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知らない間に地球滅亡の原因になっていた可能性がある件について

作者: 山木 拓


『まだこんな技が開発されているとは…』

『これバグじゃないのかよwww』

『ちょっともう知らないゲームですね』

『望んで平成に取り残されている男』

 今日の動画にも、様々な褒め言葉が書き残されていた。


 25年前に発売された伝説的ゲーム「デブリ・イーグル2」に俺はいまだにハマっている。擬人化した鷲が、宇宙征服を目論む組織の野望を打ち砕くというストーリーの3Dシューティングゲーム。主人公であるイーグル・グランツが戦闘機に乗り、組織の作ったロボットや組織の戦闘員を撃ち落としていくのだ。発売された当時は、真新しいゲーム体験や王道少年漫画さながらのアツいストーリーで多くの少年の心を掴んでいた。俺もその少年の一人だ。ただ、未だにハマっているからといって、20年前のゲームを片時も離さず遊んでいた訳ではない。普通のRPGもやったし育成ゲームもやったし箱庭型探索ゲームもやった。受験勉強もしたし、就職活動もしたし、定職にも就いた。実際は離れていた期間の方がよっぽど長いのだが、生まれて初めて買ってもらったゲームで、ハマりにハマった「デブリ・イーグル2」の事は、片時も忘れはしなかった。

 それは世間の評価も同じである。1作目の問題点を大幅に改善し、快適なゲーム性をもたらし、そして1作目で残っていたストーリーの謎もしっかり回収して。加えて、中毒性も凄まじい。臨場感あふれる画面と直感的な操作性を実現したそれらの要素は、3Dシューティングゲームとも相性抜群だったのだ。

 「デブリ・イーグル2」と本格的に再会を果たしたのは、5年前のちょうど俺が社会に出た年。過去のゲームソフトがまとめて遊べる最新のゲームハードが登場したのだ。これまでも俺はちょくちょく昔のゲームハードを引っ張り出し、思い出に浸ったりもしていたのだが、今回は違う。昔のゲームハードではオンラインにつなげないため、一人でしか遊べない。しかし最新のものだと離れた友人ともやれたし、何よりプレイした動画のキャプチャーも出来たのだ。まるでゲーム会社が「それをネットでアップロードして、代わりに宣伝してくれ」と仕事を任せてきているかのようだった。俺は、その仕事に乗っかった。

 しかしだからといって、世間では昔のゲームへの再燃時間は短かった。みんな「あのゲームがまた遊べるんだ」と知り、一通りのユーザーが購入すると、一通り遊んでから飽きてしまった。ただ一人を除いて。それが俺である。

 未だにこのゲームで新しい技を開発したり、新しいバグを発見したり、自分で自分のハイスコアを更新したりしている。ネット上のハイスコア1〜20は全て俺の記録だ。それらをネットにあげると、意外にもいろんな人が見てくれていた。さすがは「デブリ・イーグル2」である。


 今週も仕事を終えて、ゲームハードを起動する。ゲームハード内にはいくつもの過去のゲームをダウンロードできるのだが、当然「デブリ・イーグル2」しか入っていない。そして「デブリ・イーグル2」をスタートしようとしたその時、見慣れないメッセージが来ていた。

『ナガらクこのゲームを遊んでイタダキ、アりがとうゴザいます。われわれカラのささやかなプレゼントでス』

 そのメッセージには、デブリ・イーグルシリーズのロゴがアイコンとなっているデータが添付されている。最初は怪しすぎるメッセージだと思っていたのだが、すぐにそれが何か気づいた。ゲーム内に出てくるサポートキャラのアンスというロボットの喋り方を真似しているのだ。このゲームハードも発売されてからかれこれ5年も経つ。もしかしたらゲーム会社の人が、それぞれの思い出のゲームに何かサプライズを施してくれたのだろう。俺はそのデータを開いた。すると、『サラなるタタカイへようこそ』というメッセージの表示と共に、アップデートが始まり、そして「デブリ・イーグル2」が始まった。

 タイトル画面にはいつも「ストーリー」「対戦」「設定」「エクストラ」が出てくるのだが、「ストーリー」の下に「NEWストーリー」が表示されていた。俺は、今日まで生きてきてよかったと思った。学校の勉強が辛い日もあった、仕事が辛い日もあった。それらを俺は、目的もなく耐え続けてきたのだが、それは今日のためにあったのだ。

 俺はNEWストーリーを開始した。数秒の会話の後、戦闘機に乗った主人公、イーグル・グランツが映し出される。このテンポ感の早さも、このゲームの良さだ。自分が乗っている戦闘機のデザインも若干変わっていた。これを作ってくれたスタッフに、とても感謝したい。

 敵の戦闘機もだいぶデザインが変わっている。小型の大量のザコ敵や、中型の耐久力の高い敵、そしてボス。若干シナリオのボリュームは少なく感じたが、追加ストーリーとしては大満足だ。それと、やたら青い機体の小型ザコ敵が多かった気がする。このあたりは人手と資金の不足が影響しているのだろうか。しかしそんな事も大して気に留めず遊び続けた。ボスの機体にはSPOと刻まれていた。おそらく今回の敵組織の名前である。

 俺は再び、このゲームを極めた。遊びに遊んだ。かなり面倒なザコ敵もいたのだが、スムーズな解決方法を考えた。かなり攻撃の激しい中型機もいたが、回避方法を確立した。かなりの難敵のボスもいたのだが、ノーダメージで攻略する方法も編み出していった。


 このアップデートをして数ヶ月。元々「デブリ・イーグル2」は俺が一番極めている自信があったが、さらにこの追加ストーリーも、そうなれたと思う。俺は追加ストーリーでの想定されていたMAXスコアを常に叩き出せるようになったのだが、コンボボーナスや回避ボーナスを駆使して、自分で自分のスコアをさらに更新していった。

 しかしある日、『コレデ対さくの対さくは完了シマシタ』というメッセージと共に、追加ストーリーは遊べなくなってしまった。


 数週間後、目を疑う信じがたいニュースが流れてきた。

 近々宇宙人が地球を攻めてくるとの事らしい。あまりにも突飛なニュースで、ほとんどの人は信じられなかった。しかし、あまりにも真剣な政府関係者の様子や、事前偵察に来たと思われる宇宙船の目撃情報により、徐々に信憑性は増していった。いや信憑性もなにも、真実が報道されていたから、そんな真偽の精査は意味を為していなかったのかもしれない。

 この宇宙人が攻めてくるという大事件に対して、世界中の国々は事前に対策を講じていたらしい。秘密裏にWHOやFAOのような、宇宙の平和を守るための機関を発足させていたとの事だった。事前にコンピューターを使って、宇宙人がどのような兵器を用いてどのような攻撃してくるのかをシミュレーションし、ありとあらゆる戦闘を想定していたのだ。戦闘機を用意し、パイロットを育て、戦いに勝利する方法の模索を続けてきた。とにかく、とてつもなく用意周到な対策を準備していたのである。


 そして今日、地球で作られた戦闘機は迎撃のために宇宙に飛び立つらしい。町中、いや世界中の人々が空を見上げていた。

 定刻を迎えた。どこかで見た覚えのある、数々の青い戦闘機が空を駆けていった。



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