ボトルメール
*本作品はPixiv 1000字コンテストに応募した作品です。*
それではお楽しみください。
一人の男が堤防に座った。
目の前の海には夕日が反射している。
傍らに置いた手さげから便箋と淡い青色のペンを取り出した。
拝啓。
君との約束を、今日果たすよ。
君と出会ったのは二年前。
あの頃の僕は、寂しかった。
何かが足りない気がしていた。
そんなときに君と出会った。
君から話しかけてきてくれた。
「なんてしけた顔してんのよ。」と。
初めは、君のことが気に入らなかった。
突然話しかけてきておいて、しけた顔してるとか言われて、気分を害さない人はいないだろう。
まともに会話をする気がなかった僕は適当に返していた。
それでも君は、何度も何度も僕のところに来て、話しかけてくれた。
「朝ごはん何食べた?」
「過去と未来どっちに行きたい?」
ほんと、よくわからないことばかり聞いてきた。
でも、次第に僕は満たされている心地がした。
なぜだかよくわからなかった。
嫌いな君のことを日を追うごとに、気になっていった。
そしてそれは、恋心になった。
「なんで僕に話しかけてくれるの?」
ある時、聞いてみた。
もっと初めの方で聞くべきことだろうが、聞く機会がなかった。
このあたりになってやっと僕の方からも少しずつだが話せるようになった。
「寂しそうだったから。それに、何故か、放ってはおけない。そんな気がしたの。」
本当におかしな人で尊敬できる人だと思った。
それからは、僕の方から話しかけたり、二人で遊びに行ったりした。
軽口を叩いたり、喧嘩もした。
自然と気を抜いて話すことができた。
そして、初めて話してから一年後、君と付き合うことになった。
ここで、ようやく気づいた。
僕に足りなかったのは、本音で話し合える人なんだと。
そんな君は、いなくなった。
最後のデートになった日。
君は突然倒れた。
心臓が悪いということは知らなかった。
心配するから隠していたんだろう。
君の持っていたポーチから小さなノートを見つけた。
「死ぬまでに叶える100のこと。」
君はその一つを残して死んだ。
「ボトルメールを書くこと。」
これが残っていた。
君が僕の為にしてくれたように、僕も君のために。
最後に、君に会えてよかった。
ありがとう。
愛してる。
書き終える頃には、夕日は沈んでいた。
小瓶のコルクを外し、便箋を丸め、封をする。
ポチャン。
男は海を背に歩き出した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。以前Pixivで活動していた時に書いたものをこちらに投稿することにしました。死別した恋人にボトルメールを出すという話ですが、書いていて自分も胸が痛くなりました。ただ、こうやって区切りをつけることは大切なのかもと思う次第です。
改めて、読んでいただきありがとうございます。