表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
侯爵令嬢マリアージュは、依代の魔女の後継者  作者: 逢七
第一章 授かった力(7歳)
2/33

1.聖水の色(1)~エレン

中央神殿での洗礼の儀のあと、家に帰ると、お屋敷中が、とても慌ただしくなっていた。


お父様は、神殿に残って、その後直接、王宮に行くということだった。

そのため、家に着いたのは、わたしとお母様だけ。

ホールに入って、脱いだ帽子をメイド長に渡したお母様は、近寄った執事を少し待たせて、わたしの専属メイドのエレンを呼んだ。


「エレン、疲れてると思うから、ゆっくり休ませてちょうだい。あと、しばらくは外出は控えさせるから。よろしくね。」

「かしこまりました。」

エレンは深々と頭を下げてから、「参りましょう、お嬢様。」と、手を引いてくれる。


エレンは、メイド長の子で、16歳、わたしが生まれた時から傍にいてくれる。


エレンの手をぎゅっと握り、横を歩いた。

後ろでひとつ結びにした彼女の栗色の髪が、リズムよく揺れるのを見ていると、

(ああ、帰ってきたわ。)

と安心して、わたしはふふっと笑った。


すると、エレンも、わたしを見て嬉しそうに笑う。

「美味しいお菓子を用意しますね。お嬢様」

「うん!」


部屋に戻り、ラベンダー色の小花柄の小さなソファにトスンと座ると、濃青色のラグで寝そべっていた白猫のリリーがむくりと起き上がって、するりとわたしのお膝にのぼってきた。


「ただいま。リリー。」

リリーは、わたしの右手の平を、鼻先でくんくんと嗅いで、ぺろりぺろりと舐める。

「やだ、リリー、くすぐったいわ。」


エレンがミルクティーを入れながら、くすりと笑う。

「お嬢様の右手が甘いのかもしれませんね。神殿でお菓子をいただかれました?」

「う~~ん。何か食べたかしら?」

なんだかそれどころじゃなくって、あまり思い出せない。


わたしは、右手を鼻先に持ってきて、くんくんと嗅いでみる。

「甘い匂いはしないわ。」


そう言ったところで、ソファの前のテーブルに、エレンが、甘い蜂蜜入りのミルクティーと、ふっくらとした黄金色の焼き菓子を置いた。


とたんに、ぐ~~とお腹の音が鳴る。

ずっと緊張していたので、急にお腹がすいてきた。

わたしは、カップを両手で取って、甘いミルクティーをこくりと飲んだ。


「・・・でしたら、もしかして、聖水でしょうか。女神様の加護の宿った聖水は、野生に近い動物たちほど、甘く感じる、と聞いたことがあります。」


わたしは、ずっとすりすりと擦り寄っているリリーを眺めて、耳の付け根をくりくり撫でると、リリーは「なぁ~~」と鳴いて、気持ちよさそうにコロンと転がった。

自分の好きな物に囲まれて、空腹も落ち着くと、冷えていた心も落ち着いてきた。


「ねえ、エレン。」

「はい、お嬢様。」

わたしが、ぱっとエレンを見上げると、エレンは、ぽっと頬を赤くした。

「エレンのときは、聖水は何色になったの?」


そう、今日神殿で、慌てて出てきたから、わたしは自分がどんな力を授かったのか、教えてもらっていない。

そういえば、「良い力を」と言ったあの怖い王太子殿下や、「あとで話そう」と約束した従姉妹のルナ様は、どうだったのかしら?


この国では、ほとんどの人が女神様から守りの力を授かり、生活に役立てている。

とくに、国を守る王族や貴族は、強い加護があり、聖水の色が変わるくらいの強い力を授かる。

ベルガー家では、わたしたち家族はもちろん、貴族出身の使用人には、比較的強い力を授かる人もいた。


「わたしは、薄い緑になりました。風の力です。」

エレンが右手の人差し指をゆっくり動かすと、小さな風が起こって、リリーの柔らかな毛並みが、そよそよと動き、リリーはぴくぴくと耳先を動かした。


「うふふ、エレンの力、優しくて好きよ。」

エレンはとても嬉しそうに頬を染める。


「マリアージュ様は、何色になったのですか?」

「わたしはねー、はじめは青色になって。」

洗礼の儀を思い出しながら、一生けんめいに伝える。

すると、エレンは、うんうんと頷いた。


「それから、金色になって、白くなってピカーって眩しく光ったんだ。」

両手を大きく広げてそう言うと、エレンは、視線を上に向けて少し考えてから、最後はぽんと手を打って、目をきらきらとさせた。

「ベルガー家のご加護は、瞳と同じ深い青色『水の力』ですもの。金色はちょっとわかりませんが、白色はとても珍しい『聖の力』かもしれないですね! 聖水が光を放つなんて、そんな神秘的なことが起こるのは、お嬢様は、やっぱり特別なのです!」


それから、エレンは、聖水の色と授かる力の適性を教えてくれた。

赤は火の力、青は水の力、緑は風の力、黄は土の力、白は聖の力。

ある程度の力があれば、聖水の色が変わり、力が強いほど、色が濃くなるらしい。


(なんだか、面白いのね。そうだわ! 明日、みんなに聞きに行きましょう。)


読んでいただき、ありがとうございます。


依代の魔女(王国編)は、1作目(100年の眠り編)に比べて、ファンタジー要素が強めです。

魔力供与者が4人もいるので、世界に魔力が溢れています。

このため、国の人々も、その恩恵にあずかり、魔法が使える人も多くいます。


白猫のリリーですが、イメージはスコティッシュフォールドです。

ちなみに逢七は猫派ですが、我が家で飼っているのは、柴犬オスです。

多数決に負けました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ