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第93話 犯人はお前だ! 2

 魔導長官に「犯人はお前だ!」と言ったものの、周囲はぼーっと立っているばかりで反応は無い。もちろん、正気だったとしてもネタが分かる人なんて一人もいない。ちぇっ。


 「それがどうした。隷属しないと言うのなら、お前にはその罪を命で贖ってもらおう。それが嫌なら……」

 「罪を犯したのはそっちでしょうに!」


 今度は物理攻撃か?いいよー、どーんと来い。どっかーん&きゅーっってなりたいならな!人間が魔物ほどに衝撃のあるどっかーんを出来るかどうか――無理だよね、多分。という事は物理攻撃で私を害することは不可能だと思う。


 「そもそも、あなたの命の方が危ないんじゃないの?呪詛は還された。そのうち手足が黒ずんで?高熱で身動きもままならなくなって?どの位で発動するんです?いつまで持つのかなーっ」

 「……っ」

 痛いところを突きました。わーい。

 ここで唐突に暴挙に出たのは、自分の命がかかってるからなんだねぇ。呪いをかけるときに、それを返されるとは思わなかったんだろうか。返された時の用意を全くしていなかったのならお粗末だ。

 呪詛返しを返されたら、呪詛返し返しで返り討ちに、呪詛返し返し返しを返されたら――って、アムリタは5本しか作れなかったので延々と続けられる訳じゃないんだし、あっちが対策を練ってなかったのはラッキーだったんだよ、うん。よっぽど自信があったんだろうね。


 「だから隷属させたかったんでしょ?私に薬を作らせるために。残念ながら竜の逆鱗がもうないので作れないけど」

 アムリタはまだあるけど、竜の逆鱗は無いので嘘は言っていない。


 魔導長官の顔が激昂の赤から蒼白に変わる。これが望みを絶たれた人間の顔か。


 「隷属の魔法は効かない。竜の逆鱗は無い。さあ、あなたはどうするの?神妙にお縄についたらどう?」

 お縄につくという言い回しがこの世界にもあるかどうかは知らないが、意味は通じたようだ。

 「アムリタでなくとも、お前はエリクサーやソーマさえも作れると聞いた。ならば、そちらを作ってもらう」

 はい?隷属させられなかったくせに何を言っているんだろう。物理攻撃来る?返り討ちにするよ!にしても、復活が早いな。さっきまで蒼白だった顔色がもう戻っている。


 「リザベツ、これを自分の首に当てろ」

 魔導長官はリズ様に向かって鞘から抜いた短刀を突きつけた。

 「小娘、リザベツの命が大事なら――」

 「卑怯者っ!」

 「何が卑怯か。私は正当な権利を取り戻すのだ。卑怯者は私が座るべき玉座を不当に奪った私の弟であるあの男だ!私の居場所を奪い、私の妻となるべき美しきルナマリアを奪い……私は奪われたものを取り返すために、この三十年を費やしたのだ!」


 この人は王族なんだろうか。元王族?周囲の人たちは魔導長官として尊重しているようには見えたが上つ方に対する敬意とは違うような気がした。


 「どんな事情があるかなんて知らないしどうでもいい。私は国の中枢にはまったく関係のない市井の薬師だから。私が知っているのはあなたの企ては失敗したって事だけ」

 「失敗なぞしておらんっ。お前に薬を作らせ、エドヴィリアスタに罪を被せ、私は玉座に座るのだ!」

 「どうやって?ってか、何でエドさんよ?冒険者が国王を呪い殺そうとするって無理があるじゃない」

 「はっ」

 魔導長官は私を見下げ、嘲笑うと言った。


 「エドヴィリアスタは王族の地位を奪われた第五王子だという事も知らなんだか、小娘」


 第五王子……エドさんが?


 「奴も王を恨んでいるに違いない。恨まずにおられるものかっ」

 「それはエドさんに聞かないと分からない」

 毎日楽しそうに冒険者として生活していたエドさんが王様を恨んだりしているかなぁ?


 「お前に何が分かる。王族の地位を奪われることの屈辱など、ただの庶民の小娘に分かるはずがない!」

 「そこ!そこ、もう一度!」

 「なんだと?」

 「ただの庶民の小娘って所を、もう一度!あ、エドさんもリズ様も聞こえていないのか……いや、二人に聞こえてなくてもいいや。もう一度!」


 だよねー、私、ただの庶民の小娘なんだよ。

 隣国の流行り病の薬を作ったり、陛下の病の原因を突き止めてアムリタを作ったりして、ちょっとヤバいかもと思っていたけど、客観的に見てわたしはただの庶民の小娘なんだと胸をなでおろす気持ちだ。

 そう思ってアンコールしたのに、魔導長官は胡乱げな目で私を見るだけで繰り返してくれない。けち臭いなぁ、減るもんじゃないんだし言ってくれてもいいじゃないか。


 っと、今はそういう時間じゃない。取り乱してしまった。


 「話を戻すけど、私はあなたに薬を作る気はさらさらない。エドさんの事はエドさんに聞かないと分からないけど、恨みつらみで生きているようには見えない。少なくともあなたより私の方が今のエドさんを知ってると思うけど?」

 「ふっ。魔力無しが王族に生まれたこと自体がそもそもの間違いよ。いや、そもそも本当に弟の種かどうかも怪しいわ。愛妾であったエドヴィリアスタの母にもそこそこの魔力はあったのだからな」

 「あー、そういう話は結構です。エドさんの個人的なお話はエドさんが話したいときに本人から聞きますから。外野からわちゃわちゃ言われるのはお断りです」

 30年も生きてりゃ色々と過去はあるさ……あ、違った、エドさんはまだ24歳だった。


 「小娘、リザベツの命が惜しくないのか。私の命令一つであの短剣を喉に突き立てるぞ?国王暗殺未遂の犯人としてエドヴィリアスタは生かしておこうと思っていたが、奴の命を盾にした方がお前には効くか。分不相応にも懸想しているようだからな。――いや、愛妾の産んだどこの馬の骨の子か分からぬ放逐された元王子ならば、素性も知れぬ小娘と似合いか」

 「懸想はこれっぽっちもしてないですけど、エドさんは大事な家族なんで殺されちゃ困りますねぇ。馬の骨でも牛の骨でもいいですし」

 

 焦りの見える魔導長官に対し、こちらは余裕綽々だ。伊達にエムダさんからチートを貰ってないよ。精神干渉系でも物理攻撃でもどんとこいだ。


 魔導長官は何かをブツブツと小声で言っているだけで仕掛けてくる様子が無い。あれも詠唱だったりするんだろうか?それとも精神のバランス壊れて、ちょっといっちゃってるんだろうか。


 さて問題は、自分から攻撃したことが無いので魔導長官を捕縛するにはどうしたらいいのかが分からない事だ。どうすればいいんだろうね?


 こういうトラブルに対処した経験が無いので、ベストな動き方が分からない。


 ぶっつけ本番になるけど、麻痺をかけてみるか。で、エドさんたちを解放して、こっそり仕込んだ録音機能を付与した小銅貨で流れを理解してもらう。自分で再現することは無いだろうけど、魔導長官が詠唱を始めたときに記録の為に発動させておいたのが幸いした。その後の会話もしっかりと録音できている筈。


 えーっと、麻痺ってどんな感じかな。

 魔法はイメージが大事。なので想像してみる。麻痺……しびれっていうとスタンガン?正座したときの足のビリビリ?フグの毒?


 スタンガンは確か体にすこーし電流を流すことで痺れるんだよね。うん、却下。すこーしの加減が分からない。感電死って言う言葉もあるくらいだ。調整できなくてポックリ逝かれても困る。色々と話をしてもらわなきゃならないんだろうし、この人の為にアムリタを使う気も無い。……死者をも蘇らせるってホントかなーと、ちょっと試してみたい気もするが。


 フグの毒もよく分からないので却下。中ったら砂地に埋めるんだよね、確か。そのくらいしか知らない。


 自分で身をもって知っているのは足のしびれ位か。えー、正座を1時間した時の足のしびれの十倍を全身に巡らせるイメージで。命にかかわる事にはならないだろう。精神的にはクるかもしれないけれど、それは私の知ったことではない。


 【麻痺】


 「ぐっ……はっ……お、お前、私に何を……」


 おお、成功の様だ。魔導長官は立っていられずに倒れ込んだ。その時の衝撃がまた痺れた体を苛んでいるようで、身じろぎしては顔を赤くしたり青くしたリと忙しい。これ、結構使えるんじゃないだろうか。非殺傷でダメージは大。


 いや、魔導長官のこの様子じゃ、ダメージが大きすぎるな。これを使う機会が無い事を祈ろう。


 それにしても、この世界の魔法ってラノベで読んでいて想像したほどには発展していないっぽい。他国は知らないけど、この国の魔道長官がこの程度でしょ?やろうと思えば俺TUEEEEが出来そうだ。

 やろうとは思わないけど。

 万能だとまでは思っていないけど、魔法ってもっといろいろと凄いもんだと思ってた。まぁ、魔法を使い始めて一年少々、しかも調薬メインの私がここまでやれるのは、やっぱりエムダさんのおかげなんだから、よそ者の私が大きな顔をするわけにはいかないけども。



 さて、この状態なら魔導長官に縄を掛けたりは要らないね。エドさんとサジさんに起きてもらいましょーか。



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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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