第99話 家族の消息 (後編)
俺たち、冒険者をやってんだよ。やっぱ、魔法のある異世界に来たら冒険者!で、ダンジョンでしょ!?
そう柳君は話し出した。久保田君と吉村君も隣でうんうんと頷いている。
戦闘特化の久保田君、全魔法の資質を貰った柳君、鑑定・調薬・錬金と後方支援の吉村君。彼らがオルダに転移したときに降り立った場所は、私が最初に着いたサラクから海を挟んだ国だと言う。しかし、冒険者登録をしたそこに定住することなく、国内外問わずに面白そうな所をさがしてはダンジョンに潜り、魔物の討伐をし、順調に冒険者ランクを上げつつオルダ生活を満喫しているそうだ。
彼らが私の家族らしき人たちと出会ったのは転移の半年後。アマレロという国の程ほどに栄えたラランジャと言う都市だと、柳君はそう語り始めた。
◇◇◇
「え、お兄さん、日本人じゃない?」
調薬をすると言う吉村を宿に残してギルドに来たら、背後から若い女の子に声を掛けられた。
最初はクラスの誰かかと思ったけど、振り返ってみたら随分と年が下のようだ。見た目はもろ日本人。黒髪で黒目のあっさり系の顔立ちをしている女の子。
妹がいるわけでもないので、年下の女の子に詳しい訳じゃないけど、この位の子ならアニメ系の凄い髪色とかでもおかしくないのにな、なんて思う。
第二界への転移者は俺たちが初めてだと聞いたけど、あの後にまた成功したのかな?
人口激減・魂が他所の界の輪廻に組み込まれてしまったために移住者を募集しているんだから、俺たち15人で終わる訳は無いと思ったけど、ずいぶんと間隔が短くないか?
とりあえず、魂が第二界に定着するかどうかを見極めるとかしないんだろうか。そんな風にも思ったけど、管理者さんには管理者さんの都合があるんだろう。
「ねーねー、お兄さん。日本人でしょ?」
第一印象は不躾な子だな、と言った感じだ。けど、まだ小学生みたいだからなと思い直す。子供だけで異世界転移したんだろうか、だとしたら苦労するよなぁ……なんて思っていると、その女の子が依頼ボードの方に向かって、手を振りながら大声を出した。
「お兄ちゃーん、ね、来て来てー!」
保護者がいるんかいっ。子供を野放しにしてちゃ駄目だろー。お兄ちゃんと呼ばれた、俺より幾つか年上の男は、慌てた様子でこちらに来ると、まるで俺が悪さをしたとでも言いたいように、女の子を背に庇う。
「何か?」
そう睨みつけられても、こっちこそ何か!?なんだけど。
「お兄ちゃん、この人、日本人じゃない?私たちより先にこっちに来た人じゃない?」
「……え?あ、そうか、俺たちより先に15人ほど来てるって話だったよな」
なんか、面倒くさそうだからスルーでいいだろうか。それとも、それを堪えてでも情報交換をするべきだろうか。――大して実になる情報もなさそうだから、やっぱりスルーするか。そう思っていると、久保田が空気を読まずに声を掛けてきた。
「柳、どうした?」
今はちょっと放っておいてほしかった。が、言わなきゃ分かんないよな。
「あ、やっぱり日本人だ!」
女の子は嬉しそうにお兄さんの腕にぶら下がってはしゃいでいる。
「こんな所で大声で言わないで貰える?界渡りはみだりに言わないようにって聞いてるでしょ?」
小学生女児相手にちょっときついかなとも思うけど、喧伝されては堪らない。
「あ、じゃあ、私たちが泊まってる宿に来て!お父さんとお母さんとも会って!」
……甘やかされて育った子なんだな。天真爛漫とか無邪気とか、そういう感想を持ってくれるのは身内だけだよ?傍から見ると、躾のなっていない図々しいガキだよ?自分の子供の頃を考えると、小学校高学年女子って、もう少し周りを見ることが出来ていたような気がするけどなぁ。
しかし、ここで騒がられるよりマシか。大人が一緒ならもうちょっと穏便な会話も出来るだろう。
「久保田、この人ら、俺らの後から来たらしい。ちょっと情報交換しようと思うんだけど?」
「へぇ。結構早いな」
久保田も、第二弾の移住が思ったより早かったことに驚いた様子だ。
「お兄さんも一緒に行こ?」
第二弾の移住者らしき兄妹と向かった先の宿は高級ではないが、冒険者ランクをある程度上げた俺たちでも、ちょっと財布に厳しいと思える等級の宿だった。
「お父さん、お母さん、日本人の人を見つけたから連れて来たー!」
「あら、凄いわね、私たちの前に移住した人なのよね?」
「そうそう!お兄さんたち、入って入って!」
そこにいたのは普通のおじさんとおばさんだ。どうやらこの一家は見た目を変えることを選ばなかったらしい。
聞くと、この人たちは車で家族旅行をしていた時に玉突き事故に巻き込まれたそうだ。狭間では48人いたが第二界に来たのは12人だと言う。そのうちの4人がこの一家。俺たちと同じく冒険者をしていて、第二界に来たのは5か月前。
俺たちを送った一か月後には第二弾か。管理者さんは、割とせっかちなんだろうか。
「お姉ちゃんがバスの事故で死んでね、保険金とかいっぱい入ったんだって。それでみんなで旅行しよーってなって、でも、その旅行で事故ったんだよ。そのお金でお家を建てる計画とかもあったのに残念。自分だけ先に死んじゃったからって、お姉ちゃんが恨んでるのかも」
おいおい、随分勝手な言い分だな。
「そういう事を言うのはやめなさい」
と、父親が嗜めるもこの子は平気で口を尖らせ抗弁する。
「お父さんだって言ってたじゃん。せっかくいっぱいお金が入ったのに、使えなくて勿体なかったって」
「ジャスミン、駄目よ」
母親も咎める。……ってかジャスミンって言うんだ。へぇ……。
「俺たちもバスの事故に遭ってこっちに来ましたからね。家族が保険金が入ってラッキーなんて思ってたら辛いです」
なるべく悲壮感が出るように、心持ち俯いて呟く。
「え、あの、この子もそういうつもりで言ったんじゃないです。まだ、子どもなので良く分かっていないんですよ」
そこまで幼い訳じゃなさそうだけど?11歳か12歳?くらいでしょ。
「えー、お兄さんたちもバスの事故だったの?」
母親のフォローも何のその、ジャスミンちゃんは何も堪えていない様子だ。
「お姉ちゃんと同じ事故だったりして。で、お姉ちゃんもこっちに来てるの!」
「いや、そりゃないだろう。それに、来ていても……なぁ?」
父親が言う”来ていても”とはどういう意味だろうか。ちょっとムカつく。
「そんな偶然は無いよ」
「でも、もしも……」
兄があり得ないと否定するも不安げに母親が言う。それって、来ていたら嬉しいって事じゃないよね?もしも来ていたら厄介だって感じに見える。
なんだか苛つきが収まらない。
あっちに残してきた自分の家族はこんな風に思っている訳が無い。その辺は家族を信頼している。しかし、身内にこんな事を思われている相手が、もしかしたら同級生の中にいるのかもしれないのだ。そりゃ、ムカつくに決まっている。
久保田も同様に考えているのか、眉間に皺が寄っている。
「あ、すみません、このあと約束があるのをすっかり忘れてました。申し訳ないんですけど、時間が無いのでこれで」
情報交換も収集も要らん。そう思って席を立つと、あちらの親たちはホッとしたように肩の力を抜いた。流石にここでの話が他聞を憚るものである事くらいは分かっているようだ。
子どもの躾はちゃんとした方がいいぞー。もう、二度と会いたくはないから成果を知る由もないけれど。
「えー、残念。お兄さんたちともっとお話ししたかったなー」
うん、君はもっと空気を読む努力をしようか。ご両親もお兄さんも俺たちに帰って欲しいオーラが出てるから。
「私たち、堀一家って名前でパーティを組んで冒険者やってるの。どこかで会えたら一緒にお仕事しようねー」
◇◇◇
「堀さん、ごめん。いい気持ちはしないの分かってたけど、もし、あの人たちが本当に堀さんの家族だったら知っておいた方がいいと思って」
ショックを受けた私に向かって、柳君が申し訳なさそうに言う。柳君のせいじゃないのに。
「すみません、ちょっと驚いちゃって……。異世界転移を喜ぶのって、中高生とか20代とか、そんなもっと若い世代かと思ってたのに、まさか40代半ばのあっちの両親がオルダに来るなんて。ラノベとかゲームとか好きだったんでしょうかね?そういうイメージ無かったので呆然としちゃいました」
「え?」
「あの、気にするところ違うんじゃ……」
「中高年どころか後期高齢者の異世界転移やら転生やらだって、ラノベにいっぱいあるじゃんー」
うん、ラノベではよく見るけど、実際に40代半ばで異世界に行こうなんて思うのかな?あの人たちは、堅実で”普通”が好きな人たちだったと思っていた。
「それに、妹さん……ジャスミンちゃん?がこっちに来たがったら、親としてはさあ行ってこいって訳にもいかずに付いてくるんじゃないかな?」
なるほど。確かに兄ならともかく小学生の妹が異世界に行くと言ったら、親としては自分が行きたいかどうかはともかく付き添うか。
「年齢関係なく”死にたくない。死ぬくらいなら新しい世界にでも行ってやる”と思うのは不思議じゃないし」
「そう……そうですね。偏見でした」
「いや、謝る事じゃないから!」
頭を下げた私に、吉村君が慌てる。
おそらく、柳君たちが会ったのは、本当に第四界での家族だっただろうなぁ……。妹はジャスミンという名前じゃなかったが、こちらに来て付けたんだろう。
両親と兄が姉を蔑ろにしているように見えたから、自分も姉を下に見ていた妹の話でした




