2話ー秀島咲奈と在川望の仲を取り持つ花守優華
秀島咲奈はあの時、一般界文へと翻訳したプリントを在川望のクラスの担任、湯河ひろみへ渡す。
湯河先生は「あれ?このプリントは在川さんに渡したつもりだけど…」と言う。
秀島咲奈は「望が翻訳を放棄したので、ほぼほぼ私が全て翻訳をしました。これ。恋文ですよね?誰に渡すんですか?」
湯河先生は「別に誰に渡したって、良いじゃない」と言う。
秀島咲奈は「それでは、失礼致します」と言い、職員室から出て行った。
私は職員室の近くを通った。
そこには偶然なのか秀島咲奈が居た。
私は迷うこと無く話し掛けていた。
私は「あれ?どうしたの?咲奈。こんなところに何の用事?」
秀島咲奈は「別に?特に用事なんてないけど」と言い立ち去ろうとした。
私は「昨日のプリントはどこにやった?」と言う。
秀島咲奈は「それなら昨日のうちに全部一人で翻訳を済まして、湯河先生に渡したけど?」と言う。
私は「半分以上、私が翻訳したのに、なんで一人で渡しに行ってるの?」と言い、
秀島咲奈は「途中で放棄したのは、望の方でしょ?望は私に魔法を掛けたまま居なくなるし、残り全部を翻訳しないと行けないしで昨日は散々な目に遭ったの。だからそれくらいしたって、されたって仕方ないと思うわ。これからは無責任に放棄しない事ね?」と言い、立ち去った。
私は裏切られたような気分だった。
それから、ずっと秀島咲奈は私に対して冷たかった。
私が秀島家に行っても、秀島咲奈は出てこなかったし、メールの返信もしてくれなくなった。
私はショックを受けて、道をフラフラと歩いていた。
花守優華はマンホールから出て、煙草を吸おうとしているところだった。
そこに歩いてくる一人の人影が見えた。
あんまりにもボロボロに見えたので、花守優華はその人に声を掛ける。
「おい、死のうとか考えていないよな」と花守優華は言う。
「私、友達にひどいことをしてしまった…。だから…」と言い歩き出す。
「おい、話なら聞いてやるから、ちょっとは落ち着くんだ」と花守優華は言い、私を近くの川辺に連れて行き岸辺に腰掛けた。
花守優華は「何があったんだ。」言う。
私は「親友にひどいことをしてしまって…。それからずっと無視されているの。謝っても聞いてくれなくて…。だから、もうどうでもよくなってしまって…」と心の内を打ち明けた。
花守優華は言う。「直接会って、謝ってみたら?それでもダメだったら私の元に来なさい」
私は「まず、会ってもくれないんだもん…」
花守優華は「そうか…、じゃあ私がって言いたいところなんだけど…、その親友のことを知らないんだよね…」と答えた。
私は言う。「もう、いいわ…。私はここから川に入るから…」
花守優華は言う。「だから、待てってつってんだろ」
しかし、私はもうどうでもよかったので聞く耳を持たずに川にザブザブと入っていく。
花守優華は魔法は私の足を固めた。
私は「何するのよ!!!これじゃ深いところに行けないじゃない」と言う。
私は後ろを振り返った。
そこにはあの日に見た花守優華の姿があった。
死のうとする私を見て本気で、憂いていた。
花守優華の顔を見た私は「そっちに戻るわ。三途の川を渡るための渡し賃を持ってき忘れたわ」と言う。
花守優華は「そう言って、深い方に戻るつもりでしょ?だから、私が引き上げる」と言い、そのまま足を固めたまま、魔法で私を陸まで引き上げる。
花守優華は「強い魔法を使ったから、あぁ疲れた…」と言い、河川敷で横になった。
私の足は固められたままだ。
私は「そろそろ足の拘束を解いて欲しいわ」と言う。
花守優華は「あぁ、ごめんごめん」と言い足の拘束を解いた。
そして、花守優華は「その親友の情報を教えてくれないか?仲直り出来るように尽力するから」と言った。
私はその親友が秀島咲奈という名前で自分と同じ治安維持の為に派遣された一般界軍人の娘である事、その父親である秀島透は魔法界で暮らす魔法が使える市民と結婚して、その娘である秀島咲奈は魔法が使えること。
そういう情報を話した。
花守優華は「そこまで情報があれば、十分だ。明日にはすぐに見つかるだろう。だから、今日は帰るんだ」と言って、私に帰るように促した。
私は取りあえず、家に帰った。
もちろん、父親である在川浩二にはこっぴどく叱られた。
そして、次の日。
私は花守優華から聞いた待ち合わせ場所に行く。
そこには、秀島咲奈がいた。
私は言う。「本当にごめんなさい。私、ひどいことしてしまいました。許されることではないと思うけど、どうか…」
秀島咲奈は言う。「私の方こそ、ごめんなさい。振り上げたこぶしのおろし方がいつの間にか分からなくなってしまって…。やり過ぎだって分かっていたけど…。だけど、素直に謝ることが出来なくて…。私の方こそ、ごめんなさい…」
そうして、二人は握手を交わしてからそのまま熱く抱擁し合う。
花守優華は橋桁の後ろから見ていたが、二人が仲直りしたのを見て立ち去ろうとする。
秀島咲奈は橋桁の方を見て声を掛ける。
「後ろで見てないで、こっちに来て」
花守優華は橋桁の後ろから、出てきて「バレてましたか…」と言う。
秀島咲奈は「この仲直りは、あなたのおかげでもあるから…。だから、あらためてあなたにお礼がしたい」と言う。
花守優華は「私はこの世界が平和であるなら、何もいらない」と言い、立ち去ろうとする。
秀島咲奈は「また、あなたに会いに来てもいいですか?」と言う。
花守優華は「仕方ない、たまにならいいけど…」と答えた。
秀島咲奈は「これからは三人で会いましょ?」と言った。
私は「さんせーい」と言う。
花守優華は頭を抱えた。
そっとしとけば良かった。
あの時。
そう思った。
在川望の父親である在川浩二は頭を抱えていた。
理由は娘が例のゲリラ兵士の父を持つ、女性と頻繁に会っていたからだ…。
ゲリラ兵士だった父親は既に死んでいるが、いつか気付いて刺しに来るかもしれない。
在川浩二は溜め息を吐く。
それを見た、秀島透は「どうやら、僕と同じ悩みを抱えているそうですね」と言い、秀島透も溜め息を吐いた。
在川望と秀島咲奈が仲直りするのを手助けしたのは、花守優華でそれはゲリラ兵士の娘で、秀島咲奈も在川望も花守優華と三人で会う約束をしているのだと言う。
秀島透は言う。「あのゲリラ兵士の娘が、何を考えているのかが分からない以上は近づかないようにさせるのが良いのだが…。まぁ、娘が言うことを聞くとは思えないな」
在川浩二は「だよな…」と言い溜め息を吐いた。
一般界陸軍は人道的だとか、言われているが…。
それは理想論であって、敵を掃討する為なら人道的だなんて言ってもられない時も多くあった。
それでも魔法界の陸軍よりは人道的だったと信じたかった。
私と秀島咲奈は制服のまま合流して、花守優華がいる場所へと向かった。
花守優華は煙草をふかしながら言う。「よぉ、いらっしゃい」
私は「煙草はやめてもらって良いですか?」と言う。
花守優華は「済まないね。この一本だけは吸わせてくれ。勿体ないから」と言い、一本だけ吸い終えた。
花守優華は「それ今日は何しに来たんだ?」と言う。
私は魔法の勉強書を持って言う。「今日は一緒にこの勉強をしようと思ってね?」
花守優華は「勉強は苦手なんだけど…」と言い、道端につばを吐いた。
私は言う。「優華ちゃんほどの素質があればもっと強い魔法も扱えると思ったのが、勿体なくてね…」
花守優華は言う。「それはいずれ、あなたの父親達を苦しめる羽目になるぞ?」
秀島咲奈は言う。「それはどういう意味?」
花守優華は「いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」と言い言葉を濁した。
私は聞かなかったことにして、花守優華に魔法の勉強書を見ながら魔法の正しい繰り出し方を教えていく。
それによって、花守優華の魔法能力は大きく向上した。
いつの間にか、秀島咲奈は居なくなっていた。
置き手紙を残して。
「恋は盲目と」書いた。
花守優華は言う。「追わなくて良いのか?」
私は「ちょっと心配だから、追いかけるわ。だから今日の特訓はここまで」と言い、箒を出して、空を飛び秀島咲奈を探した。
秀島咲奈も箒を出して飛んでいたので、すぐに見つかった。
私は「ねぇ、どうして何も言わずに居なくなったの」と言う。
秀島咲奈は言う。「きっと、あの子が苦しい生活になったのは…私の父親の所為なの…」
私は耳を疑った。
あんなに優しい感じの秀島咲奈の父親。
職業は私の父親と同じ、一般界陸軍の軍人ではあるが…。
とても優しくて…。人を殺めるなんて信じられないからだ。
秀島咲奈は言う。「昔、父が懺悔していたの。乳飲み子を持ったゲリラ兵士を殺して、乳飲み子をその場に放置して、その場を立ち去った事を…」
秀島咲奈は続け「そして、その殺した兵士からは旧王政時代の身分証が出てきて、そこに書かれていたのは、花守悠叶と言う名前だった…。だから、あの子に両親が居ないのは…。私の父があの子の父親を殺したからなんだよ」そう言い泣き出した。
次の日も私は花守優華に会いに行った。
花守優華は言う。「昨日一緒に居た咲奈って子は一緒じゃないのかい?」
私は「なんていうか、予定があるって言って、今日は来なかったわ」と言った。
花守優華は「私の仲間から聞いたが、秀島咲奈の父親は秀島透らしいな?それも私の父親を殺した一般界の兵士だと聞いたが…」と言い、私を見た。
私は「悲しいけれど、正解だわ…。昨日、秀島咲奈。本人から聞いたわ」と答えた。
花守優華は「秀島咲奈も秀島透も恨む気はない、私の父が時流に逆らってゲリラ兵士になったことがいけなかったのだ…。先を見る目が無かったんだ…。だから、また一緒に来てくれると嬉しいな?」と言う。
私は「本人に伝えます…」と言う。
花守優華は「なんで、そんな悲しい目をしているんだ。また喧嘩でもしたのかい?」と言う。
私は「あの子はもうここには来ません。きっと…」と言った。
花守優華は「なんでだい?望と咲奈の微妙な関係を見てほくそ笑みたかったのに…」と残念そうに言いながら、そう訊いてきた。
私は「咲奈なり考えて、結論を出したみたいで…。私がとやかく言えることではないので…」と言った。
そして、私は「取りあえず、また今日も一緒に魔法の勉強をしませんか?」と言った。
花守優華は概ね同意して、私から魔法の基礎などを教わった。
私は次の日、学校に行く途中に街宣車が止まっており、その街宣車には「杉下同盟会」と書いてあった。
私は運転をしている父の軍人仲間に「あれは何?」と聞いた。
その軍人仲間は「貧農とかを束ねて、政権を取ろうしている過激派だよ」と言いその街宣車の上にいる人物に軽蔑の目を向けた。
私は、そのまま学校の前で車を降りて学校へと入っていく。
秀島咲奈は私に「のぞみんおっはー」ととても高いテンションで挨拶をしてきた。
私は「咲奈、おはよう。その高いテンション疲れるから止めない?」と言い、秀島咲奈の方を見た。
そして私は「花守優華が咲奈に会いたがっていたよ」と言う。
秀島咲奈は高いテンションを維持できなくなったのか、「そう…。でも、私はもうあの子には会えないわ…」と言い、私の手を握る。
私は驚いて「え!?何?」と言ってしまった。
秀島咲奈は「嫌ならいいわ」とだけ言い手を離してそのまま自分の教室へと入っていた。
私はただただ困惑していたが、そのまま自分の教室へと行く。
その後、授業が終わったら、その足で花守優華のもとへと向かった。
私が着くと、花守優華は廃墟となった建物から出てきた。
私は魔法の勉強書を持ってきた。
花守優華は残念そうに言う。「やっぱり、咲奈は来ないか…」
私は「そうね…」と言い、魔法の論理を花守優華へと教えるために勉強書を開いた。
在川望は気になっていない様子だったが、詠唱用の言語と普通の言語は大幅に違い、昔は普通の言語も詠唱用の言語で使う文字を使っていたが今は普通の文字を使っていた。
花守優華はそれが気になった。
花守優華が勉強に身が入って居ない様子だった。
それを見て私は聞く「どうしたの?」と。
花守優華は「何で今は言語がかなり違うんだい?」と言う。
私は「元々はこうだったけど、あるときに言語の統一運動が起きて、魔法界は統一を選んで一般界はそのままにした。ただそれだけの事らしいけど…」と答える。
その後、夕暮れになってきて私は「そろそろ帰るね?お父さん達が心配するし」と言って、そのまま箒に乗って家の方へと向かった。
次の日、私が学校へ行くと秀島咲奈がまた高いテンションで話し掛けてきた。
「のぞみんおっはー」と。
私は「そのテンション疲れるからやめない?」と答える。
秀島咲奈は「デ、デジャヴ」と言いそのまま立ち去った。
私は特の答えることも無かったのでそのまま自分の教室へと向った。
湯河ひろみは相変わらずのテンションでホームルームを進めた。
私は授業中も放課後に花守優華に会えることが楽しみでしょうがなかった。
私は授業が終わって放課後になったら、我先にと下駄箱に向ってゆく。
そして、靴を履き替えて、そのまま校門を出てそこから箒を使って花守優華がいるスラムの方へと飛んでいった。
在川浩二に命を受けて迎えに来ていた軍人は頭を抱えた。