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#121 大空を駆ける愛

世界的にも有名な、美しくて趣のあるお寺と、その日本ならではの風景を前に、落ち着きも興奮も同時にやって来て、何だかとても忙しかった。


山崎さんと麗愛さん、そして田中さんと同じ班になり、共に歩いて行動をするという不思議な光景が、ここには広がっており、まだ違和感に視覚が慣れていない。


転んで手を負傷してしまったが、得点王になった先輩と、あの日撮った写真を画面に出して眺めても、耳は京都の静けさが存在感を発揮していた。


あなたとスマホの画面上で繋がって、あなたと一緒に旅行している気分に浸り始めたら、触れているスマホは冷たかったけど、あなたを見つめている心は暖かった。


京都の町は、落ち着いた色を保ちながらも、赤色や黄色の美しい色彩に彩られていて、あなたとこの色彩を共有出来たことに、じわりと喜びが溢れた。


あなたとのテレビ電話越しのデート修学旅行は、あなたを近くに感じられて、とても嬉しく、画面に映る綺麗な歯並びを見ているだけで、笑みが溢れた。


あなたが身代わりとして私にくれた、小さなぬいぐるみを鞄から出して、あなたの香りを感じ、姿をそのぬいぐるみに投影させてゆくと、シュートを右隅に決めた、あの日の先輩の姿は、片隅の方へと寄っていった。


口の閉じ方を忘れて、渇いた味がするくらい、あなたを考えるという行動に重きを置きすぎてしまい、慌てて口を閉じ、あなたから感じる小さな愛を、じっくりと噛み締めた。


「玲音は、京都来たことないんだよね?」


「はい。一度もありません」


「そっか」


「旅行自体が苦手で、自宅から遠退けば遠退くほど、ドキドキが止まらなくなるので」


「そうだよね」


「綺麗ですね。景色」


「そうでしょ?一旦、ぐるっと回るね」


「はい」


「玲音、見える?」


「はい。すごいです」


「そうでしょ。すごいよね」


「あの、僕のことはいいので、班の他の人と話してください」


「そうだよね。ああ、玲音と一緒に来たかったな。ねえ、今度行こうよ」


「はい。いつか、行きましょう」


遠くにいるのに、近くで一緒に美しい町並みを、堪能しているかのような感覚があり、あなたはもう私の身体のあらゆる場所に、ピタリと貼り付いていた。


身体はあなたに包まれているけど、頭のなかには知らない誰かが住み着いていて、内側からデコピンをされているような痛みが、随時やって来ていた。


田中さんにスマホのレンズを向けると、ペコリと頭を下げて、あなたもそれを見て微笑み、スマホの棒を支えている腕も、震えるようにして喜んでいた。


私の頭のなかは、京都の古風な視界よりも、そこに小さくワイプのように映り込む、あなたの成分で埋まっていて、あなたがいないと京都は成り立たないと、感じるほどだった。


あなたが四角い画面で笑うと、こちらはまあるい笑顔になり、あなたの顔のカタチの構成を見るだけで、優しさを感じ、気持ちいいほどに元気になれた。


あなたに貰った、あなたが最近ハマっているという、甘酒キャンディーの包み紙を勢いよく破り、口に放ってなめ回して、気持ちと甘さを身体に満たした。


わずかな痒さが、目を慢性的に覆い、鼻がむずむずした感覚が、隠れることを知らないまま、ずっとずっと、共に歩いているような感覚になった。


スマホの電池の残量や、モバイルバッテリーのこと以外は気にならず、スマホに喋りかけている間の周りの目は、ほとんど気にならなかった。


愛で熱せられた身体と、目の前にあるスマホの身体は火照っていて、画面上でゆらゆら揺れるあなたの顔は、いつもより赤みを帯びているように感じた。


ホテルに戻り、夜のベッドに寝転び、あなたと再びテレビ電話をして、流れで電話越しのあなたにキスをしたが、その唇や指の感触は、思った以上に冷ややかだった。


同部屋の田中さんに許可を得て、電話を繋ぎながら眠りに就こうとすると、ずっと、あなたのガサガサ音が、ベッドに寝そべる私の耳に入り続け、最高に癒してくれていた。

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