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第91話 情報漏洩

 宰相補佐様は魔導長官補佐様にアムリタを渡し、陛下の元へ行くように告げる。魔導長官補佐様は隠しきれない喜びを浮かべた顔で私に一礼し、部屋を後にした。


 「薬師殿、アムリタ、およびその薬箋を譲渡いただくことは可能であろうか?」

 「先ずは、効果の確認を先にしてからであろう」

 エドさんが横から口を出す。

 「アリウムから聞き及んでおろう。この娘は私とリズとが保護する者だ」

 「そうですわね。年が若い事もあり、この子は世故に長けてはおりませんから」

 エドさんとリズ様を通せよって事か。そうして貰えるとありがたいけど、言っておかないとならない事もある。


 「アムリタの材料の一つである竜の逆鱗はもう手持ちにないので、新たに作るには材料をそろえるところから始めないとならないんです。薬箋ですが、調薬は私の特殊なスキルで行いますので他の方が再現するには難しいかと思います」


 嘘は言ってない。竜の逆鱗が一つしかなかったことも、調薬の方法が独特な事も。材料自体は昨日のうちにここで既に口に出しているので、もし揃ったなら王宮の錬金薬師さん達で試行錯誤してほしい。竜の逆鱗ほか入手しにくい材料ばかりだけれども。


 本当の事はちょっと隠した。

 昨日の手持ちの材料で、アムリタは5本作成できたのだ。

 そのうちの一本を陛下の治療用に差し出して残りは4本。その4本の行く先は決まっているのだ。


 エドさんに1本、サジさんに1本、リズ様に1本。そして念の為の予備として私に1本。アムリタが必要になるほどの事態に陥らなければそれで良し。転ばぬ先の杖、お守り代わりだ。


 「たった一つしかなかった竜の逆鱗を使ってくださったのか……」


 宰相補佐様の感激したような言葉に良心が疼く。あー、この予備は渡しちゃってもいいか。そのうちまたガチャで竜の逆鱗が出るかもしれないし、ソーマの原材料が出たら、今度は飲み食いせずに取っておこうと思っているから、ソーマはそのうち作れるだろう。

 私に危機が及ぶ可能性よりも、陛下の方が危険な状況に陥る確率が高いもんね。

 

 転ばぬ先の杖として私のインベントリに死蔵しておくより、必要とされそうなところにあった方がいいよね?そう思って鞄に手を入れようとしたら――その手をエドさんに捕まれた。


 (阿呆。また交渉もせずに出そうとしてただろ。学習しろっつーの)

 そうだった、交渉、交渉。――ってどうやんの?と思っていたらリズ様の助け舟が来た。


 「叔父様のご様子を見に行くことは可能かしら?」

 「可能になれば誰ぞがここに参るかと思います、リザベツ様」

 「そうですね……。ただ待っているだけは辛いですわね、あなたも」

 「痛み入ります。リザベツ様こそ、ご心痛はいかばかりかと推し量る術すら持ちません。ですが、なす術もなく手をこまねいていた昨日までとは」

 「ええ、希望もなく身を切られるような思いをしていた昨日までとは違いますもの」


 そこでドアがノックされ、返事も待たずに魔導長官補佐様と知らない男女が部屋になだれ込んできた。


 「薬師様!ありがとうございますっ。本当にありがとうございますっ!」

 「陛下のご容態が急速に快方に向かわれて」

 「あのっ錬金術についてお話ししたくっ」

 「……!………」

 「………!」


 最初の3人くらいは聞き取れたけれど、後の人たちは何を言っているのかさっぱり分からない位に怒涛の猛プッシュ。怖いっ。この人たちナニ!?


 「――誰がこの者たちに今回の件を話したか」

 エドさん、怒ってる。額に青筋立ってるよ。

 「どういうことでしょう?薬の出所と薬師は秘匿されるはずではございませんでしたの?」

 リズ様も怒ってる。青筋は立っていないし顔は笑っているけど、目に剣呑な光が宿っているよ。

 というか、いつの間にそんな話になっていたんだろう?リズ様もエドさんも随分と牽制はしていたけど、あれでもう「秘匿されるはず」になっているのだとしたら、貴族さまの会話は私には理解できないかも。裏を読んだり真意を測ったりとか面倒くさいことこの上ないわ。いいじゃん、言葉通り受け取ってシンプルな会話をしようよ。


 「約定も守れぬ輩相手に話すことは無い。帰るぞ」

 柔らかく私の手を取って有無を言わせずに私を立たせたエドさんが、背中を押してドアへとエスコート。こういうジェントルな事も出来るんだ。やっぱり、エドさんはいいとこ坊なんだなぁ。

 リズ様も立ち上がって、私の背後を守るようにそっと付いてきてくれた。更にその背後にサジさん。サジさんはこのメンツでこの場所ではまったく口を開く様子はない。私も薬の製造元じゃなかったら壁に同化するレベルで存在感を消したいところだけど、残念ながら私がメインなのでそれは出来なかった。


 「あ、でも、予備……」

 (馬鹿を言ってんじゃねーぞ。この状況を考えろ、状況を!)

 (はーい)


 要は、私のことを吹聴した誰かに対して怒ってんだよね。だというのに余計な事を言ってごめんなさい。


 「お、お待ちください、薬師殿」

 宰相補佐様が慌てたようにドアと私たちの間に立ちはだかり、頭を下げる。


 「ご立腹は重々承知ながら、なにとぞお待ちください」


 ずっと年上の立派な男性にこうも頭を下げられると居心地が悪い。振り返ると魔導長官補佐様が青い顔をしていた。リークしたのはこの人か。ま、そうだろうなぁ、宰相補佐様はずっとここにいたんだし。


 「もっ、申し訳ありません、薬師殿」

 私と目が合った魔導長官補佐様が慌てて謝罪をしてきた。


 うんうん、分かるよ。陛下のご容態が恢復してつい嬉しくなって、それで口が緩んじゃったんだよね。でも、お偉いさんなんだし、そこは気を付けようよ。私は一般人をやっていくつもりだし、エドさんとリズ様という過保護者がついているしさー。


 ここで私が謝罪を受けてしまう訳にはいかないよね?とエドさんを見ると小さく頷いて黙っていろというように、口を少し開けてから閉じて見せた。

 合ってた。黙っていることが正解だった。

 大分、空気が読めるようになった気がする。成長しているぞ、私。

 

 話を聞く必要はない、帰ると主張するエドさんと、謝罪して引き留めようとする補佐様たち、米つきバッタのようにぺこぺこと頭を下げる乱入組で室内はカオス。


 面倒くさいから、もう帰りたい。



 私にはよくわからない駆け引きの後、話を聞いてやるがこれ以上怒らせんなよゴルァなエドさんと、私たちを怒らせて何の得がございますのかしらね?敵対したいと言うならばそう仰れば宜しいのに的に喧嘩上等状態のリズ様が私を挟んでソファに落ち着く。力関係がもうきっぱりと決定してしまったようだ。


 「私を含め、ここにいる一同で他言無用の契約魔法を履行いたします。今後、薬師様の事を口外できぬ様に致しますので、この場はどうかお怒りをお治めください」


 薬が出来る前ならともかく、もう陛下の容態は大丈夫なんだから、ここまで私の顔色を窺う事も無いだろうに。16歳の小娘ですよ?薬関係のご用命が無ければ、一生目にも留まらない位のモブ市民ですよ?


 もう一度言う。面倒くさいからもう帰りたい。




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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
[良い点] 自ら題名からひたすら遠ざかっていく主人公、王族と関わった時点でもう、いのちだいじに、とか、ただのモブ、とか、普通の生活は無理でしょう、他国に渡るくらいならいっその事…なんて、例え逃亡しても…
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