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夏の花火は恋の色

作者: タルト

開いていただきありがとうございます。

また久方ぶりの投稿となってしまいました。

私の作品では初となる、現代が舞台でのハッピーエンドです。

楽しんで頂けたら幸いです。

評価・感想お待ちしています。

「あーあ、お祭り行きたかったなぁ......。」


 朝方、体温計で熱を測った少女・雪は、気を落としてそう呟いた。

 体温計が示していた数字は、37.4℃だった。



 雪は数日前から、夏風邪により寝込んでいた。

 少し前にできた、人生で初めての彼氏との夏祭りを約束した矢先のことだっただけに、雪の落ち込みようはかなりのものだった。


 雪は熱が出てからも、半ば無理矢理にでも夏祭りに行くことを主張した。

 しかし、彼氏である蓮は、雪の体調を慮りそれに反対した。

 両者ともに譲らず、話し合いは数十分に及んだ。

 そして、双方譲歩の末に「当日に熱が下がったら行く」ということで決着したのだ。



 それから数日が経ち、いよいよ祭りの当日になっても、願いは虚しく熱は完全には引かなかった。

 彼女は溜め息をつきながら枕元に置いていたスマホを手に取り、カメラを起動すると、体温計に表示されている数字を撮った。

 そして、メッセージのやり取り等を行えるSNSアプリ『LINK』を起動し、蓮に今し方撮った画像を送った。



 少しの後、雪が朝食の食パンを齧っていたとき、蓮から「おはよう」というメッセージが届いた。

 それを皮切りに、蓮の言葉が続く。


「微熱だったんだな」

「残念だけど、お祭りはナシだな」


 有無を言わさず突きつけられた事実に、沈んでいた雪の心は更に沈んだ。


 雪は暗い顔でただ「うん。」とだけ返信すると、スマホの電源を落とし、テーブルの上に置いた。

 そして、パンの最後の一欠片を口に放り込むと、再びベッドに入り、目を閉じた。



 雪が目を覚ましたのは、それから数時間の後、もう日が頂点を過ぎた後のことだった。

 普段枕元に置いているはずのスマホがないことに気付き、周囲を見回す。

 そこでスマホを置きっぱなしにしたことを思い出した彼女は、慌ててスマホを取りにいき、電源を入れた。

 画面には『LINK』の着信が5件あります、と表示されていた。それらは全て蓮からのものだった。


「今回は残念だったけど、熱が下がって体力戻ったら、2人でどっか行こうな」

「おーい、起きてるかー?」

「寝たのか? 寝たんだよな? まさか倒れてないよな?」

「(通話履歴)」

「起きたら電話くれよな」


 雪は一通り目を通すと、書かれた通りに電話をかけた。


「あ、もしも......。」

「雪、大丈夫か?」

「え、あ、うん。」

「良かったぁ。急に倒れたんじゃないかと心配したぞ。」

「......ごめん。」

「まあお前のことだから、落ち込んでそのまま電源切ったんだとは思ったけどな。......でも、せめて一言くらいは欲しかった。」

「......うん、ごめん。」

「まあそれは今度から気を付けてくれればいいよ。......それより、熱は下がったのか?」

「ちょっと待って。今測る。......一応下がってる。6度8分だって。......ねぇ、下がってるけど、やっぱりダメ?」

「約束だからな。それに、またぶり返すかもしれないだろ。......祭りは人が結構いるし、人混み苦手なんだろ? ただでさえ暑いんだし、止めといた方がいい。」

「......うん。そうだよね......。」

「まあ、ダメだったもんは仕方ないだろ。今度どっか行けばいいんだしさ。......それより、折角起きたんだし、体調大丈夫そうなら話そうぜ。な?」

「......うん。」


 通話は夕刻まで続いた。数時間もの電話は、2人とも初めてのことだった。

 終わりを迎えたのは、雪の熱が再び上がってきたためだ。


「私はもうちょっと話したいんだけど......。」

「これ以上熱が上がっても困るし、素直に温かくして寝てくれ。早く元気になれば、その分いっぱい話せるだろ。だから、な?」

「......うん。じゃあ、またね。バイバイ。」

「おう、じゃあな。」


 プツリ、という音が、静かな部屋に伝わる。

 雪は繋がっていた心が途切れてしまった気がして、朝とは違う溜め息をついた。

 そして暫くの間、名残惜しそうに終了したままの画面を眺めていた。

 しかし、高まった熱によって、再び眠りにつくことになった。



「......? うぅん......? 今何時......?」


 数時間ぶりに目を覚ました雪は、もう外が暗くなっていることに気が付いた。

 スマホに表示されていた時刻は、20時37分だった。

 あと少しすれば、祭りの会場近くで花火が打ち上がる頃合いだった。


「花火、一緒に見たかったなぁ......。」


 本来なら、お祭りデートと称して蓮と屋台を回り、一通り楽しんだ後に花火を眺めることができたはずなのだ。


「どうせなら、もうちょっと後に起きたかったなぁ……。こんな時間だと、花火、諦めきれないじゃん......。」


 雪はひとり恨みがましく呟く。

 ため息をつき、スマホを置こうとした丁度そのときのことだった。

 突然蓮から電話が掛かってきたのだ。


「もしもし......。どうしたの?」

「雪、良かった、起きてた。」

「どうしたの? 息荒いよ? もしかして、蓮も夏風邪......。」

「違う違う、ちょっと待て。......カメラつけるぞ。」


 蓮はそう言うと、息を整えながら音声通話をビデオ通話に切り替え、自分の顔を映した。

 そして、カメラ越しに笑みを浮かべると、スマホを動かし、周囲を映した。


「問題。ここ、どこだと思う?」

「どこって......。」


 雪は少し考えた後、見覚えのある景色に気付いた。


「......え、ここ、まさか花火の......?」

「正解。祭りは人ばっかでどうしようもないだろうから諦めたんだけど、せめて花火くらいは見せたくてな。結構走り回って、やっといい感じの場所見つけたんだよ。......お、もう44分だな。そろそろ始まるから、カメラ逆にするぞ。」

「あ、うん。」


 蓮がカメラで川の上空を映してから程なくして、ヒューという音ととも幾つかの花火が打ち上がり、花火大会の開始を告げた。

「わぁ......!」

「綺麗だな。」

「うん......!」


 2人はぽつぽつと打ち上がった花火の感想を話しながら、花火大会が終わるまで眺め続けた。


「......花火、綺麗だったね。」

「そうだな。」

「蓮、今日はほんとありがと。......花火見るの諦めてたから、すっごく嬉しかった。」

「おうよ。」


 蓮はカメラ越しに親指を上に向けた拳を突き出し、笑顔を浮かべた。


「来年は、絶対一緒に見ようね。」

「おう。また雪が夏風邪引かなきゃな。」

「私は体調管理ちゃんとするよ。今回ので反省したし。......蓮も気を付けてよ?」

「大丈夫、大丈夫、俺は身体丈夫だから。まあでも、気を付ける。......なんたって、彼女を泣かせるわけにはいかないからな。」

「蓮......。ふふっ、全然あんたらしくない!」

「ちょ、笑うな!これ結構恥ずかしいんだぞ!」

「あはは、ごめんごめん。......でも、おかげで元気出た! ......ねぇ、来週デート行かない?」

「んー......。少なくとも、体力戻るまではナシだぞ。」

「えー。」

「今思いっきり真夏だぞ。昼間は相当暑いし、下手すりゃ熱中症で倒れる。ただでさえ病み上がりなんだし、暫くはデートするとしてもどっちかの家に行くくらいでいいだろ。」

「......うーん、残念だけど、そうだね。......それにしても、ちゃんと心配してくれるんだ?」

「彼氏だからな。......いい加減恥ずかしくなってきたな、もう切っていいか?いいよな?」

「えー、今更だしいいじゃん。」

「......じゃあまたな。楽しかったぞ。バイバイ。」

「ちょっと、あ、もう......!」


 通話が切れたことを示すツーツーという音が、雪の耳に届く。


「もう......。......まあいっか、また明日電話すればいいもんね。」


 雪は微笑むと、恥ずかしさを紛らわすようにカーテンを開け、空を眺める。

 窓の外では、澄んだ空に美しい月が浮かんでいたのだった。

最後までお読みくださりありがとうございます。


前書きでも述べましたが、今作は現代が舞台の作品で初めてのハッピーエンド作品です。

どこか退廃的だったこれまでの現代ものとは大きく異なっており、書いていて楽しかったです。


今後の作品ですが、近いうちにもう1、2作品上げる予定です。

気長にお待ちいただければと思います。

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