さらばわが春泥・上
明けぬ夜はないというけれど、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
それが妖魔であれば、なおさら許すことなどできない。
ため息をつき、支給されたジャケットを羽織る。
清司郎は朝の光をあびて初めて、体が目覚めると思っているのだし。
空をみあげても、まだ変わらぬまま。
はあ、とため息をつく。
「まったく、本当にくだらねぇことをしやがる」
ひとり、つぶやく。
「主。今宵は何時もより容赦なく妖魔を斬ってもらって構いません。この世に沸いて出てきたことを後悔させてやりましょうね」
「う、うん。そうだね」
バディの円寿がどこか様子がおかしい。
支給されたテープを貼られた外套が、ふわり、と揺れる。
やる気、というよりも何かに怒っている、と言ったほうがいいだろうか。
「円寿、どうしたの?」
彼は口をとざし、なにかを考えているそぶりを見せている。
「あのですね、主」
見えないけれど、こちらをじっと見ているような感覚を覚えた。
「……その……お似合いですね……上着」
「そう?」
こういった上着を清司郎が着ると、どこか工事現場の職員のようにも見えるような気がしたけれど、円寿がそう言ってくれるのならばうれしい。
それでも珍しく、口ごもってその言葉が出たような雰囲気もある。
清司郎は頭を掻いて、首をかしげた。
どこか、様子がおかしい。
それもこれもすべて妖魔のせいだ。
妖魔がいるからこんなことになる。
夜が終わらないのも。朝が来ないのも。
力があったら、すぐにでも撲殺したいくらいだ。
「なんか調子狂っちゃうよ」
円寿の様子がおかしい。
これも妖魔のせいだ。
円寿はどこか怒ったふうで、嫌です、嫌いですと呟く。
「円寿、夜が嫌いなんて言ってたっけ」
「……嫌いになりました」
外は暗く、まだ夜は明けない。
円寿が嫌なのならば、鵺退治を急ぎたいところだ。
清司郎も、このまま夜が明けないことは望ましくない。
人間も自然光がなければ、活動もしにくいのだろうし。
「がんばって鵺退治しよっか。円寿」
「はい」
円寿の軍刀をベルトにつけた装具に差す。
その直後、清司郎の表情が変わった。
険しく、眉間にしわがよるように。
「この阿伽陀清司郎、必ず妖魔どもを消してやる」




