第90話 再登城
感想・ブクマ・評価ありがとうございますm(__)m
誤字報告も大変お世話になっています
ブクマが600を超えました(≧▽≦)
読んで下さってありがとうございます_(_^_)_
調薬の為にと理由を付けて引き籠った翌朝、アリウムさんも交えて朝食を取った。小柄なアリウムさんはエドさんに負けないくらいに食欲旺盛で、その体のどこにそんなに入るのかと思わず凝視してしまった。
「頭脳職は糖分がいっぱい必要なんですよ」
確かに、肉や魚よりもパンや甘いものをメインに食べている。しかし、この人は護衛という名目で来てなかったか?
「魔法職も糖分がいっぱい必要なんですよ」
「え?宰相補佐様の部下さんなんですよね?」
「器用貧乏なんですよ、私。あっちでもこっちでもいいように使われておりまして」
謙遜しているが、きっと彼女はとても優秀な人なんだろう。あちこちから欲しがられている遊軍って感じかも。
魔法職も糖分が必要かぁ。という事は、魔法の発動は脳で行われているのかな?脳のエネルギー源はブドウ糖だと聞いたことがある。そして人の臓器の中で一番エネルギーを必要とするのが脳だとも。ならば魔法をガンガン使えばそれでもうダイエットにならない?
普段、調薬関係と鑑定しか魔力を使ってないけど、もしも太ってきたなぁと思ったら魔法を使おう。
簡単お手軽ストレスフリーダイエット法を発見!女子にはうれしいお話だ。
和やかに朝食は済み、アズーロ商会の馬車が到着したとの知らせを受ける。ヨルとタマコは王宮に入れない事が分かったので、今日は最初からお留守番。リズ様とエドさん、サジさん、監視役のアリウムさんと一緒に登城だ。
「エディから話は聞きましてよ、ホリィ。あなたは何処までも規格外ですのね」
アムリタの等級についてだろう。私はへへへと笑う。
「あなたが地位やお金を欲してくれれば国としては願っても無い事なんでしょうけど、そうは言わないのでしょう?何か強請ったほうがあちらは安心いたしますわ」
「あ、いや、地位はともかくお金は欲しいですよ。老後資金を溜めないといけませんしね」
【安全第一】【いのちだいじに】をモットーに安定職を欲したんだもん。
「あのお薬のお代って貰えるんです?それともこれは献上品になるんでしょうか?」
「まさか王家が彼の御方の治療費を出し渋るとは思いませんわ。それに、もう老後を考えているんですの?早すぎませんかしら。先の事でしたら、うちの息子のどちらかと結婚してアズーロの人間になればよろしいのよ。ホリィが私の娘になってくれたら、何て素敵な事でしょう」
リズ様がくすくすと笑う。昨日と違って本当にリラックスした感じなのは、私の作った薬に絶対の信頼を寄せてくれているからだと思うと、とても嬉しい。
「ま、効果を確認するまでは対価を受け取るのは無理ですよ」
アリウムさんが言う。そりゃそうだ。そんなに簡単にお金をホイホイ出してちゃ王宮の面々が特殊詐欺ホイホイになってしまう。私はそう思ったが、エドさんは違うようだ。
「それは心得違いだ。対価を受け取る事と対価の交渉とは別に考えねばなるまい。成果が出た後にこの娘を買いたたくような真似はさせぬ」
あ、そうか。
お薬を使った後に値切ることもあるのか。でも、国の中枢の人たちがそんなに狡い真似するの?対人スキルが幾分成長したとはいえ、こういう駆け引きは私には少々荷が重い。
それにしても、アリウムさんがいるからかエドさんが俺様モードだ。私は普段のエドさんの方がいいなぁ。
「その辺りの掛け合いはホリィには無理ですわ。私とエディが付いておりますから心配しなくても宜しいのよ」
私の頭を撫でて呉れるリズ様に思わず擦り寄ってしまう。
あ、矢面に立ってくれるリズ様に媚びている訳じゃないよ?リズ様の気持ちが嬉しくてナデナデが気持ちいいからだからね?
「よろしくお願いします、リズ様。ありがとうございます」
俺には?という顔でエドさんがこっちを見ているけれど、俺様モードのエドさんに一市民が交渉を無心する訳にはいくまいに。リズ様は元高位貴族だけど今は市井の人だからいいのだ。
「エドヴィリアスタ様とリザベツ様がいらしては、私が交渉に乗り出しても成果は得られそうもありませんね」
苦笑したアリウムさんが私を見て優しく笑った。
「あなたはお二方に本当に大事にされていますねぇ。それが分かっただけでも収穫でした。本当なら私はあなたと二人きりでお話しして所願や真意を測りたかったのですけれど、見事に阻止されてしまいました」
「え?そうなんですか?」
「そうなんですよ。エドヴィリアスタ様もリザベツ様も過保護ですよねぇ」
アリウムさんの言葉を聞いて、リズ様とエドさんを交互に見ると、二人は困ったように笑っている。本当なんだ。
私を探ろうとしていた事を率直に言うアリウムさんは善人なんだろうなーと思いアリウムさんに目を向ける。私は本当に良い人と巡り合う運を持っている。
「ホリィ、感心しているあなたが何を考えているかは想像が付きますけれど、アリウムのことを公明正大な人間だと飲み込むのは間違いでしてよ?交渉にはこういう率直な物言いで相手に信用されようとする手段もございますもの」
「リザベツ様、それでは私が裏表のある人間の様ではございませんか」
「違ったかしら?ただ真っ正直なだけの人間を王宮がホリィに付ける訳はないと思いますのよ?」
ほほほと笑うリズ様は流石に元高位貴族なんだろう。こういう駆け引きめいた会話は私の不得手分野なので、私は黙っていよう。でも、アリウムさんは悪い人じゃないっぽいと思うな、勘だけど。
「では、こちらで少々お待ちください」
王城に入ると、アリウムさんは昨日も通された応接室に私たちを案内して部屋を出て行った。
メイドさんが素早くお茶と焼き菓子を供してくれた。昨日は無かった接待だ。これは時間がかかるという事なのかな?と思っていたが、すぐに宰相補佐様と魔導長官補佐様、そしてもう一人、ほっそりとして背の高い20代後半位の男性が部屋にやってきた。アリウムさんは任務終了なのか同行していない。
挨拶もそこそこに魔導長官補佐様に促されて薬を渡すと、3人目の男性が手に取り【鑑定】と唱える。その結果に驚いたのだろう、目を見開く。
自分の眼が信じられないのか、何度も瞬きをしてはまた瓶に目をやる。
ふっふっふっ。驚きたまえよ、鑑定士君。君が見ているものは決して幻でも贋物でもない、本物のアムリタ、しかも伝説級だ。何度でも鑑定したまえ、君が君自身の眼を信じられるようになるまで。
鑑定士さんの挙動が面白くて、思わず脳内で一人芝居なんてしてしまった。表情には出ていない事を願おう。
「間違いありません。伝説級等級のアムリタです」
固唾をのんで鑑定士さんを見つめていた宰相補佐様と魔導長官補佐様が、ホッとしたように長く息をついた。
「薬師殿、ありがとうございます」
宰相補佐様は深く深く、それこそテーブルに頭が付くのではないかと思うほどに深く頭を下げた。声に少し涙が滲んでいるように思う。
きっとずっと辛かったよね。でも、もう大丈夫。
「お役に立てたら光栄です。どうぞ、お礼は国王陛下のご快復の後に」
先ずは服用してもらわないと始まらない。どうぞ、快癒しますように。そう思って宰相補佐様を促した私にエドさんが小声で耳打ちする。
(おい、褒美やら対価やらの交渉が先だっつー話はしたよな?)
おお、忘れてた。そういえばそんな事を言ってた。でも、まぁいいじゃない。治療が先で。
だって、陛下はずっと苦しんでいて、周囲の方々の心痛も不安も想像に難くないよ?代金の交渉を後回しにしたって、せいぜい私がちょいと損をするくらいだ。それで王家に恩が売れるんならそれも結構な事じゃないか。
しょうがない奴だと言わんばかりに渋面を作るエドさんに、感謝を込めてにっこり笑ってみる。右手がぴくっと動いたところを見ると、ここが王宮じゃなかったらデコピンを食らってたね。
王宮で良かった!セーフ!




