弟子とまつぼっくりと赤目
僕——まつぼっくりには弟子がいる。タンポポの種子の「ぽぽ」である。
ぽぽは春になっても身体から根という名の足が生えることはなく、空を飛ぶための羽もへたれ、どこにも行けないまま土の中でうずくまって過ごしていたのだと言う。夏が過ぎ、秋が深まった頃、地面に落ちた僕はぽぽと出会った。ぽぽは僕を見て、弟子にしてほしいと言い出した。
何故弟子にしてほしいのか尋ねると、ぽぽは「クリスマスツリーになりたいから」と答えた。空を飛んでいた頃、まつぼっくりで作られたクリスマスツリーが庭に捨てられているのを見たらしい。まつぼっくりはモールや綿で色とりどりに飾られていたのだとか。
人に拾われたとはいえ、クリスマスツリーまつぼっくりは種子としての役割を果たせなかった失敗作だと、僕は諭した。自分は人に拾われる予定などなく、師匠になるのもまっぴらごめんである。その言葉を聞いて正直だねとぽぽは笑った。
ぽぽは言った。美しい花を咲かせられなかった自分は、人に美しくしてもらうしかない。人は美しくないものを、美しくしようなどとは思ってくれない。だから、人の目を惹きつけるほど、飾り立てたいと思われるほど、美しい形になりたい。均衡がとれた、丸くて愛嬌のある形の貴方が羨ましい、と。
そう言われると何も言えなくて、僕はぽぽの師匠になってあげた。とは言っても、僕は神様ではないからぽぽの形を変えることなんてできなくて、秋の高い空と親たる大樹を見上げながら、雑談をしているだけだった。ぽぽはかつてのスカートと同じ、白い綿を纏ったクリスマスツリーになるのだ、綺麗だと褒めてもらうのだと夢を語った。
しかし、雪が地面を白く染め上げる時期になっても、人がぽぽを見出すことはなかった。
クリスマス・イブになった。赤目のうさぎがやって来て、僕の身体をガジガジと嚙み始めた。種子としての役割を全うすべく、僕は無抵抗で転がっていたけれど、ぽぽは「師匠を返して」と叫んだ。うさぎはちらりとぽぽを見たけれど、すぐに興味を失くして再び僕を齧り始めた。
僕は、自分がこうして幸運にも種子として新たに踏み出そうとしているのに、花を咲かせられず、うさぎの赤目にすら止まらないぽぽが哀れに思われて、思わず口にしていた。
「君は美しいよ」
すぐに後悔した。心にもないことを言ってしまった。ぽぽはこの瞬間、虚飾で覆われたクリスマスツリーになってしまったのだ。
恐る恐る見たぽぽは笑っていた。