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黄金のリンゴと九十九神とカットソー

 ゴールデンウィークの書き入れ時が終わり、アウトレットモールは閑散としていた。平日ということも手伝い、一人も客がいない店舗も少なくはない。

 私が勤める「フラワー」も本来ならそうなるはずで、私は時折やって来る客の相手をしながら漫然と時間を潰し、不相応な給料をいただくはずだった。

 だが、その目論見は呆気なく崩れる。

「ねえ、私、ダサい?」

 試着室のカーテンが開き、無地のカットソーとジーンズというシンプルな出で立ちの女が現れる。金色の髪に金色の瞳、均整の取れた身体つき。神が細心の注意を払って作った人形のような、美しい女性だ。私はあわてて笑顔を作った。

 それを見た女は唐突に振り返って大仰なポーズを取り、鏡に映った自分を眺めた。

「貴女が笑っているってことは美しい私を見て感動しているってことよね。やっぱりこの服じゃダメだわ。私の美しさを覆い隠せていないもの。もっとダサい服はないの?」

 ここ数時間ずっとこんな感じだ。私が持ってくるものを次から次へと試着しては、「似合いすぎる」「私が美しすぎる」とダメ出しの嵐を浴びせてくる。いっそベビー服でも買えばいいのに。

 だが、本音を言ってレビューに悪口を書き込まれたのではたまらない。

「お客様はどうしてダサい服をお求めなのですか。用途が分かれば、私共も適切なお洋服をお勧めさせていただけると思うのですが……」

 女はフンと鼻を鳴らした。

「私はね、ほら、美しいでしょ。だから、昔から誘拐されたり取り戻されたりまた攫われたりとっても大変だったの。私を巡って人間関係が破綻したこともあったわ。うんざりしたから、私の美しさがどうでもよくなるような超ダサい服が欲しいのよ」

「苦労なさってきたのですね」

「ええ、黄金のリンゴの……あんたたちの国の文化で言うと九十九神が近いか? 道具じゃないけど。そんな私は苦労が多いのよ」

 自分から尋ねておいてあれだが、金髪女の言葉は半分も頭の中に入ってこなかった。どうしたら給料に見合った労働は戻って来るのか。考えるのはそれだけだ。

「しかし、お客様の今の出で立ちは大変ダサくていらっしゃいます。よくお似合いです」

 一刻も早く帰って欲しい一心で私が考え出した言葉に、女は形の良い眉をひそめ、考える素振りを見せた。

「似合っちゃ困るのよ。ただでさえ美しいのに、服が私の魅力を引き立ててしまったら、皆が私を放っておかないじゃない」

 暇な時間が帰ってくるのはもう少しかかりそうだ。


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