第4話『神の火、人の血、破壊の雷』(修正)
「傲慢な破壊神」と「苦労人の聖女」が、腐った世界をぶっ壊して救う話です。
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その日、王都の空が割れた。
比喩ではない。物理的に、蒼穹が裂けたのだ。
大聖堂のステンドグラスが、高周波の振動で一斉に砕け散る。降り注ぐガラスの雨と共に、天井が半ばから吹き飛び、巨大な光の柱が突き刺さった。
「おお……おおおっ! 見よ! 天使様だ! 天使様が降臨されたぞ!」
瓦礫の中で、腰を抜かしていた司教が狂喜の声を上げた。
光の柱の中を、純白の翼を持った存在たちが、ゆっくりと降下してくる。
先頭に立つのは、燃え盛るような紅蓮の鎧を纏い、身の丈ほどもある大剣を携えた巨躯の天使。
その背後には、無機質な鉄仮面を被り、機械的な動作で槍を構える下級天使の部隊――『能天使』たちが控えている。
圧倒的な神聖さ。そして、生物としての格の違いを見せつける威圧感。
司教は額を床に擦り付け、涙を流して祈った。
「ああ、カマエル様! 七大天使の一柱、『神を見る者』様であらせられますか!
お待ちしておりました! どうか我らをお救いください!
この不届きな悪魔、マーク・フェルトノートに天の裁きを……!」
司教の言葉に、紅蓮の天使――カマエルは、仮面の下から冷徹な視線を向けた。
そして、無造作に大剣を一閃させる。
――ドォォォォンッ!!
爆音が辺りに轟く。
司教のすぐ横、祭壇があった場所が、熱線によって消し飛び、巨大なクレーターに変わっていた。
「ヒッ……!?」
「……煩わしい」
カマエルの声には、感情の一片もなかった。
ただ、羽虫を払うような無関心さだけがあった。
「我は害虫駆除に来たのだ。人間風情が、神の代行者に気安く声をかけるな」
「え……?」
司教は呆然と口を開けた。
救済ではない。慈愛でもない。
彼らにとって人間など、足元の石ころと変わらないのだという事実が、残酷なほど突きつけられる。
「……さて」
カマエルは司教から興味を失い、食堂の瓦礫の上に立つ、黒衣の男へと視線を向けた。
「6000年ぶりだな、フェルトノート。『破壊神』などと大層な名を騙り、神に弓引いた大罪人よ。
貴様が目覚めたという反応を検知し、馳せ参じた。
……まだ寝ぼけているようだが、その首、我が『断罪の剣』で刎ねてくれよう」
「……ハッ!」
マークは不敵に笑い、手に持っていたワインボトルの残りを一気に飲み干した。
空になった瓶を放り投げると、カシャリと音を立てて砕け散る。
「相変わらず堅苦しい挨拶だなぁ、カマエル。
テメェら『能天使』は、いつから害虫駆除業者に転職したんだ?
…あぁ、そうか! 元からか……。思考停止して上からの命令に従うだけの、能無しの人形どもだもんな」
マークの挑発に、カマエルの背後に控えていた十体の能天使たちが一斉に殺気を放つ。
「総員、殲滅せよ」
カマエルの無機質な命令と共に、能天使たちが急降下を開始した。
彼らは人間を遥かに超える身体能力で、光の槍を構え、マークへと殺到する。
「リシア。下がってろ」
「えっ、マーク様!?」
マークはリシアを背後に押しやった。
「俺の所有物に傷がついたら価値が下がる。そこで見てろ」
「ひゃいっ!」
マークはあくび混じりに足を踏み出し、襲い来る光の刃の嵐へと突っ込んでいった。
――激突。
先頭の能天使が突き出した槍を、マークは素手で掴んだ。
ジュッ、と皮膚が焼ける音がするが、マークは眉一つ動かさない。
「遅ぇよ」
バキィッ!!
槍を掴んだまま強引に引き寄せ、がら空きになった能天使の顔面へ、裏拳を叩き込む。
鉄仮面がひしゃげ、中身ごと頭蓋が粉砕される生々しい音が響いた。
能天使は声もなく吹き飛び、大聖堂の柱をへし折って絶命する。
「まずは一匹」
マークは奪い取った光の槍を逆手に持ち、背後から迫っていた二体目へ投擲。
閃光のような速度で放たれた槍は、能天使の胸部を貫通し、そのまま三体目をも串刺しにして壁に縫い付けた。
「な……ッ!?」
生き残った能天使たちが、空中で急停止する。
魔力が枯渇しているとはいえ、腐っても元十二天使。
格闘戦の技術、魔力の運用効率、戦場の支配力――すべてにおいて、マークは「格」が違った。
「どうした? 連携も取れねぇのか?
6000年前の戦争じゃ、もう少しマシな動きをしてたぜ?」
マークは指先から黒い霧を発生させ、それを無数の針に変える。
「『黒針』」
ヒュンヒュンヒュンッ!
放たれた黒い針は、正確無比に能天使たちの「翼の付け根」と「喉元」を貫いた。
次々と撃ち落とされる天使たち。
ものの数分。
大聖堂の床には、十体の能天使の骸が転がっていた。
「ふぅ……。準備運動にもなりゃしねぇ」
マークは肩を回し、挑発的にカマエルを見上げる。
だが、その額にはうっすらと脂汗が浮かんでいた。
(……チッ。今のだけで、スープ一杯分のカロリーは使い切っちまったぞ。燃費が悪すぎる)
そんなマークの焦りを見透かしたように、カマエルがゆっくりと大剣を構えた。
刀身から噴き出す紅蓮の炎が、周囲の空気を歪ませる。
「流石だな、フェルトノート。だが……息が上がっているぞ?」
ドォォォォンッ!
カマエルが羽ばたき一つで加速する。
先ほどの能天使とは次元の違う速度。
マークは反応し、両腕をクロスさせてガードするが――
「ぐぅッ……!」
重い。
山が降ってきたかのような衝撃。
マークの体は砲弾のように弾き飛ばされ、大聖堂の壁を突き破り、中庭へと転がり出た。
「マーク様!」
リシアが叫び、崩れた壁の穴から飛び出す。
土煙の中、マークは片膝をついて立ち上がろうとしていたが、その両腕は赤く焼け焦げ、燻っていた。
「……効くじゃねぇか、脳筋野郎」
「終わりだ。貴様の魔力は既に枯渇している」
カマエルが追撃してくる。
上空からの袈裟斬り。
マークは黒い魔力で盾を作るが、カマエルの大剣に纏わせた「聖なる炎」が、マークの闇をジリジリと焼き消していく。
「貴様の闇など、我が聖炎の前では無力!」
「ち……ッ!」
押し負ける。
力比べになれば、今のマークに勝ち目はない。
黒い盾が砕け、剣圧がマークの肩を裂く。鮮血が舞う。
「死ね、破壊神!」
カマエルがトドメの一撃を振りかぶる。
回避は間に合わない。
防御する魔力も残っていない。
絶体絶命の瞬間――マークの視界に、こちらへ駆け寄ろうとする銀髪の少女が映った。
(……あぁ、そうか。そこに『予備魔力』があるじゃねぇか)
マークはニヤリと笑った。
「リシアァッ!!」
「は、はいっ!?」
「こっちへ来い!」
マークはカマエルの剣を紙一重で躱すと、転がるようにリシアの元へ駆け寄り、その細い腕を強引に引き寄せた。
「え、きゃっ!?」
「じっとしてろ。……少し、貰うぞ」
マークはリシアを抱き寄せると、その首筋に顔を埋めるようにして、自身の額をリシアの額に押し当てた。
――接触。
瞬間、リシアの全身を電流が走ったような衝撃が襲った。
「あ、あぐっ……!? な、なに、これ……熱い……!」
「悪いな。所有物の魔力は、持ち主のモンだ」
それは、略奪に近い魔力譲渡の連結。
聖女として積み上げてきた膨大な清浄な魔力が、濁流のように吸い出されていく。
リシアの視界が明滅し、膝から力が抜ける。魂ごと持っていかれるような感覚。
だが、不思議と不快ではなかった。
空っぽだった器に、強引だが絶対的な「支配」が満ちていくような高揚感。
「命拾いしたな、小娘。テメェは極上の『魔力の持ち主』だ」
マークがリシアを離す。
リシアはその場にへたり込んだが、その瞳には驚愕の色が浮かんでいた。
目の前の男の気配が、変わった。
先ほどまでのガス欠状態とは違う。
溢れ出る漆黒のオーラが、天を衝くように立ち上り、周囲の空間を歪めている。
「な……貴様、何をした!?」
カマエルが驚愕し、動きを止める。
マークは全身に黒い雷を纏いながら、ゆっくりと、そして傲慢に歩み寄った。
焼かれた腕の傷は、既に塞がっている。
「おいおい、カマエル。
人間は害虫じゃなかったのか?
リシアから吸い上げた魔力にビビってんじゃねぇよ」
マークが右手を天に掲げる。
上空の雲が渦を巻き、黒く染まっていく。
それは、単なる爆破ではない。
カマエルという強敵を屠るための、収束された破壊の光。
「消し飛べ。神の威光ごと、な」
カマエルが本能的な恐怖を感じ、全速力で回避行動を取ろうとする。
だが、遅い。
「『 神をも墜とす黒き雷』
ドゴォォォォォォォンッ!!
天から、漆黒の雷撃が直下した。
それは雷というより、空から落とされた巨大な黒い柱だった。
カマエルの防御障壁が紙のように破られ、紅蓮の鎧が砕け散る。
「ガァァァァァッ!!? バ、馬鹿なッ! この出力は……!!」
カマエルの絶叫が雷鳴にかき消される。
中庭の地面が蒸発し、王都全体が揺れるほどの衝撃波が広がる。
数秒の後。
黒煙が晴れたそこには、片翼をもがれ、鎧の半分を失って血まみれになったカマエルの姿があった。
「はぁ……はぁ……ッ! 貴様……!」
カマエルは片膝をつき、憎悪と恐怖の入り混じった目でマークを睨みつけた。
直撃を受けた右半身は炭化し、大剣も折れている。
「しぶといな。流石は七大天使ってところか」
マークは追撃しようと一歩踏み出すが、ぐらりとよろめいた。
リシアから奪った魔力も、今の一撃ですべて使い果たしてしまったのだ。
「……チッ。今日は引き分けにしておいてやるよ」
マークが強がりを言うと、カマエルもまた、これ以上の戦闘は不可能だと悟ったようだった。
残った片翼を広げ、悔しげに空へと舞い上がる。
「覚えておけ、フェルトノート……!
そして愚かな人間どもよ!
次に会う時は、天軍のすべてをもって貴様らを灰燼に帰してやる!」
捨て台詞を残し、カマエルはいずこかへと飛び去っていった。
静寂が戻る。
半壊した大聖堂の中庭で、マークは大きく息を吐き、ドサリと芝生の上に仰向けに倒れ込んだ。
「……あー、クソ。疲れた」
「マーク様……」
リシアがフラフラと近寄ってくる。
マークは寝転がったまま、顔だけ動かしてリシアを見た。
そして、ニカっと笑う。
「悪かったな、無理やり吸い出して。
……だが、悪くねぇ味だったぜ。リシア」
その言葉に、リシアは顔を真っ赤にして、へなへなとその場に座り込んだ。
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