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異端と花園と六角形

 私はとあるクラスメイトの強みを握っている。彼———アラガミは今時珍しいほどテンプレートの不良だ。授業はサボるし、喧嘩はするし、エンジン音を吹かしながらバイクに乗る、クラスの異端児。

 そんなアラガミは毎朝6時に起きて、近所の公民館の裏手にある、寂れた六角形の花壇の花に水をやっている。その姿、雨の日に捨てられた子犬に傘を差しだすが如し。不良のお手本のような男は「ギャップ萌え」というテンプレートも完備しているらしい。

「秘密の花園ってやつ?」

 ジョウロを持った彼を初めて見た時、私は尋ねた。アラガミは慌てふためき、自分に水をやりつつ、「だったらなんだ」だと喚いた。制服から水を滴らせながら、下唇を突き出す姿があまりに滑稽で、私は笑い、それを見たアラガミはさらに怒った。

「いいじゃんいいじゃん、秘密の花園。君の新たな一面知れて嬉しいよ」

「俺の弱みを握ったからって調子に乗るんじゃねえぞ」

「弱み? 強みの間違いでしょ。『実は優しい』って萌える萌える。前から優しい人が花に水やっているより、君が花に水をやっているほうが記憶に残るインパクトはデカくなるんだよ~。それこそがギャップ萌え!」

 まくしたてる私にアラガミは呆気にとられ、少し考えた。

「……俺は得したってことか?」

「得だよ~。ギャップ萌えは二束三文を値千金に錯覚させることもあるんだから!」

「そうか……。やっぱり俺は値千金な男だったか」

 目を吊り上げていたアラガミは、一転して満足そうな顔で深くうなずいた。

「じゃあこの花壇も値千金にしてえな」

 上機嫌のアラガミは財布をひっくり返し、小銭をぱらぱら落とした。351円分の硬貨が土の上を転がる。

「太っ腹だね~」

「俺は太ってねえよ。見ろ」

 ドヤ顔のアラガミが制服のシャツを脱ぐと鍛え上げられた腹筋が現れた。まじまじと観察。

「どうだ、分かったか。俺の値千金の腹筋」

「分かった分かった。十分に拝んだよ」

「ギャップ萌えたか」

「いや、それはちょっと違う」

「ああっ……!?」

 覚えたての言葉を上手く使えなかったのがショックだったのか、アラガミは凄みながらも動揺を隠しきれていない。私はまた笑った。

 舌打ちしたアラガミが濡れたシャツを握りしめる。雫が花弁に落ち、朝日を浴びてきらきら輝いた。

 その日から私たちは秘密の花園で時々話している。クラスの異端児は友達としては案外普通でギャップ萌えもない。でも、そんなところも彼の強みだと私は知っている。


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