3話-相性問題
雨が降っている。
十年に一度の大雨らしい。
テレビのアナウンサーはそう言って警戒を呼びかけていた。
私は花守優華が流されてしまうと思い、家から飛び出していた。
私はいつも花守優華がいる場所へと箒で飛んで向かう。
水の勢いは激しかった。
近くの川は今にも溢れそうだった。
花守優華がどこにも見当たらないので、箒から降りて冠水した道路を歩く。
そうこうしているうちに、水かさがどんどん増してきた。
「本格的にまずいわね…」とそう私は呟いた。
私は箒を出して、いつもの廃墟を探す。
しかし、花守優華はいない。
その後、スラム街で一番高い塔へと向かった。
そこに花守優華は居た。
私は「助けに来たわ」と言う。
花守優華はおびえた顔で「私、泳げないから落とさないで…」と言う。
「大丈夫、捕まっていれば」私はそう言うと、花守優華を箒の後ろに乗せて、飛び立つ。
しかし、私に箒の二人乗りは経験が無く…。
私はそのまま堤防が決壊して、水没したスラム街へと落ちた。
私はもう、息が続かない。
もう、ダメだわ…。
そう覚悟をし、せめて優華だけは助かって…。
泳げないって言っていたから無理だろうけれども…。
そう思案している時だった。
急に水が真っ二つに割れた。
そこにいたのは、秀島咲奈だった。
「なにしてんのバカなの?あんたバカ?」秀島咲奈はそう言って、水の割れ目にいる私と花守優華を引き上げた。
花守優華は気絶していた。
私は気まずかった。
でも言わないといけない一言を言った。「ありがとう…。咲奈」
秀島咲奈は箒で気絶した、花守優華を運んで、私は一人で箒に乗って秀島咲奈へとついて行った。
秀島咲奈は言う。「それでこの子。どこの病院に連れて行けば良いの?」
私は「どこがいいんだろう?」と答える。
秀島咲奈は続けて「私の父もあんたの父も災害対応で忙しいから頼れないし…。どうするの?」と言い私を急かす。
私は地図を開き少し遠目の軍病院を指して、「ここに行けば何とかなりそう」と言った。
秀島咲奈は言う。「その根拠は?」
私は答える「ただの直感」と。
呆れた様子の秀島咲奈だったが、「分かった。取りあえずそこへ行こう」と言い同意をしてくれたようだった。
少し遠めの軍病院へ着いた。
秀島咲奈は言う。「この子が溺れていて意識が戻らないんですが…、見てもらえませんか?」と言う。
軍病院は騒然となる、 何故なら治安維持で派遣がなされている軍高官の娘が二人も同時に来たからだ。
軍病院の医師達が慌てて集まってきた。
医師の一人は言う。「患者はどこにいる」
秀島咲奈は背負っていた、花守優華を降ろして「この子です」と答える。
患者の姿を見た医師は少し困惑したようで、「明らかにスラム街に住んでいる子だよね」と言う。
在川望は「仲良くなるのに、そういうのは関係ないので。診てもらえますよね?」と言う。
医師は渋々といった様子で「わかりました…」と言い、花守優華を担架に乗せて運んでいった。
その直後だった。
花守優華は目を覚ます。
花守優華は「え?」
私は花守優華に駆け寄って「よかった無事で…」
花守優華は「一緒に死んでしまった訳じゃ無いよね…」と言う。
私は「それはそれでよかったけど、でもまた会えたのはうれしいよ」と言う。
秀島咲奈は「ふたりとも、氾濫した川に落とされたいんですか?」と明らかに怒った顔でこっちに近づいてきた。
私は「ごめんなさい。助けてもらって嬉しいです」と言う。
秀島咲奈は「じゃあ、二度とあんなこと言わないで」と言った。
花守優華を運ぶために担架を持ってる二人の医師は「三人とも。騒ぐなら外でやってもらえる?」と言い三人を外へと追い出した。
花守優華は「なんで、咲奈は私を背負って箒で飛べたんだい?」と秀島咲奈に聞く。
秀島咲奈は「私の母は魔法界の出身でお見合いで私の父と出会ったんです。なので、望の母より魔法の実践経験が豊富ということなんです。だから、のぞみんは上手くいかなかった箒の二人乗りも私ならうまく出来るんです」とドヤ顔で言う。
私は「私の母だって、生まれは魔法界だし…、関係なくない?」と反論する。
秀島咲奈は「私の母は生まれも育ちも魔法界だけど、のぞみんの母は育ちは一般界じゃない…。二人で使う魔法の実践練習はどうしていたのかな?」と言った。
そこまで言われると、私だって反論が出来なかった。
私は「もういいよ…、私は帰るわ。今日のことを報告して怒られてくるから」と言い、箒を使って飛び去ろうとした。
花守優華が唐突に私の手を引いた。
私は「どうしたの?私、急いでいるんだけど…」と言い、手を振り払おうとするが、花守優華は離さない。
花守優華は「助けようとしてくれてありがとう…」と言う。
私は「失敗してしまったけどね…」と言う。
花守優華は「私も一緒に謝るから、ついて行っていいかな…」と言う。
私は「いいけど、何故?優華は悪くないよね?」と言う。
花守優華は一人で帰ろうしている秀島咲奈を捕まえて。
「一緒に行きますよ」と言った。
私が花守優華と秀島咲奈を連れて、家に帰ると何故か秀島咲奈の父親である秀島透がいて、在川浩二も軍靴を履いた足で床にコツコツ音がなるような貧乏揺すりをしていた。
在川浩二は私の頭を辞書で思い切り殴った。
そして「バッカも~ん!!!!」と言った。
在川浩二は「勝手に助けに行って、失敗して溺れて秀島咲奈にまで迷惑をかけて、その上に軍病院で騒いだんだって?いい加減にしろ。お前はどれだけ周りに迷惑をかければ気が済むんだ!!!!」と言った
父の言うことは的確だった。
私は「ごめんなさい…、でも、花守優華が死んでしまうのが嫌だった…。あの地区はきっと救助活動も後回しだろうから…」と涙ながらに言う。
在川浩二は「お前がいなくなったって、メイドから聞いて私は仕事を中断して、探したんだぞ。その間にどれだけ多くの人が死んだか…。その事を分かっているのか。人の命は大切だ。お前は多くの人を間接的に殺したんだぞ」と言う。
私は「一人の命が大切なら、私は優華がいなくなるのは寂しくて耐えきれない。だから、助けに行く」
在川浩二は「お前一人では結局、失敗してるじゃ無いか」と言って、私を責めた。
私は言い返す事が出来なかった。
在川浩二は続けて、「病院は体調の悪い人が行くところだ、だから、騒いだりしたらダメだ。って小さい頃に教えたよな?あの頃よりも幼児退行して、本当にお前は…」と言った。
私は「それは本当に、ダメだったと思っております…。以後気をつけます」と答えた。
在川浩二は「分かったなら、よろしい」と言い、そのまま部屋を出た。
秀島透は秀島咲奈の頭を辞書で殴る。
秀島咲奈は「痛いじゃん…」と言い涙目だ。
秀島咲奈も秀島透に同じようにこっぴどく叱られた。
花守優華は秀島透が咲奈を叱り終えてから、秀島透に駆け寄って言う。
「私はあなたを恨んでいません。時流を間違えた自分の父親は恨んではいますが、私の父を殺さなければ、あなたがやられていたでしょう…。だから…」
秀島透は「てっきり、恨まれていることだと思っていたよ…、せめて養子として引き取れればよかったが…。あの頃は私の妻は第一子を授かっていてね…」
秀島咲奈は「え?どういうこと?」と聞き直す。
秀島透は「咲奈、今のは少し間違えたことを言ってしまった」と言い、明らかに動揺していた。
花守優華は頭を抱えていた…。
どうやらまた秀島透の地雷を間接的に踏んでしまったようで…。
花守優華は取りあえず、在川浩二が責任を持って面倒を見ることになった。
私は心が浮かれていた。
花守優華と一緒に暮らせるという事実に。
しかし、身の危険を感じたのか。
花守優華は私と一緒の部屋で寝ることを頑なに拒んだのだ…。
私はすごく悲しかった。
私はすぐに襲ったりなんてしないのに…。
花守優華は衣食住が保証されたのに。
何度も家を出たがった。
何なら、学費などの問題で通えなかった学校にも通うことが出来て居る。
それなのに、私から必死に離れようとしている気がした。
私は次の日。
しょげた感じで学校へと行く。
秀島咲奈が声をかけてきた。
「元気なさそうだけど…、どうしたの?」
私は泣いてしまった。
秀島咲奈は困惑した様子で「私が泣かした見たいじゃない…」と言いハンカチを差し出してくれた。
私は「花守優華が私から離れたがっているの…」と秀島咲奈に打ち明けた。
秀島咲奈は言う。「のぞみんは愛が重いからね…、だからそれに花守優華は耐えられないかも」
私は「そんなに愛が重いかな…」と言う。
秀島咲奈は「あと、のぞみん。微妙に変態だし」と言い笑う。
私は「え!?どういうこと!?」と言うが、秀島咲奈は「そろそろ実習があるから、のぞみんじゃあね?また帰りね?」と言い行ってしまった。
何だかんだで授業を受けて、帰りの時間。
私は校門で秀島咲奈を待った。
しばらくすると、秀島咲奈は来て「おまたせ」と言う。
よく見ると、秀島咲奈の頭はチョークで真っ白だった。
私は「また、チョークを飛ばされ当てられる程の悪いことをしたの?」と訊ねた。
秀島咲奈は「そこまでじゃないと思うんだけど…」と言う。
私は「何をしたの?」と聞く。
秀島咲奈は「先生の座る椅子にブーブークッション臭い付を仕込んだら、先生が座った瞬間に教室に異臭騒ぎが起きて、明らかに屁よりも臭かったから…。すぐにバレてしまったんだよね」と言い笑う。
私は「そりゃ、チョークも当てられるわ。チョークも可哀想に…。南無…」と言う。
秀島咲奈は「私の心配より、チョークの供養なの…」少しショックを受けた様子だった。
私は「チョークだって、咲奈への制裁の為に生まれた訳じゃ無いからね?」と言って笑った。
秀島咲奈は「まぁ、そうよね」と言っては、はにかんだ。
私は家に帰ると、ラジオ修理工の世栄玲奈の経歴と、一般界大統領の菅原涼華とその母である斗南華について調べていた。
菅原涼華は一般界の大統領ではあるが、斗南華の血が入って居るので魔法が使える人間だ。
平定以前の魔法界に対しては先制攻撃をされた事もあって、かなり強硬に出ることで知られていたが…。
私は色々資料を読み漁っているが、何故、世栄玲奈がラジオの修理を生業にしているのかが、なぜあそこまで派手なことをして魔力切れを起こさないのかが気になった。
後ろに気配を感じた。
母の花海だった。
母は「一般界や世栄について調べているようだけど、斗南華や世栄玲奈に、あなたも私も勝てないわよ?」と言う。
私は「何故それを?」と聞き返す。
母は「あの二人は特異体質で魔力切れを起こさないのよ。魔法界にいる人間も含めると、ああいうタイプの特異体質は3人居るわ」と言う。
私は「それは誰…」と聞く。
母は「それは魔法界が生きていれば要職に就いたであろう川島なつみ。今は魔法大学校の大学院で魔法の研究をしているわ」
私は興味本位で訊ねる「もし、世栄玲奈を倒すならどうすればいい?」
母は「一番、倒して困らなさそうな人を選んだでしょう…、まぁいいわ。二人必要だわ。一人は囮になって、一人が近接で首をはねれば、魔法使いといえども死ぬわ。まぁ、死に際に一発放たれてふたり共に死ぬだろうけどね?」と淡々と答える。
私は「魔法には相性があるって聞きます、世栄玲奈や斗南華、川島なつみと相性の悪い魔法使いはいますか?」と聞いてみる。
母は少し、言って良いかを考えている様子だった。
そして、母は「誰にも言わないなら、教える」と言う。
私は「誰にも言わないから、教えて」と答えた。
母は「世栄玲奈はアラベル・クエンの出す魔法や魔物やそれが出す魔法と相性が悪い」と言う。
私は「あのお尋ね者の魔法石から怪物を出すクエンと相性が悪いんだ…」と言った。
私は、正直驚いた無敵だと思われる世栄玲奈にも弱点があったのだ。
母は続けて「まぁ、私はアラベル・クエンを一刀両断に出来るけどね?だから、アラベル・クエンは私の事が苦手だと思うよ」と言う。
私は「なんで、魔法には出す人によって相性が生まれるんですか?」と聞いてみた。
母は「あなたはどこまで相性を理解している?」と言う。
私は「もしかして…。同じ魔法だけど、違う人が出したら性質が違ったりするの?」と冗談めかしく言う。
母は「そうよ、どうしてそんなことが起きるかは魔法大学校が研究をしているけれど…。そういうこともあって、同じ魔法使いで実力も能力も互角。でも相性だけで負けることもあるわ。だから、相性が悪いと感じたら逃げること」と言う。
私は「お母さんは、魔力切れを起こすの?」と聞いてみた。
母は「私だって魔力切れは起こすわ」と答えた。
そして母は言う。「今日は、遅いから寝なさい」と言いドアを閉めた。
私は「わかったわ…」と言い、そのままこっそり調べようとした。
母がドアを開けた。
「寝なさい」と言いそのまま布団に入れられてしまった。
私はしぶしぶ寝ることにした。
次の日以降、私は魔法の相性のことが気になって仕方なくなった。
学校に着いたら、秀島咲奈が話し掛けてきた。
「何を考えているの?」
私はそれを適当にあしらって、「今は色々と考えているの」と言う。
秀島咲奈は言う。「私と、のぞみんで魔法の相性を試してみない?」
私は「何故それを…」と驚く。
秀島咲奈は「昨日、私も母から魔法には相性があるから、相性の悪い相手からは逃げなさいって聞いてね。ちょっと試したくなったのよね?」と答える。
二人は放課後に計画を隠して、授業をしっかりと受ける。
その後、放課後に花守優華を呼びつけて、魔力演習場を借りた。
その上で、秀島咲奈と私はバリアを張って隙間から魔法を放ち隠れると言う行動をした。
お互いのバリアは壊れない。
あんまり思いっきりやると、当たったときに死にかねないのでお互い加減をしている所為か全然バリアが壊れたり相性問題が見えることは無かった。
花守優華がバリアをつくって言う。
「私は望さんの後ろに隠れるから、咲奈さんはこのバリアを今までと同じ魔力の込め方で叩いてみて?」
秀島咲奈はバリアを今までと同じ魔力の込め方で叩いた。
すると、バリンと音を立ててバリアが割れた。
秀島咲奈は「敢えて弱く作ってない?」と言う。
花守優華は「そんなことは無いわ。試しに望さんにも同じ術式の魔力のバリアを作ってもらったわ」と言う。
私はそのバリアを秀島咲奈に渡す。
そして、秀島咲奈は慣れた要領でたたき割ろうとする。
しかし、そのバリアは割れない。
秀島咲奈は驚いた様子だった。
花守優華は言う。「これが魔力の相性ってやつね?」
私は妙になんか納得をしてしまった。
確かにあの二人は、そこまで仲は良くない。
そういうのが魔法にも現れるのだろうか?
しかし、それだと世栄玲奈がアラベル・クエンに劣勢で私の母、在川花海…、旧姓、東花海がアラベル・クエンに優勢になれる理由が分からない。
家に帰ってから、私は母の書斎へと行き魔法に関する文献を読みあさる。
母は「普通の勉強もこのくらい熱心にやってくれればいいのにね…」とぼそりと嫌味を言い、その場を立ち去った。
しかし、母の書斎にあるのは魔法の相性問題を取り扱った書籍は少数だった。
私は「あー、確かに興味なさそうだしなぁ…」と呟いて母の書斎を後にした。
その後、私はノートに「魔法の相性問題は第一に遺伝、第二に好感度」と記した。