ」
一瞬、場が静まり返った。
次の瞬間、商人の顔が真っ赤に染まる。
「な、なんだと貴様ァ!? 誰に向かって口を利いている!
私は王都でも有数の豪商、バルバロス様だぞ! 衛兵! やれ! この無礼者を八つ裂きにしろ!」
商人の命令で、護衛の傭兵たちが剣を抜いて馬車から飛び降りてきた。
五、六人の屈強な男たち。リシアが悲鳴を上げる。
「ま、マーク様! 逃げましょう!」
「逃げる? なんでだ?」
マークは心底不思議そうに首を傾げ、一番最初に斬りかかってきた傭兵の剣を――素手で掴んだ。
「――ッ!?」
「遅ぇ」
バキッ!
剣ごと傭兵の腕をへし折り、そのまま襟首を掴んで馬車の方へと投げ飛ばす。
人間が飛んでくるとは思わなかった馬たちがパニックを起こし、馬車が大きく傾いた。
「ひぃっ!?」
「な、なんだコイツは!?」
残りの傭兵たちが怯むが、マークは止まらない。
あくびをするような軽い動作で、次々と男たちを殴り飛ばし、蹴り飛ばし、わずか数秒で全員を砂の上に這いつくばらせてしまった。
「ば、バケモノ……!」
「おい、降りろ」
マークが商人の襟首を掴み、窓から引きずり出す。
商人は地面に転がり、高そうな服が泥だらけになった。
「こ、金か!? 金ならやる! だから命だけは……!」
「いらねぇよ、そんな端金。俺が欲しいのは足だ」
マークはリシアの方を向き、顎で馬車をしゃくった。
「乗れ、リシア。これなら砂漠まで楽に行ける」
「ええっ……!?」
リシアは、気絶している傭兵たちと、震え上がっている商人、そして強奪された馬車を交互に見た。
「マ、マーク様……こ……これって、良いんですかぁ~?」
リシアは半泣きだった。
聖女として、盗みは罪だ。
しかも公衆の面前での強盗である。
「あぁ? 何が良いんだ?」
「だ、だって、泥棒じゃないですか!」
「泥棒?」
マークは鼻で笑った。
そして、荷台に積まれていた鎖を引きちぎり、捕らえられていた亜人たちを解放しながら言った。
「見ろ、こいつらを。人をモノ扱いして肥え太った豚だぞ?
世界がこんなに荒廃してるってのに、自分だけ贅沢三昧とはな。
――こんな奴らに使われるにゃ、この馬車は勿体ねぇ!」
「え……」
「俺が有効活用してやるのが、この馬車にとっても、世界にとっても一番の『論理的解決』だ。
テメェの足を休ませるためだ、感謝して乗れ」
マークの言葉に、解放された亜人たちが涙を流して感謝し、一目散に逃げていく。
商人は腰を抜かして失禁していた。
確かに、結果だけ見れば「悪党を成敗し、奴隷を解放した」ことになる……のだろうか?
「うぅ……論理が滅茶苦茶です……」
リシアはガックリと項垂れながらも、疲労には勝てず、恐る恐る馬車のふかふかなシートに座った。
罪悪感はある。あるが……正直、めちゃくちゃ快適だった。
快適な馬車の旅で、数時間の道のりはあっという間だった。
宿場町の手前。
街道から少し外れた荒れ地に、ぽつんと小さな石造りの祠があった。
「ここだ」
マークは馬車を止め、祠の前で降りた。
6000年の風雪に耐えたその石組みは、今にも崩れそうだ。
「ここに、『起動の指輪』が?」
「あぁ。俺が封印される直前、一番信頼できる結界魔法をかけて埋めた」
マークは自信満々に祠の中に入り、祭壇の下を蹴り飛ばした。
ガコン、と音がして隠し扉が開き、中から古びた金属製の小箱が出てくる。
「あったぞ。俺の魔力にしか反応しない特注品だ」
「す、すごいですマーク様! これがあれば、次の砂漠の遺跡も安全なんですね!」
「おうよ。あの殺人ゴーレムどもをペットみたいに侍らせてやるぜ」
マークはニヤリと笑い、小箱の留め金を外した。
パカッ。
蓋が開く。
「さぁ、6000年ぶりのご対面だ――」
マークの言葉が止まった。
リシアもまた、箱の中を覗き込み、絶句した。
そこにあったのは、指輪ではなかった。
指輪の形をしていたであろう、赤茶色の「粉」だった。
「…………は?」
マークの間抜けな声が響く。
乾燥と経年劣化、そして6000年という絶望的な時間の経過が、金属さえも蝕み、土へと還していたのだ。
風が吹き、箱の中の粉がサラサラと舞い上がって消えていく。
「……あ」
リシアが小さな声を漏らす。
マークは空になった箱を持ったまま、微動だにしない。
「……嘘、ですよね?」
「…………」
沈黙。
しかし、その静寂を破るように、リシアの背後から「ズズズ……」という、重たい岩石が擦れるような音が響いた。
同時に、巨大な影がリシアをすっぽりと覆い隠す。
「え……?」
リシアが恐る恐る振り返る。
そこには、祠の岩壁と同化していたはずの岩塊が、人の形を成して立ち上がっていた。
身長3メートル。全身が堅牢な岩でできた、自動防衛人形。
その単眼が、不気味な赤い光を放ち、侵入者であるリシアを見下ろしている。
「あ、あ、あの……マーク様? 後ろに……」
「あぁ、そういえば忘れてた」
マークは箱の塵をパンパンと払いながら、さも日常会話のように言った。
「ここにも、泥棒除けのゴーレムが一体配置済みだ」
ギギギ、とゴーレムが拳を振り上げる。
指輪を持たぬ者は、すべて排除対象だと言わんばかりに。
「いやぁぁぁぁぁッ!!」
リシアの絶叫が、夕暮れの荒野に虚しく吸い込まれていった。
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