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魔女国の騎士~役立たず認定された聖女(♂)、魔女の国に行く~  作者: 神田柊子
第三章 魔女国の騎士

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閑話:聖女グラディスと王太子ヴィンセント

 グラディス・ピーノはため息をついた。

 支度をしてくれたメイドが心配そうに見るが、「何でもないわ」と首を振って、部屋を出る。

 王太子ヴィンセントが『結界の補修』の視察に訪れるようになって、今まで以上に治癒力を使わなければならなくなった。

 王太子妃争いでグラディスと敵対しているガートルード・リッシュは、最後を務めているため、ほぼ毎日倒れている。

(彼女は自分から王太子妃を目指しているのだから、好きにすればいいわ)

 ヴィンセントから見舞いの花が届いたなどと自慢しているが、馬鹿馬鹿しいとグラディスは思う。

 いいように酷使されているだけだ。

(あの殿下の冷たい目……! ガートルード様は見ていないのかしら)

 ガートルードは、ティム・ガリガがいなくなってからヴィンセントが妃選びに本腰を入れたと思っているようだ。しかし、グラディスからは、ティムが不在の間に彼の敵を潰しにきたように見える。

 ガートルードが『結界の補修』で倒れてしまうため、必然的に施療院の当番はグラディスが中心になってしまった。

 グラディスは自派閥の聖女たちと一緒に施療院に向かった。

 今日もヴィンセントが視察に来ている。

「殿下、お忙しいのに毎日お越しいただかなくても、呼び出してくだされば、わたくしたちがいつでも出向きますのに」

「いや。今はこちらに注力するように陛下からも言われている。忙しいのは君たち聖女のほうだろう?」

 穏やかな口調だが、やはり目の奥は冷ややかだ。

「今日は新しい魔道具を持ってきた」

 聖女一人一人につく補佐の神官が、患者が座る椅子の横の小机に何か魔道具を設置していた。

「これは何でしょうか?」

 グラディスは恐る恐る尋ねる。――ガートルードが毎回倒れているのは、結界の傷を調べる魔道具で完遂まで治癒力を使わされるからだ。

「身体の不調がわかる魔道具だ。これで完全に治癒できたかどうかがわかる」

「え、ええ、そうなのですね……」

 グラディスは血の気が引く。

 これで、ガートルードと同様にグラディスも治癒力を搾り取られるのだろう。

 魔道具と繋がっている棒状の金属を患者が両手で持つと、魔道具の人体図が光って不調がある場所を知らせる。その光が全て消えるまで、治癒力を使わされた。

 案の定、グラディスは十人ほど治癒したところで気を失った。

 治癒力を使い果たして目の前が暗くなる感覚は、普通の貧血とは全く違う。このまま続けたら死んでしまうのではないだろうか?

 ヴィンセントから見舞いの花が届き、グラディスは震えた。

 翌日、施療院に着くと、グラディスはヴィンセントに声をかけた。

「殿下、お話がごさいます」

「ああ、場所を移そうか?」

 進めていてくれ、と言われた他の聖女たちが恨めしそうな視線を向けるが、グラディスは構わずにヴィンセントに続いて外に出た。

 施療院の裏に回る。ヴィンセントは近衛騎士を連れている。グラディスの傍らにはメイドも侍女も、派閥の聖女もいない。心細さを押し殺して、グラディスは口を開いた。

「殿下、お願いがございます」

「願い? それは何かな?」

「わたくしは聖女も王太子妃も辞退したいのです。けれど、父がそれを許しません。どうか殿下から父に命令していただけませんか?」

 グラディスがそう伝えると、ヴィンセントは考えるように腕を組んだ。

「そう、ピーノ公爵令嬢は辞退するのか……。その場合、リッシュ公爵令嬢が王太子妃の最有力になるけれど、君はそれでいいのかな? リッシュ公爵令嬢が社交界のトップで納得できるのか?」

「それは……」

 グラディスは言葉に詰まる。

 長年ライバル視してきたガートルードを王太子妃いずれは王妃として敬うなんて、グラディスには難しい。

 相手がガートルードじゃなければまだ可能だが、彼女の普段の態度は全く尊敬できない。

「ピーノ公爵令嬢はもうわかっているだろう?」

 ヴィンセントが微笑む。青みを帯びた銀髪がさらりと揺れ、グラディスは場違いにも一瞬見惚れる。

「私は王太子妃選びのために教会に来ているんじゃない」

「ティム・ガリガの復讐でしょうか?」

 グラディスが思わず口にするとヴィンセントは虚をつかれたように目を見開き、そのあと笑った。

「ははっ、おもしろいことを言うね。自覚があったんだな」

「も、申し訳ございませんっ!」

 余計に怒らせたと気づき、グラディスは頭を下げる。

「君は父親に逆らえないから、そしてガートルードが気に食わないから、王太子妃候補であり続けた。聖女にも王太子妃にも興味がないんだろう? だから、国民にも興味がない。――それでは王族に相応しくない」

「…………」

「少し治癒力を使う仕事をさせただけで、すぐに音を上げるしね」

「ですが、倒れるほどなんて……」

 反論が口をつく。顔を上げたグラディスを見るヴィンセントは心底冷たい目をしていた。

「ティムはそれをほとんど一人でやっていたんだが?」

「あっ……」

「それでも、彼が役立たずだと言えるのか? ティムやディアドラ前大聖女に仕事を押し付けて楽をして、貴族からの賞賛だけさらっておいて、今さら聖女を辞めたいだって? 笑わせる」

「も、申し訳ございません……」

「謝るのは私に?」

「いいえ、ティム・ガリガ、殿にも、必ず謝罪いたします!」

 グラディスは必死で頭を下げた。

「君はリッシュ公爵令嬢より賢いようだから、機会を与えよう。明日からはリッシュ派の聖女も全員、施療院に連れてくるように」

「全員ですか?」

「そうだ。君ならできるだろう?」

 期待ではなく命令だ。

 凍えるような笑顔を向けられて、グラディスは「必ず!」と約束したのだった。

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