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魔女国の騎士~役立たず認定された聖女(♂)、魔女の国に行く~  作者: 神田柊子
第三章 魔女国の騎士

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閑話:捕えられたシェリル

 魔力を封じる手枷を付けられたシェリルは、ティムが殴られるのを見た。

「ティム!」

 気を取られた瞬間、眠り薬を嗅がされて気を失った。

 次に目が覚めたのは、豪華な部屋のベッドの上だった。

 シェリルが魔法で出すものよりふかふかのベッドだ。

「お目覚めになりましたか?」

 シェリルが身じろぎしたのに気づいたのか、人間の三十代くらいのメイドが声をかけてきた。

 言葉は丁寧だが、シェリルを見下ろす視線は蔑むようだった。

「ここは?」

 シェリルはそう尋ねたのに、メイドは無視して「知らせて参ります」と身を翻した。彼女が部屋から出て行くとき、鍵のかかる音がした。

 シェリルはため息をついて起き上がる。

 手枷はそのままだが、着衣も変わらない。シンシアのように切られてもいなかった。

 ベージュでまとめられた部屋は豪華だが落ち着いた雰囲気だ。ベッドの他に、ソファセットや鏡台、飾り棚などがあった。カーテンが開いていたが、窓には金属の格子が嵌っている。

(閉じ込めるための部屋ってわけね)

 ティムはここにはいなかった。

「無事だといいけれど……」

 さっさと手枷を壊してティムを探しに行かなくちゃ、とシェリルが思ったとき、誰かが鍵を開けた。

 部屋に入ってきたのはバーズキア国王だった。近衛騎士をずらずらと十人以上も連れている。

 王には何度か会ったことがある。

(せっかくだから、直接忠告しておこうかしら)

 シェリルはそう思って、手枷を壊すのをやめた。

 王はにやにや笑いながら、ソファに座った。ベッドの脇に立っているシェリルを見る。

「ヘンリエッタと同じ髪色か。やはり、濃い緑は不吉な色だな」

「どういう意味かしら?」

「濃い緑髪は魔女の色。魔女の色は不吉な色」

 詩のような語調で王は言う。シェリルは片眉を上げた。

「魔女のことを不吉と呼ぶのに、不老不死の妙薬だと思っているの?」

「大陸一歴史のあるバーズキア王国に伝わる話だ。我が王家は女神アンジェリーナの血を引いているのだぞ!」

「馬鹿馬鹿しい。アンジェリーナは魔女よ。血を引く子どもはいないわ」

 シェリルが言い捨てると、王は鼻で笑った。

「これだから魔女は」

 話にならないわね、とシェリルは早々に切り上げる。

「魔女の心臓に不老不死の効果なんてないわ。人間が魔力に触れたら危険よ。魔女を襲うなんて二度としないことね」

「囚われの身で口ごたえなど、図々しい。不老不死の効果はお前の心臓で確かめてくれるわ」

 王の近くにいた騎士がテーブルの上に一抱えもある箱のようなものを載せた。

「ああ、魔法を使えなくする魔道具かしら? さっきもそれを使ったのね」

 大規模魔法が使えない魔道具だ。謁見の間では全て吹き飛ばそうとしたから魔法が発動しなかったのだ。

「すいぶんと余裕そうだな。魔力は封じてあるが、さらに魔道具に仕込んだ魔法も使えないのだぞ? 魔法を使えない魔女など、ただの小娘だろうが。子どもは魔力が少ないと言うから育つまで待ってもいいが、何十年も待つのは面倒でな。悪いがすぐに心臓をとらせてもらう」

「ねぇ、私の連れはどこ?」

 シェリルは王の戯言を聞き流し、代わりにティムのことを尋ねた。

 王がしゃべってくれるなら捜索が楽になる。

「ああ? あの護衛か? 勇者の剣を持って来てくれるなんて気が利くやつだが、弱すぎだな」

 王は腰の剣を外してシェリルに見せつける。

 それは、毛玉がティムに与えたリオネルの剣だ。

 シェリルは剣を目にした瞬間、自分の中の魔力が沸騰するような怒りを覚えた。

「その剣をあなたが手にしていいと思っているの?」

 低くなったシェリルの声に気づかず、王はガハハと下品に笑う。

「あいつは牢にぶち込んである。なぁに、すぐに後を追わせてやるから心配するな」

 シェリルは魔法を封じる魔道具の上に、魔法で(・・・)ハンマーを出した。このくらい小さな魔法はすり抜けるのだ。

 すぐにハンマーを振り下ろし、魔道具を潰す。

 ありったけの魔力を手枷に流すと、バキッと音を立てて割れた。手枷はするりとシェリルの手首から落ちる。

「なっ、何だと!?」

 王が焦った声を上げた。

 シェリルは一歩踏み出し、腕を振って近衛騎士を全員吹っ飛ばした。

「貴様! 何をする!?」

 シェリルは王の手からリオネルの剣を魔法で取り上げると、彼の前まで一瞬で飛んだ。

「ひぃっ!」

 それから、悲鳴を上げる王の身体を宙に持ち上げる。

 後ろ襟を掴んで持ち上げた状態だ。首が締まった王はもがいた。

「ねえ、この剣に誰が触っていいと言ったの?」

「う、ぐっ、苦し……」

 シェリルの中の魔力が――『魔の泉』に溶け込んだアンジェリーナの想いが許さない。

 ここに毛玉たちがいたら、この王はすぐさま干からびて死んだだろう。

 そのとき、部屋の外でバタバタと走る音がした。

 それでシェリルははっとする。

 鍵がかかっているためすぐには開かないようだが、扉の外に人が集まってきている。

 魔法を解くと、王はどさりと床に落ち、激しく咳き込んだ。

 シェリルは王の肩を蹴って転がす。その胸の上に足を載せた。

「リオネルの剣に触れるのを許されているのはティムだけよ」

「っ! ううっ!」

「お前がティムを傷つけたことを魔女は忘れない。お前の魂は、魔物の森を永遠に彷徨うだろう。お前は二度と人の生には還れない。魔女が森から帰さない。心して死ね」

 シェリルは初めて魔女の呪いをかけた。

 一転、優しい声音に戻すと、

「さあ、今は眠りなさい。このことは全て忘れるの。いいわね?」

 王はすうっと目を閉じて、眠りに落ちた。

 これで、彼はシェリルとのやりとりを忘れるだろう。

 シェリルは微笑んで、顔を上げた。

 窓のある壁に向かって片手を振ると、壁が外に崩れ落ちた。

 風が勢いよく吹き込み、シェリルの常盤色の髪を巻き上げた。

 シェリルはスカートを翻し、ぶち抜いた壁から外に飛び降りる。

 ――ローランドとヘンリエッタの二人に会ったのは、降りた先の裏庭だった。


 ティムは知らない話だ。シェリルが彼に話すことはこれから先もない。

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