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第95話 元王子

 「おはようございますー」

 結局、昨日はベッドでゴロゴロしているうちに寝落ちしてしまい、起きたのはとうに日が昇った後だった。10時間くらい寝たかもしれない。


 「おう、昨日はお疲れ」

 「おはよう、ホリィちゃん。疲れは取れた?」


 昨日は家で昼食を取ったあと、もう今日は何もしたくないから部屋でゴロゴロします!と宣言して部屋に籠ったので、ちょっと心配をさせてしまったかもしれない。サジさんが淹れてくれたお茶をソファで頂きながら反省する。


 「はい、もう、すっかり大丈夫です。ありがとう、エドさん、サジさん」


 陛下や魔導長官のその後はどうでもいいのに、エドさんが説明を始めた。


 「陛下はその後、容体も安定して熱も下がったそうだ。四肢の変色も跡形もなく恢復したってよ」

 「それは良かったです。でも、もう王宮でのお仕事は嫌ですねぇ。リズ様に頼まれたらもちろん受けますけども、場違いが過ぎるわ騒動は起きるわでしんどかったですもん」

 市井の薬師がどれだけ楽か分かったよ。面倒事はリズ様に丸投げしてやりたいことだけやれる生活って素晴らしい!


 「騒動に関しちゃ、そうそう起きることじゃねーけどなぁ。それに、最後の方はきっぱりと自分の意見を通してたし、お前なら王宮の薬師もやれんじゃねーか?」

 「そうそう、”帰りたい”を押し通してたものね」

 「いやいや、勘弁してください。今の自分の生活がどれだけ素晴らしいかを認識したとこなんですから。それに最後の方って、もう、疲れててややキレ気味でしたからねー。あれを通常運転には出来ないですよ」

 本気で無理。言葉の裏を読む会話とか、婉曲な言い回しとかは私に出来る気がしないし、やる気も無いし面倒くさい。


 「あ、そうそう、エドさんって実は王子様だったんですねー」

 「お……おう」

 エドさんがちょっと引いた。ん?この話題はダメだったか。魔導長官が言うような恨みを持っているようには見えなかったし、普通に王宮にも同行してくれたから問題ないかと思ったんだけど。


 「ごめんなさい。話したくない事だったら……」

 「あ、いや、そうじゃなくてよ。俺が元王子だっつったらお前が引くかもと」

 「秘密と言う訳ではない?」

 「リズは勿論、サジだってレーグルだって知ってるしな」

 「私はハブ……仲間外れです?」

 「いや、そうじゃなくて、だな」


 しどろもどろのエドさんの説明(いいわけ)では、最初のうちは自衛の為に口にすることは無かったが、その後は私の国や教会の囲い込みが嫌、市井で一市民として暮らすなどの言葉で王家(ゆかり)であることを明かし難くなってしまった、という事らしい。


 「王家に追われてってわけじゃねーぞ?王家にあるまじき魔力無しだっつーのは、ま、外野はなんだかんだと言ってきたが身内にはそんな態度を取られたことはねえ。王太子を始め兄上は4人もいるから、母親の実家の伯爵家で跡取りが病死したときに、そっちの後継として養子に入ったんだ」


 しかし、その後で伯爵夫妻が子宝に恵まれてその子が男児だったため、自分は継嗣の座を降りて義弟に譲り、軍に入隊したと言う。それだけ聞くと伯爵家は王家から養子として入ったエドさんを蔑ろに、さらに言えば王家をも軽視したことになりそうなものだが、そうはならなかったと言う。


 「義父上も義母上もいい人でな、世話になった俺が軍人になりたいと言うのを、自分の選んだ道を進むように言ってくれたよ。陛下も俺が元々武官になりたいのを知っていて文官の家系の伯爵家に入れたことを詫びてくれたし」

 おお、いい人ばっかりの世界じゃないか。


 「それなのに、その軍もやめちゃったんですねぇ……」

 「ぐっ。そ、その件では各所に迷惑をかけたし、心配もかけて申し訳なかったと、思う」

 「ホリィちゃん、その辺はちょっと事情があってね、色々と」

 サジさんがエドさんのフォローをする。


 「そりゃ、よっぽどの事情が無いと伯爵家のご両親や国王陛下に無理を言って入った軍をやめたりはしないでしょうねー」

 「――ホリィ、お前、今日はちょっと俺にあたりがきつかねーか」

 いじけたような顔でエドさんが言う。もちろん、キツイのはわざとです。


 「だって、私だけ仲間外れっぽくて残念だったんですもん。もう、エドさんとサジさんは家族みたいなものだと思っていたのに、私にだけ隠し事してたんですもん」

 要はちょっと拗ねたのだ。


 「それは……うん、俺が悪かった。スマン」

 大きな体を縮みこませて小さく頭を下げるエドさん。これは私の言いがかりなのに、謝ってくれたエドさん。


 「こちらこそゴメンナサイ。隠し事するななんて言うような立場でも関係でもないのは分かってますよー。八つ当たりでしたね、今のは」

 「いや、こっちこそ、だな」

 「あー、はいはい。どっちも悪かった。で、どっちも謝ったからこれで終了、いい?」


 パンパンと手を叩いたサジさんの提案に私とエドさんは頷いて、顔を見合わせて笑ってしまった。初めての親子喧嘩、かな?実の親にもこんなに甘えることは無かったのに、エドさんにはついつい甘えてしまう。甘えを許してくれるこの場所で、私も甘やかされるばかりではなく温もりを伝えていきたいと、切に思う。


 「王家の縁って事で寄ってくる人間も去る人間もいたからな。やっぱり難しいんだよ。で、どうよ、引いたかよ?」

 「そりゃもう引きましたよ!」

 きっぱりと断言すると、エドさんはちょっと寂しげな顔をした。サジさんが心配そうな顔をして私を嗜めるように見る。


 「いやいや、私が前にいたところでは王子様と言えば”白馬に乗った”と枕詞が付くくらいに王子様と言うのは、瀟洒で雅やかで煌びやかで華やかで、容姿端麗、眉目秀麗、賢くて温厚で紳士で女性に優しくて……」

 「おい、ちょっと待て。お前のいた所ではそんなとんでもない王子がいたのか」

 「私がいた国には王子はいませんでしたよ?よその国ではいるところもありましたけど、いま言ったのは物語の中の王子さまです。私の故郷では、王子様といったら容姿も性格も素晴らしく、地位や富を持った女性の憧れという意味で使ってますから」

 「物語……ね。そりゃ、何でもアリだわな」

 「完璧王子さまが当たり前の世界かと思っちゃったわ」


 なんでもありですとも。ただ日本の乙女たちは貪欲で正統派の王子様系キラキラキャラを欲する人もいれば、俺様系がイイだの、ツンデレ、ヤンデレ、溺愛系、わんこ系、弟系などなどそれはもうありとあらゆる嗜好を満たすカルチャーがあったので、エドさんのようなガチマッチョ系王子様もきっと需要はあったと思う。ニッチかもしれないけれど。


 「そうなんです。私の中にある王子様のイメージはそんな感じなので、エドさんが王子様と聞いて引きました。エドさんは白馬というよりも赤兎馬が似合うし」

 「せきとば?」

 「あー、これもあちらの物語の中なんですけど、一日千里を走る稀代の名馬で血のような汗を流す猛々しく戦場で優れて名を知らしめた馬ですね。エドさんは優雅な白馬よりも、こっちの方が似合うかな、と」

 「お前が俺をどう思っているかは、なんとなく分かった。俺も雅な白馬より精悍で勇猛な馬の方が好きだし。で、俺が元王子でも気にしないってのも」

 気にしないね。


 「エドさんはエドさんですもん。王子様と聞いて驚きましたけど、でも、やっぱり私にとってエドさんはオカンです」

 「オカンはやめろっつーの」

 「じゃ、オトン?サジさんはオネエだし、やっぱり家族っぽくて嬉しい」

 オネエの意味は姉妹のうちの姉と言う意味ではないけども。


 「だな、俺らはもう家族みたいなもんだ」

 「そうね、家族ね」


 また二人の「不憫病」が出たか、私の両脇に座った彼らから私は撫でまくられた。


 「エドさんとサジさんが家族みたいなもんだから、大丈夫ですよ、可哀想に思わなくて」

 「可哀想とかじゃなくてな」

 「そうよ、家族みたいで嬉しいなって事」


 「それならいいですけども。――じゃ、私からも!」


 右手でエドさんの、左手でサジさんの頭をくしゃくしゃと撫でまくる。傍から見たら奇態な光景じゃないかなーと、思いつつも幸せ家族だからこれでいいのだ。


 二人には申し訳ないけど、結婚はもうちょっと先にしてほしいなー、なんて、言えない我儘は自分の中に仕舞っておく。


三か月間毎日更新達成です°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°

読んで下さっている皆様ありがとうございます。皆様のおかげです!


これからも、どうぞよろしくお願いします(≧▽≦)


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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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