第96話 またまた同郷人と遭遇
誤字脱字のご指摘、本当に助かっています
へっぽこでスミマセン
本当にありがとうございますm(__)m
王宮での仕事の三日後のガチャで、また竜の逆鱗が出た。
ひょっとして<所持数制限:1>とかいう決まりでもあるのかな?だったら、もう一度アムリタを作っておいて、竜の逆鱗が出るのを待ってもいいかもなー。
そんな事を考えていた時、アズーロ商会からのお使いの人が来て、リズ様からのお手紙を渡された。
曰く、王宮でのゴタゴタはまだ続くけれど叔父様――国王陛下――の容態はほぼ恢復し、あとは食事もろくに摂れずに寝込んでいた間に弱った体を元に戻すだけだという。私に直接お礼をしたいと言っていたけれど、リズ様がお断りしてくれたそうだ。
いいのかな?王様の召喚とかだったら市井の薬師としては断れないだろうと思うけど。いや、私は断らずに逃げるけど。
魔導長官は素直に罪を認めていると言う。
『よっぽどホリィが怖かったのですわね』と書かれていたけれど、そこまで怖がられる意味が分からない。私は非殺傷の魔法しか使ってないじゃないか。呪詛返しを受けたせいで自分の命数が分かっているからじゃないのかな?
エドさんが言うには、この国の魔導士の頂点である魔導長官が長年に渡り研究して準備した呪術を跳ね返されたばかりか、対面しての魔術も効かず、逆に己は簡単に無効化させられてしまったことで心が折れたのではないかという。自分よりずっと若く経験も無い筈の子どものような娘に成す術も無かったことで忸怩たる思いだろうとも。
ごめん。これはエムダさんから貰ったチートのおかげであって、私が研鑽した物ではないです。
なんにせよ、リズ様が私を王宮から隠してくれて後始末を付けると言うのだから、全てお任せだ。
私は市井の薬師ライフをのんびりと満喫するのだ。
――そう思っていたにもかかわらず、ひと月後には新たな問題が発生してしまった。
◇◇◇
「リズ様、お疲れさまでした。ほんっとうに全てをお任せしてしまってスミマセン」
「ふふふっ、宜しくてよ。私がしたくてしたこと……というより私がすべき事でしたの。ホリィはその後、変わりなくて?」
私がリズ様からお手紙を頂いてからひと月が経って、やっと余裕が出来たのかお茶のお誘いを頂いて、今日はお仕事ではなく茶話会という事でアズーロ商会に来ている。
「はい、おかげさまで元気に調薬してます」
ダンジョンに行く機会はめっきり減った。必要な植物系素材は家の庭で欲しいときに欲しいだけ育てられるからだ。
「元気に調薬ですの。楽しそうですわね」
クスクスと笑うリズ様に疲れの色は見えなくてホッとした。私がのんびりしている間にあちこちで会談したり根回ししたり謁見したり交渉したりと大変に忙しかったらしいので、ぐったりとしていたら良心の呵責を感じるところだった。
「リズ様、王宮で大変だったのにお元気ですね――というか、却ってお肌艶々できらっきらですね?」
「とても充実していたからかしら?楽しかったですわ。それもこれも叔父様を治してくれたホリィのおかげでしてよ」
楽しかったのかぁ……私は半日いただけでグッタリだったんだけど、リズ様凄い。王宮でも市井でもそのままでいられるなんて尊敬に値する。見習えないし、手本にする気も無いけれど。
それからリズ様は魔導長官の事を話してくれた。彼が王兄である事実はないそうで、彼の母が当時の王の寵愛を受けたことも無いそうだ。結婚前の娘が妊娠の事実に気付いたとき、王は隣国での会談の為に国を留守にしていたと言う。
どういう脈絡でそう思い込んだのかは、すでに亡くなっている女性からは聞き出しようがないが、魔導長官は幼いころから「本当ならあなたは王宮にいて、次の王になるはずだった」と繰り返し聞かされて育ったそうだ。
母親の妄執に引き摺られた彼を気の毒には思うが、王に対する呪詛という大犯罪の前では情状酌量の対象にはなるまい。
「あ、そうだ、リズ様。これ、リズ様にどうぞです」
私はバッグからアムリタを二本出してリズ様に差し出した。
「あの時の調薬で5本出来たんです。国王陛下に一つ使って残りの4本のうち2本は、エドさんとサジさんに贈りました。リズ様にも一つ進呈します。お守りだと思って受け取ってください。あと一本は王宮に万が一の為にと言って売りつけようかと思いまして」
エドさんとサジさんは、それはもう拒否と言えるレベルで遠慮したが、時間停止機能付きバッグに入れたアムリタを押し付けておいた。その時の呆れたような顔は忘れられない。
「……これは、アムリタ、ですわよね?」
「ですです」
「ホリィ……あなた」
あ、あの時のエドさんとサジさんと同じ顔だ。アムリタを突きつけられると皆こういう顔になるのがお約束なんだろうか。
「ありがとう、ホリィ。遠慮はしませんわ。けれど、王宮に売るとなるとあなたの分が無いのではなくて?」
おお、固辞されるかと思ったけど、エドさんやサジさんよりも話が早い。だが、王宮に売りつけようと出した分は、イザという時まで取っておきなさいと言われた。
「大丈夫です。今また材料を集めているところで、近いうちにまた作れるかと思います」
「…………」
「?」
「確か、竜の逆鱗が一つしかないと言ってなかったかしら」
リズ様とのお付き合いも一年を超え、お人柄も重々承知しているし、信頼もしている。隠し事の多い私の便宜を図ってくれ、やらかした諸々の後始末もさせちゃっている。そろそろ小出しにしていた私の秘密を打ち明けてもいいんじゃないかと思っていたので、今日はいい機会かもしれない。
「リズ様、秘密は守って下さいますか?」
「え?それは勿論ですわ。今までのお付き合いで信頼はされているものと思っていましたのに」
ちょっと恨みがましい目つきで私を見たリズ様は、それでもすぐにその表情を引っ込めた。
「私がこの世で一番に失いたくない夫にかけて誓います。私はホリィの秘密を守ります」
「ありがとうございます。えーと、ドアの外に人の気配を感じるので、遮音結界を張らせていただきます」
リズ様は私との茶話会に、お茶の用意をした後のお付きの人まで部屋から出してしまったので、恐らくその人たちがドアの外で待っているのだろう。これは仕方ない。彼女たちはリズ様が大事で大事で仕方が無いように見えたから。
リズ様もそれは承知しているのであろう。「構いませんわ」と微笑んだ。
結界を張って、リズ様に私のこれまでの事を打ち明けると、リズ様は目を見張って驚いた顔をしていたけれど、黙って最後まで聞いてくれた。
「この事はエドさんとサジさんしか知りません。打ち明けたのはリズ様で三人目です。突拍子もない話なので信じてくれとは言えませんが、ご内密に願います」
ぺこりと下げた頭にリズ様の手が触れる感触がしたかと思うと、優しく撫でられた。
「大変だったのね、ホリィ。あなたはよく頑張りましたわ。私を信じてくれてありがとう。あなたの信頼に値する人間だと、これからも証明し続けますわ」
「信じてくれるんですか?」
思わず顔を上げた私に微笑むリズ様は、小首をかしげて不思議そうに言う。
「あなたが私を信じてくれたのに、どうして私があなたを信じないと思いますの?」
ああ。嬉しいなぁ。私、本当にオルダに来てよかった。人と関わることを諦めていた私がエドさんに出会ってから、サジさん、リズ様へと繋がった道。この道が正しい道なのだと、心から思う。出来れば同郷のみんなもそう思っていますように。
「ありがとうございます。大好きです、リズ様」
「私もあなたが大好きよ、ホリィ」
それからは他愛もない話で楽しいお茶の時間を過ごした。辞去の挨拶をすると、またお喋りしましょうねとリズ様が言う。私も喜んでと頷いて、見送ってくれると言うリズ様と共に部屋を出た。一階に降りると、アズーロ商会の従業員に捕まったリズ様に「ここまでで大丈夫です」とお別れを告げる。
商会の店舗部分を通り出入り口へ向かうと、お客様なのか3人の男性が入ってきた。
「ここの薬がすっごくいいんだって」
「でも、お高いんでしょう?」
「それが今ならなんと!……って何を言わすんだよ。なんでも、普通の回復薬の2割増しの値段で効果は1.5倍あるんだって」
「ヨシだって回復薬なら作れるじゃんかー」
「いや、俺は普通のしか作れないからさぁ。少し研究してみようかと思って、な、柳」
「俺は普通ので十分だと思うんだけどね。ヨシの向上心はイイと思う」
小声で話しているその会話は、店の奥にいる面々には届かなかったかも知れないが、私にはしっかりと聞こえている。
オルダって、やっぱり狭い世界なんじゃないだろうか。
またまた同郷人と遭遇しちゃいました。




