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第3話:そこで寝たくはない!

 川崎との会話が終わると、自分の机に戻った。暫くしてから、別の社員達が一人一人オフィスに入ってくる。


 「あ、れんさん。結構早いね」


 と背中をパッと叩く同僚の空野そらの陽人はるひと。同期の彼との仲は悪くない。そして性格は僕と違って元気で明るい。


 「まあ、締め切りが迫っているので」


 「うんうん。しかも、あのメールを見た?また予算を弄って直さなきゃ…ふう、だっる」


 本当の早く来た理由を別の事実で誤魔化しながら、仕事について話す。







 そして、忙しい一日を過ごしたら、夕暮れの太陽がオフィスを紅く照らす時がやって来て、周りが段々静かになる。ふと気づくと、人は数人しか残っていない。残業している中、川崎が僕の机にやってきた。


 「雲山君、さっき依頼した書類です」


 と、書類を僕に手渡した。


 「ありがとうございます」


 「いつ上がりますか?例の件についてお話したいんですが」


 やっぱり寝場所ガイドのことか…


 「まぁ、仕事は中々進んでいましたので、今上がっても大丈夫だと思います。どこで話しますか」


 「このカフェはどうですか」


 携帯の画面を見せ、近くにある小洒落たカフェが映される。今日はあまり何も食べなかったので、カフェはいいと思う。


 「うん、そこで会いましょう」


 「連絡先は?詳細を送りますので」


 そして、川崎と連絡先を交換した。実は、会社のメールで連絡は可能なんだけど、流石に仕事以外の件で会社のメールを使わない方がいい。


 「…出来ました。それでは、またカフェの外で」


 と川崎が歩き去っていた。


 片付けた後、帰宅をする。しかし、ビルから一歩出た瞬間、携帯の通知がピピンと鳴り出した。


 『私は一旦帰ってから合流します。雲山君そうした方がいいと思います。8時はどうですか』


 あ、そうだね。僕も一旦帰りたい。いや、正確に言うと、ベッドに潜って眠りたい。結構疲れてる。だが、予定はもう決まっているので、しかたはない。


 『OKです。僕もそうします』


 と返事を書いて送った。


 暫くしてから、アパートに辿り着いた。ロックに鍵を回し、二日ぶりに上がる。今は午後7時18分。カフェまでは多分20分ぐらいかかるので、残っている時間でシャワーを浴びて着替えることにした。トップスはネイビーのチェックシャツで、ボトムスは黄土色のカーゴジョガーパンツ。


 そこでアパートを出かけ、川崎が勧めたカフェへ向かう。これは彼女のブログの為とは言え、ちゃんと手伝えるかは自信がない。さっきの会話によると、僕の役割は新しい寝場所を考えていることだよな。だが、いったいどんな場所は「面白い」なのか、想像もつかない。


 カフェに近づき、道を行き交う人の中で川崎を探す。すると、カフェのウインドーで携帯を弄っている女がいた。髪は長いめのボブで、服はオバーサイズな灰色いパーカーに、よりくすんだグレーのスウェットパンツ。それに加えて、後ろにはバックパックを背負っている。想像したより落ち着いたスタイルだけど、それは間違いなく川崎。


 「川崎さん」


 名前を呼ぶと、川崎が頭を上げて僕の存在に気付く。携帯をポケットに詰める次いでに壁から離れた。


 「あ、来ました。それでは、行きましょう」


 と、僕達は小洒落たカフェの中に入る。席に案内された後、ウェイターさんからメニューを貰う。注文を決めたら、川崎は本題に移す。


 「まず、雲山君は準備しなければいけませんね」


 「準備?寝場所を考えることには、準備は要りますか?」


 「いいえ、寝場所を試すためですよ」


 「やっぱり僕もですか…」


 変な寝場所を考えることだけじゃなく、本当にそこで寝てしまうことも僕の責任に含まれているらしい。


 正直、川崎の安全が心配ながらも、普通にベッドで寝たい。仕事の一日が終わるたびに疲れ果てている。寝場所を見つけることは出来そうな一方で、実際に試すのはちょっと抵抗がある。ブログの投稿を参考にすれば、川崎が求めている場所の多くは寝やすい場所ではなさそう。


 「はい。なので、雲山君用のミニ・キャンプ・キットを用意しました」


 バックパックからその半分のサイズの鞄を取り出して僕に渡した。ちょっと重い。チャックを開けてみると、紺色の布と何かの筒を見える。


 「昨夜見たテントと同じキットです。実はそれはスペアですけど、私が作りました」


 「テントを?」


 「はい」


 「ほー…」


 確かにそう言われると素材は昨日見たのと似ている。しかし、川崎がこのテントを作った?すごいな…


 今はカフェの中なので全部を取り出せないんだけど、感心した。


 「凄いですね?寝る気分になりました?」


 「いや、疲れているので、最初から寝る気分でした」


 変な質問を正直に答えた。


 「そうですか。よかったですね。では、今回の寝場所を紹介いたします」


 ビジネスっぽく携帯の画面を僕に合わせた。昨日は会社の屋上だったので、今回は…いや、見当もつかない。


 「路地裏にあるゴミ処理場でございます」


 「…は?」


 何?


 画面に映されたのは、狭くて暗く、ゴミ袋や廃棄された電気製品で雑然状態の路地裏。しかも照明も薄くて、正直言うと、怪しいにしか思えない。川崎はこんな所で…寝たい?もしかして、いつもプロフェッショナルに見えそうな同僚は実にとんでもない罪人だったのか?このブログの手伝いをやっても大丈夫?


 「大丈夫ですよ。私は直に確認しましたので、この場所は写真そっくりです」


 いや、心配点はそこじゃない!むしろ、もっとに心配になる!


 「あの…」


 「あ、そして、誰も来ない場所なので、怪しい人物が現れる確率は低いと思います。問題ありません」


 唖然と麻痺しているうちにウェイターさんが二枚の皿を手に持って戻りました。


 「川崎さん、その…本当にこんな場所で寝るつもりですか」


 「勿論です。だって、面白いではないんですか」


 確かに会社の屋上で似たようなこと言ったよな…屋上で寝るのは面白いって。更に悩み込むより、注文したホットサンドを頂くことにした。


 どうして手伝うことにしたっけ?あ、そうだった。危ないだからこそ手伝っている…川崎に何かがあったら罪悪感で仕事に集中できなくなるだろう。


 「臭くないんですか」


 別の心配について尋ねてみた。


 「ちょっとですね。でも、それも経験の一部ですよ」

 

 妙に輝いている瞳で答える川崎。


 「…他の選択肢はありませんか」


 「これほど面白い選択肢はありません。雲山君の初めての手伝いなので、いい所にしたいんです」


 「あそ…」


 要らない。そんな気遣いは。


 彼女の変わった考え方を分かろうと頑張りながら食べ続けていた。


 そして、食事を済ませてカフェを出かけると、川崎に案内される。その途中で街灯の橙色照明の下で仕事について談笑する。


 辿り着くと、川崎が一歩を下がり、片手で路地裏を差す。凄いでしょう!?と言わんばかりに胸を張った。「面白い」場所を見つけたことで自慢しているらしい。


 「ふふ、御覧になってください!」


 「あ、ああ…」


 結局写真通り。道の街灯で路地裏は薄く照らされているが、それ以外は真っ暗のままであった。路地裏の奥底は全然見えない。加えて、狭いくせにめちゃ込んでいる。多くのゴミ袋をはじめ、捨てられた電気製品、数えたくない缶とボトル、そして生い茂った雑草。所々で他のランダムな廃棄物も散らかしてある。


 もしかしてここで殺されるのではないか?この場所は怪しすぎる…


 固唾を飲み、渋々と路地裏に一歩を踏み出した。


読んでいただき、ありがとうございました!

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