第92話 犯人はお前だ!
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読んで下さるだけでとても嬉しいです
誤字報告では本当にお世話になっております
なるべく無いように気を付けます……が、申し訳ない事にきっとまたお世話になると思います( ;∀;)
いくら帰りたいと思っても、さすがに口には出来ずにただただ話が沈静化するのを無言で待っていると、縦にも横にも奥にも大きな50過ぎくらいの男性が入ってきた。エドさんのように逞しいマッチョ的な大きさではなく、美食大好き贅肉なんて気にしなーいと言うタイプのふくよかな体つきだ。
「魔導長官、ご足労を掛けました」
宰相補佐様が言う。魔導長官?あれ、随分と福々しいよね?魔法を使えばストレスフリーダイエットになると言う私の仮説は……否定されたのか!?
地味にショックを受けていると、魔導長官様は宰相補佐様にいやいやと右手を振ってから私に頭を下げた。
「この度は、うちの補佐官が大変ご迷惑をおかけいたしました。契約魔法でしっかりと縛りますので、今後二度とこのような事態が起きないとお約束致します」
「あー、はい」
こういう時に何て返事をすればいいのか、お貴族様会話スキルが無いのでよくわからない。下手な事を言って、エドさんやリズ様に迷惑をかける訳にもいかないし。あー、早く帰りたい。こういうときこそぬらりひょんになって、部屋の隅でひっそりと佇みたい。
「薬の出所と薬師の正体を口外禁止とし、直接の交渉を不許可とする。用向きは私かリズを通せ。個人的な接触も法度と致す」
「薬に関してはアズーロ商会を通していただきますわ。彼女への依頼に関しては私かエドヴィリアスタが同席致します」
エドさんもリズ様も強気だなぁ。今回の呪詛に関しては後れを取ったとはいえ、王宮には優秀な薬師さんも魔術師さんもいるだろうから、そうそうお声はかからないだろうに。
「……調薬のお話がしたかった」
「反省の色が見えぬものがいるようだな」
乱入組のうちの一人のつぶやきにエドさんが眉を寄せて吐き捨てるように言った。途端にその人は顔を青くして俯く。俺様モードのエドさんの威圧、怖いよねー。でもねー、中身は本当はオカンだから怖くないんだよ。世話焼きで過保護で人がいいんだよ。
「これはこれはエドヴィリアスタ様、お久しぶりにございます」
まるで、たったいま気が付いたかのように魔導長官様がエドさんに頭を下げる。言葉は丁寧だけど、どこかエドさんを馬鹿にするような雰囲気で、慇懃無礼っていうの?とても感じが悪いんですけど。
「ほほほ、お目が悪くなられましたの?この子に頭を下げたときにすらエドヴィリアスタに気付かないだなんて」
「いやいやリザベツ様、ご無沙汰しております。私としましては薬師殿のご機嫌伺いが第一でございましてな。些末にまで気を配れなかったまでのこと。大変失礼いたしました」
うーわー。ヤな感じがどんどん膨れてくるぞ?私の機嫌を取る気なら、過保護者をないがしろにするのは逆効果だと声を大にして言いたい。――この場で言えないチキンな娘でごめんなさい、オカン。それに、こういう場所ではストレートに受け取って欲しい発言が曲解されそうで怖いです。
エドさんを見ると意外にも気にしていないようだ。……ということは、この人は元々エドさんにそういう態度を取っていて、エドさんはそれに慣れているって事?
なるほど、敵だ。
エドさんの敵は私の敵だ。
魔導長官は、今この瞬間に私の敵に決定しましたー!
だからって、私に何が出来る訳でも何かをする訳でもないんだけどさ……無力だ。
私がムカついている間にも淡々と契約魔法についての打ち合わせは進んでいたようで、気が付けば魔導長官がさあ皆様に魔法をかけましょーという段階になっていた。
情報をリークした魔導長官補佐様は申し訳なさそうな顔をしているが、乱入組は残念そうな顔をしている。そんなに魔法薬の話がしたいのか。調薬に関してだけなら、リズ様を通してお話しできるんじゃないかな?過保護者しだいだけど。
「我はテネヴィリスに命ず。常闇を駆ける晦冥の乙女よ、我の言葉を遵奉せよ」
ん?詠唱が始まった?前にタマコと契約したときにはこんなの無かったぞ。契約の内容によるのかな、それとも大人数にいっぺんにかけるからかな。延々と聞いてて恥ずかしくなるような装飾過多の言葉が連なり、魔力が可視化出来そうなほどに膨れ上がっているのが分かる。何でわかるんだろ?今までリズ様を始め数人の魔法を見たことはあるけれど、魔力をそういう風に感じたことは無かった。
肌が粟立つ。背筋に冷たいものが走る。見えない何かが圧をかけてくるのが分かる。駄目だ、これは絶対にダメなヤツだ。そう思って周りを見回すも、誰も反応はしていない。
というか、目の焦点が合ってない?身じろぎもせず人形のように魔導長官に向かってただ棒立ちになっている。
「我の言葉に従え、我の意を順守せよ、心魂を侵し己を傀儡とせよ、隷属せよ。我の言葉に従え!」
違う、これ絶対に口外禁止の契約じゃない。何だよ、傀儡って隷属って。私に影響がないのは常時発動型スキルのレジストのおかげだろう。魔導長官は私に魔法がかからない事に焦れているのか、だんだんと声が大きく荒くなってくる。
この人はなぜこんな事をするんだろう。
だって相手は自分の部下や宰相補佐様だよ?。エドさんの事は見下しているにしてもリズ様には一応敬意を払っていた。今、この場で、こんな事をする理由が分からない。
「何故お前は術にかからない……」
「さあ?何故でしょうね?」
答えてやる義理は無い。
「あなたこそ、なぜこんな事を?」
「お前のせいだ!」
私が何をしたって言うんだ。こんなに大人しく、地味に、いのちだいじに生きている私が。
「アムリタだと!?そんな物の存在を誰が予想できる!あのまま国王は身罷るはずだったのをお前が邪魔をした!――隷属せよ!隷属せよ!隷属せよ!」
「なるほど。私が陛下の治療薬であるアムリタを持ってきたことが気に入らない、と。つまり……犯人はお前だ!」
私は魔導長官を指さして言った。
ここに国王陛下殺害未遂の犯人がいますよー!みなさま、ボーっとしている場合じゃないですよー。




