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防災訓練とメロンとゲームオーバー

 下宿先のマンションの非常ベルは壊れていて、朝も昼も夜も関係なくけたたましく鳴り響く。初めて聞いた時には、防災訓練で習ったように窓を閉めカーテンを開け、通帳とゲーム機片手に飛び出したものだ。二年目の今となっては、夜にあのヒステリックな音が鳴り響いて起こされても、十秒後には再び夢の世界に帰還している。本当に火事が起きても平然と眠っていそうだ。

 さて、私はもはやベルの音に反応することすらないが、訪れる友人は別である。大体はパニックになり、私の説明を聞きつつも不安そうにし、結局は「万一ってこともあるから」と玄関のドアを開けて様子を見に行く。そして、私の二度と家に来ることはない。友達と家でゲームに明け暮れるという私の理想の大学生活は水泡と化した。

 ジリリリリリリリリリリリリリリリいいいいいいいいいい!

 夜十時、静寂を切り裂く音が今日も響く。目の前の田邊が腰を抜かさんばかりに驚き、天井を見上げる。

「お、おい。なんか鳴っているぞ」

「そうだね。うるさいね」

 私はテレビ画面から目を離さずに答えた。私が操作する「ぼっくりくん」が、田邊の操作する、棒立ちの「ぽぽツエーマン」をボコボコにしている。

「お前、人生がゲームオーバーするかもしれないって時にゲームしている場合か? さっさと逃げようぜ」

 田邊が早口でまくし立ててくる。私は「ぼっくりくん」が「ぽぽツエ―マン」をリンク外に弾き飛ばすのを見届け、幾度となく繰り返した説明を口にする。

「うちのマンション、ベルが壊れているの。こんなのしょっちゅうだよ。本当に火事だったら、もっと人の話し声とか足音とかするはずでしょ。百パーセント誤作動だよ」

 私の説明に田邊は納得したようだったが、それでも「一応見てくる」とドアを開けて出て行った。一人残された私は「ぼっくりくん」を意味もなく飛び跳ねさせ、うろうろさせて待つ。

 退屈な時間がゆっくりと過ぎていく。流石に遅いと思い始めたころ、田邊が帰ってきた。何故か大きなメロンを腕に抱えている。

「何それ」

「メロンだよ」

「いや、何でメロン……?」

「良いことがあったから。俺んちいいことあったら、メロン食べるの。誤作動で良かったなと思ったから家から持ってきた」

 にこにこ笑いながら、田邊は勝手にキッチンを漁り、包丁でメロンを切り分け始めた。私は自分にとって当たり前になっていることでこんなにも喜ぶ彼を、呆れたような嬉しいような不思議な気持ちで見守った。

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