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アマゾンとうら若き乙女と一発芸

「演劇部の新入生勧誘会で一発芸をやらされるんだ」

 ある日の放課後、クラスメイトの自称憑依役者・貝原にこの世の終わりのような顔で呼び止められた。

「そんな昭和的な催し物いまどきあるんだ。大変だね」

 それは憂鬱になるのも頷ける。呻きながら机に突っ伏す貝原に合掌。

「でも意外。アンタって、ノリノリで皿回しとかやるタイプだと思ってた」

 何なら皿回しのついでに盆踊りでも始めるタイプである。

 が、あたしの言葉に貝原はがっと頭を上げ、血走った眼を私に向けた。

「海野……! 皿回しなめんな。皿回しはなあ、完璧な対となる皿と棒の見合いから始まるんだ。マッチングが終わった後も双方の仲が上手く回るように、きめ細やかにバランスを取っていく必要があるんだ。俺みたいなド素人がそう簡単に手を出していい世界じゃない。中途半端を嫌うお前なら分かるだろ?」

 貝原が語る皿回しの世界の深さにあたしは慄いた。

「そっか。今のはあたしが悪かった」

「分かったならいいんだよ」

「で、結局何するの?」

 話題が振り出しに戻り、興奮で赤くなっていた貝原の顔も青くなる。

「アンタ、何ならできるわけ?」

 あたしの言葉に貝原は少し考え、すっと目を閉じた。本人が言うには、目を閉じるのは役に入る時のルーティーンらしい。

 あたしが生暖かく見守る中、貝原の唇が動く。

「ワレハウチュウジン。デカイキ、ハデナムシ、チキュウスゴイ」

「……何それ」

「アマゾンの密林に不時着した宇宙人のモノマネ」

「…………」

「完璧だろ。一年生のうら若き乙女たちに勘違いされたらどうしようっかなー。人間の先輩と同じように尊敬していいのか分かりませんとか言われたらどうしよう」

「宇宙人は自分を宇宙人と言わないでしょ。アンタ、自分の戸籍に地球人とでも書いてあるわけ? 大体、誰も本家を知らない小学生以下の妄言をモノマネとは言わないでしょ」

 あたしがつっこむたび、貝原は水から長時間離れたヤドカリの如く萎れ、しまいには丸まってしまった。

「まあ、一発芸は全員等しく恥を晒す行為だからそれでいいだろうけど、演技力を磨かないと尊敬されないんじゃない」

 貝原に止めを刺したあたしはふと机の上のコーラを目にとめた。相談に乗ってもらう礼、と貝原が買ってきたものだ。

 一発芸は大失敗に終わるだろうが、律儀だし、案外尊敬はされるかもしれない。ふわふわと昇る二酸化炭素のあぶくを眺めながら、あたしはそんなことを考えた。

 ま、言わないんだけどね。


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