七週間
俺の家は神社だった。社は小さく、お祭りの時期以外では地域の婆ちゃんとかがたまにお参りに来る――そんな程度の、小さな神社だ。
そんな俺が、いつものように朝の掃き掃除をしていたところ、女の子が一人でお参りに来た。どこかで見たことのある制服だな、と思ったら、俺が一年前に卒業した高校の制服だった。
女子高生、えぇやん。と邪な考えを表に出さないように、俺は無心で掃除をしていたら、あろうことかその女子高生は僕に話しかけてきた。何でもお参りの作法が分からないらしい。「とりあえずお賽銭入れたら、二回拍手して、二回お辞儀して、最後に一回拍手すれば良いよ」と教えたら「ありがとうございますっ!」と元気よく頭を下げて、女子高生はお参りをしていった。可愛い女の子だった。ただ不自然なことに、もう七月だというのに、白いマフラーを首に巻いていた。
一週間した後、女子高生はまたやってきた。相変わらずマフラーを巻いている。
「また来ましたよ」
女子高生は、俺に笑った。おいおい、この女、俺に気があるんじゃねーの? という妄想は心の中に留め、紳士に「ようこそ」と一礼した。
「ふふ、今回は完璧にお参りしますよ~」
そう言ってお賽銭を投げた彼女は、まず本殿に向かって拍手をした。
「さっそく違う!」
「……あれ、そうでしたっけ」などと寝ぼけたことをぬかす女子高生に、俺は再び二礼二拍手一礼を教え込む。すると彼女は顔を真っ赤にして、ちゃんとお参りをするのだった。
また一週間した後、女子高生はお参りに来た。また作法を忘れていたので、再度レクチャーする。
その次の週も、その次の週も、その次の週も、その次の週も、マフラーをした彼女は、早朝に神社に現れては、俺に参拝の作法を聞いて帰るのだった。
そしてまた、次の週。
彼女は神社に現れた。
だが、いつも制服を着ていた彼女の格好は、だいぶ違った。白い装束に身を包んでいる。……しかしマフラーは巻いたままだ。何の意地だよ、と思った。
「また現れたな」
「えへへ、また現れちゃいました」
女子高生はそう言って、はにかみ、お賽銭箱に五円玉を投げ入れる。そして二礼、二拍手、一礼。ちゃんと、出来ていた。
「見ましたか。ちゃんと出来ましたよ、私」
「この七週間に及ぶ修練の結果だな」
「でしょ?」と女子高生は頬を染めて、元気一杯に首肯した。
「ばかな私にここまで付き合ってくれたのは、生涯あなただけです」
「そうか?」
「はい。なのでお礼に、私のマフラーあげちゃいます」
しゅるしゅるとマフラーを外し、俺の首にかける。このクッソ暑い中で着けていたものだから絶対に暑苦しいと思ったが、どうしてかひんやり涼しかった。
女子高生を見る。初めて見た彼女の首元には、黒い縄の跡があった。
「わたし、ばかで、のろまだから、学校でイジメられてたんです」
「……」
「でも、最期に、あなたみたいな人と話せて良かった」
女子高生は笑う。だから俺は何て言って良いか分かんなくて、無理矢理言葉をひねり出した。
「……衿、左右が逆だぞ、ばか」
俺の言葉に何を思ったのか、女子高生はいつものように「えへへ」とはにかんだ。可愛かった。
「――四十九日間、ありがとうございました」
女子高生は、綺麗にお辞儀をする。
首元には、ひんやりとした温もりが残っている。
四十九日は仏教の概念なんだから、神社じゃなくてお寺に行けよと思った。
7×7=49