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隣の美人お姉さんが失恋。「慰めて」となんでもする券で求められた俺は、流されるままイチャイチャすることに。

「失恋しちゃっ、た……」

「辛かったよね、彩花さん」

「うんっ」


 俺の膝に顔を(うず)め、彩花(あやか)さんは泣いていた。


 ここは隣のお姉さんこと西園寺(さいおんじ)彩花(あやか)の部屋だ。


「ごめんね、急に呼び出して」

「全然オッケーですって。だって俺と彩花さんの仲じゃないですか」

「次郎くんは優しいね」

「彩花さんには負けますよ」


 彩花さんは、お隣さんだ。


 俺はひとりっ子、かつ両親は海外出張。そうなると、周りの大人のサポートが必要だ。そこでお世話になったのが、彩花さんだ。


 小さい頃から、一緒に遊んでくれたり、勉強を教えてくれたり、ご飯を作ってくれたり。両親と関わる機会がすくない俺にとって、彩花さんは親の代わりのような存在だ。


 ただ、親の「ような」存在であって、当然のことながら、親そのものではない。


 彩花さんはとびきりの美人だ。背が高くてスタイルがよく、アレも大きい。包容力がある。


 思春期なるものを迎えてからは、彩花さんのことをいち女性として見ざるをえなかった。


 本日、彩花さんはセーターを着用している。要は上半身のボディラインがくっきりとしている。思うところは、むろんあった。


「とはいえ昔と比べたら全然会わなくなったよね」

「彩花さんには大学もあるし、俺も大人になったわけだし」

「まだまだガキだろぉ?」

「調子に乗りました」


 いまはこうして気丈に振る舞っているが、先ほどまでは酷いものだった。


 呼んで早々に泣きつかれたのである。


 話を聞いたところによると。


 気になっていたサークルの先輩と距離を詰めようとしたものの、あちらとしては遊びのつもりだったと発覚し、そのうえ怖い思いもしたのだという。


 彩花さんは美人であり、彼氏とは無縁! だなんて、都合のいい創作上の人物ではない。高校時代も彼氏はいた。


 そりゃ、すこしはショックだ。好きな相手なのだから。でも、彩花さんの幸せを思えば、人間関係に口出しなんてもってのほかだった。


「俺でよかったんすか、話をするの」

「次郎くんじゃないといけなかったの!」

「同性の友人でもなく?」

「そういう話は変にウワサが広まると厄介だから。口が堅そうな君が適任だなって」

「なるほど」

「……というのは、方便ってやつで」

「ん?」


 ちょっと待ってね、というと。彩花さんは顔を上げ、立ち上がり、部屋の隅にある段ボールを漁り出した。


 しばらくして、あるものを取り出すと、俺の方へ早足で戻ってきた。


 両手を後ろに回し、持ってきたものを隠している。



「なんでしょう?」

「急だ」

「当たったら百万円ね」

「なんだろう……?」

「本気にならないでよ。冗談なんだから」

「俺はくそ真面目な男ですから」

「そっか、これを忘れるなんて誠実さに欠けるんじゃないかないかな」


 じゃじゃーん。


 そういって見せてきたのは、ある一枚の紙切れだった。やや年季が入っており、文字もかすれつつある。


「何でもする券、だよ」


 何でもする券。


 その名の通り、この券を使うことで、なんでも頼むことのできる万能の紙切れだ。


 肩たたき券と並んで、幼児が送る品としては定番といってよいかもしれない。


「なんて懐かしいものを」

「覚えてた?」

「いま思い出した」


 かつて、幼い頃の俺は。


 無邪気にこんな代物を送った。


 てっきりすぐに使ってくれるのかと思いきや、大事にとっておいたらしい。きょうというきょうまで。


 十年以上も前のものだ。よく残していたな……。


「これが、どうしたっていうんです?」

「とぼけないでよ」

「ということは?」

「まだ期限は有効、だよね」


 本日、十年越しで「なんでもする券」が火を吹くというわけだ。


 まさかこんな爆弾を抱えていたとは。


「彩花さん、この存在をずっと覚えてたんです?」

「まさか。きのうかな? 振られて落ち込んで、ふと思い出したの。これを使うチャンスだな、って」

「なるほど」

「もちろん、私が要求を決めていいんだよね?」

「そりゃ、そういう代物ですから」


 なんでもする。


 そう約束した紙切れだ。


「じゃあさ」


 いって、彩花さんは。


「――私を、慰めて」


 俺の耳元で、色っぽく囁いた。


「な、な、な……慰める?」

「私、もうなにも信じられないの」


 ふたたび、彩花さんの目に涙が浮かんでくる。


「きょうだけは、優しくして。年齢(とし)は私のほうが上。だけど、きょうだけは甘えさせて」

「あ、彩花さん……」


 こんな彩花さんは初めてだ。


 いつも、俺より先を走って、エスコートしてくれる。そんな存在。


 弱みを見せることなんて、滅多になかった。俺が苦しいときに、笑顔でそっと手を差し伸べてくれた。


 彩花さんだって、人間だ。傷つくことだってある。


 なにか、思いの丈をぶつけたくなるときだってある。


 それが、いまだったというだけだ。


「私のこと、滅茶苦茶にして。忘れたいの、なにもかも。次郎くん色に染め上げて? 私、したいの」

「ダメです、彩花さん。そんな自暴自棄になって、いいことなんてない」


 いまの彩花さんは、半ば壊れかけといっていい。


 彩花さんの弱みにつけ込んで、そういう関係を持ってしまったら、もうこれまでの関係には戻れない。


 だめだ。


 でも、話を聞くことはできる。


「そういうのはダメですけど、なんでもする券はなんでもする券。ちゃんと、慰めます」

「ふふ、よかった」


 ちょっと落ち着いたらしい。


「じゃあ、私とぎゅーってしよう」

「え」

「嫌、なの?」


 むしろ嬉しい。


 しかし、あの暴力的な双丘を押し付けられたら。


 考えるだけで恐ろしい。


「そうじゃないんですけど……」

「じゃあ、決まり」


 正面を向いたまま、ぎゅっと抱きしめられる。


 柔らかい。体全体が、だ。


 甘くて落ち着く匂いがする。


「ぎゅーっ、ぎゅーっ♡」


 これでいいのだろうか、とさえ思う。


 彩花さんを慰めるどころか、俺の方が慰められているような気がしてならない。


 ふだん、女子とは縁のない生活。やや彩りに欠けた青春。日々の無気力感。


 そんな不完全燃焼な生活を送る俺に、そっと彩りを与える花のようだ。


 いまは、日々の不平不満も忘れてしまおう。


「男の子の体って、あったかいね」

「そうですか?」

「うん。それに、ドクッ、ドクッって心臓の音、リラックスするなぁ」


 そういわれて、俺は意識せざるをえなかった。


 彩花さんの心臓の音。ゆっくり、鼓動を打っている。体と体で伝わる。


 俺の体が、彩花さんの悲しみとか切なさとか、諸々の感情を吸い上げているようだ。


「撫であいっこ、させて」

「ああ」


 髪を撫でる。撫でられる。


 くすぐったい。小学校低学年時代以来だ。まだ母さんが海外出張する前、本当に俺が幼い頃を思い出す。


 このままだと、幼児退行してしまいそうだ。不思議なことに、抵抗はない。


「あっ」

「乱暴でした?」

「いや、ちょっと気持ちよくて」


 流れるような、サラサラの髪。撫でるたびに、ふわっとシャンプーだかトリートメントだかの匂いがしてくる。


 ずっと触れていたいくらい、素晴らしい髪だった。


 目に見えてリラックスする姿を見ると、楽しくてしょうがなかった。


「じゃあ最後に、ほっぺたすりすり、しようね?」


 キスもその先もない。


 でも、なんだかいけないことをしているような気がしてならない。


 頬を近づけ、擦り付ける。


 心音を聞きあったとき以上に、至近距離だ。


 いささか髭が伸びていて、ジョリっといかないか不安だ。


「大丈夫ですか、俺の髭」

「ぜーんぜん。むしろ気持ちいいくらいだよ」


 すりすり。


 右と左を変えてみたり、同じ箇所を執拗にやってみたり。


 こんなこと、彩花さんでしかできない。それも、なんでもする券を使った彩花さんでしか。


 いま、ふだんでは考えられないようなことをしていても。


 なんでもする券があるから、という免罪符を使うことで、実質なんでもオーケー状態になっている。


 どこか彩花さんに申し訳なく思うものの。


 彩花さんも、その状況を楽しんでいるのを見ると、やめましょうというつもりにもなれなかった。


 永遠に続くと思われた時間は、残念ながら終わりを告げた。


「……じゃあ、これで終わりね」

「終わり、ですか」

「これ以上は、なんでもする券の乱用だよ。それに、目標は果たされたんだもん」

「私を慰めて、でしたっけ」

「そう。もう私は、幸せでいっぱいだよ。君とスキンシップをするのが楽しくてしかたなかったんだもん!」

「俺も、楽しかったです」

「ウィンウィンだね」


 僕は思ってしまった。


 ――このまま、なんでもする券を終わりにしたくない。


「あっ」

「どうした?」

「ちょっと待っててください」


 ここで俺は、重要なことを思い出した。


 家に帰り、あるものを探して見つけ出し、彩花さんの部屋に戻る。


「彩花さん」

「うん」

「俺も貰ってましたよ、なんでもする券」

「そうだったっけ?」

「はい。彩花さんになんでもする券を貰ったんです」


 僕があげたときに、一方がなんでもする券を握っているのは、あまりにも不公平極まりない、これはぶっ壊れカードである。


 かくして、両者一枚ずつ持とう、ということになったのだ。


「あららら」

「だから、俺も使います」

「命令は?」

「……このまま、続きがしたいです」

「そっか、私と付き合いたい、かと身構えてたんだけどな」

「失恋したての彩花さんにいうほど鬼畜じゃありません」

「気にしなくていいよ」


 彩花さんの胸を、俺の顔にギュッと押し付ける。


「私、次郎くんと付き合う気、もうできてるから」

「気持ち、大丈夫なんです? すぐ切り替えられます?」

「いいの。私は君よりお姉さんなんだよ。酸いも甘いも噛みわけた、オトナな女性なんだから」

「俺は――」

「私は、コロっと切り替えもできちゃうし、昔の券を理由に隣の男の子とイチャイチャしちゃうような女なんだよ? それでもいいっていうならさ――」


 彩花さんは、邪悪な笑みを浮かべて。


「――このままイチャイチャ、しよう?」


 この後、僕もなんでもする券を使った。


 結局のところ、どちらが慰められたのかはわからないようなものである。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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[一言] 連載しろください
[良い点]  やっぱ、レオンさん良い感じ。
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