第88話 呪詛
誤字報告ありがとうございますm(__)mいつもお世話になっています
「人払いをお願い致しますわ」
ソファに座るなりリズ様が言う。私が信頼できる人のみに話したいと思ったことを察してくれたようだ。宰相補佐様は渋面を作ったが、リズ様の言う通りにしてくれた。
「盗み聞きされる心配はないですか?」
無礼を承知で私は言った。誰かに聞かれてそれが広まったら拙いからだ。
「遮音の結界を張りましょう」
魔道長官補佐様が何やら呪文を唱える。私がやっても良かったけど、あまり手の内をさらすと囲い込みの危険が増えるからね。
「これで、この部屋の音は一切外には漏れません」
私のことなどまだ信用できないだろうに、エドさんとリズ様への信頼が私にも振り分けられている気がする。
「国王陛下のご容態ですが、あの症状は病気ではありません。呪詛です」
「呪詛……呪い、ですか」
「まさか、陛下の身の回りに呪詛を行うものなど……呪いの兆候も気配も感じられませんでした。私は何度も陛下の玉体を診察していますが、そんな――」
私の鑑定の結果はそう出たのだ。王宮の魔術師さんたちが見破れなかったものを私が看破できた理由は分からないけれど、今まで鑑定眼が間違っていたことは無い……筈だ。
「回復の手立ては三つ。一つは呪詛返しですが、私は方法を知りません。魔術師様ならあるいは……?」
問いかけてみると、魔導長官補佐様は首を横に振った。
「長官ですら呪詛であることを見抜けませんでした。呪詛であると確定し探査すれば或いは……いえ、難しいかと。私たちの知らぬ術式だと思います」
「そうですか。もう一つは術者に術を解かせることですが、これは調査の時間がかかるでしょうし難しいかと」
「もう一つは?」
宰相補佐様が焦りを顔に浮かばせ私に詰め寄る。
原因が分かったって、解決できるかどうかは別だもんね。
「薬です。エリクサーまたは神薬――ソーマかアムリタですね、それで呪詛に蝕まれたお体を治せます。呪詛返しでも同様ですが、この方法で治療を致しますと、呪いは術士に還ります。国王陛下の治療と犯人の洗い出しがいっぺんに出来ますから一石二鳥です」
人を呪わば穴二つ。呪いをかけるんなら自分の墓穴も掘っておけよってことだよね。
「それは治療法が無いと言うも同然ではないか!エリクサーは元より、ソーマだのアムリタだのと伝説や神話でしかない!」
宰相補佐様が怒った。
そうか、伝説や神話かぁ……。これはヤバいな。でも、リズ様の為だからね。私の保身よりも大事。恩を返したいと思うのももちろんあるけれど、リズ様が好きだから頑張るのだ。
「ソーマはちょっと厳しいですが、エリクサーとアムリタならあと幾つかの材料があれば私が作れます」
「なっ……なにを言っているの、お嬢さん」
「アムリタの方が揃っている材料は多いので、こっちかなぁ。えー、材料は竜の逆鱗と世界樹の樹液、紫竜舌蘭の花びら、深海青真珠の貝柱、プロメテイオンの若葉は揃ってます。あと、必要なのは――」
「ちょっと待って、お嬢さん!あなた、アムリタの薬箋をご存じなの!?」
「えー、はい、知ってます。たまたま竜の逆鱗を手に入れることが出来たんですけど、そのときに薬箋を知る機会がありまして」
最初のガチャで出た竜の逆鱗には”神薬の材料の一つ”と出ていた。
その後、ベルちゃんの鑑定をしたときに知りたいポイントの詳細を見い出す方法を発見した。
なので、竜の逆鱗を鑑定し、更に神薬の部分を詳細チェックしてみるとあーら不思議、神薬のレシピが出て来たではないか。機会があったら作ってみようと思いつつ、いや、これは死蔵品で表に出せるものではないからと放置して、そのまま忘れてしまっていた。
「たまたま竜の逆鱗を――って、どういう経緯があればそんな偶然に行きあたると言うの。竜の逆鱗はたまたまで入手出来るものじゃないわ」
いくらなんでもガチャだとは言えない。なので、私は曖昧に笑って見せた。
私が詳細を話す気が無い事を見て取ったのだろう、魔導長官補佐様は一つため息をついて、話の先を促した。
「アムリタの材料ですが、あとは大蜜蜂の蜜蝋とガジュマルの根です。この二つが揃えばアムリタの調薬が出来ますし、国王陛下は治ります」
私のガチャは最低でもR、通常SRでURの確率も低くはない。毎日毎日ガチャをしているが、ごくまれにSERなんてのも出たりする。飲食できないものはもれなくインベントリ行きで全く活用できていなかったけれど、今回はそれが役に立つ。
大蜜蜂の蜜蝋とガジュマルの根は普通に入手できるものなので、私のガチャからは出てこない。そして、ソーマの材料が不足しているのは、インベントリではなく、みんなのお腹へと証拠隠滅してしまう素材があるからだ。
「大蜜蜂の蜜蝋とガジュマルの根ですね、それならすぐに調達可能です」
「手持ちの材料は全て等級S以上なので、出来ればその二つも等級の高いものをお願いします」
薬の等級を下げることに苦労をした経験から、おそらく大蜜蜂の蜜蝋とガジュマルの根の等級がやや落ちても出来上がれば等級Sのアムリタになるとは思う。しかし、他の材料はともかく竜の逆鱗は一度しか出ていないのでチャンスは一度切り、失敗は出来ないのだから不安要素は取り除くべきだろう。
「リザベツ様、此方のお方は一体どういうお方なのでしょうか」
「それは秘密でしてよ?私とて、このような事態が起きなかったら決して彼女をこの場に連れてくることはございませんでしたわ」
魔導長官補佐様がリズ様に問うが、問われたリズ様は笑って躱す。宰相補佐様がエドさんの顔を見ると、エドさんも笑う。
「薬の件が最優先ではないのか?この娘を詮索しようとすると、せっかくの光明が消え、また無明となるぞ。この娘をこの地に縛るのは私とリズの存在くらいだろう。彼女は自由で柵も無い。欲をかいて花も折らず実も取らずとなることは本意ではあるまい」
「――さようにございますな。では、話は陛下の治療の後に」
「ならぬ」
「は?」
「この娘には柵が無いと言ったであろう。囲い込もうとすれば言葉通りに飛んで逃げるぞ。窮地を逃れる杖を折りたくなくば、詮索無用。リズを通してであれば仕事の依頼くらいは受けるのではないか?」
こちらをチラリと見たエドさんに向かって、無言で頷く。
言葉遣いとか態度とか色々と気になる点はあるけれど、これだけは分かる。エドさんは私を守ろうとしてくれている。リズ様も同じだ。私はなんて人に恵まれているんだろうか。歓喜が体中をめぐり、叫び出したいほどだ。
「先ずは材料を用意していただき、調薬をさせていただきたいです。国王陛下のお為に。そして、国王陛下が快癒されるまでは、回復の手立てが見つかった事は内緒にしてください。邪魔が入ると困ります」
「陛下を呪った相手からの横やりが――という事ですな。承知いたしました」
陛下を鑑定するまでは不安があったけれど、今の私にそんな気持ちは無い。大丈夫、絶対に治せるという確信がある。よっしゃー、リズ様とエドさんの恩に報いるためにも頑張っちゃうぞー!
と、思っていたのに、宰相補佐様と魔導長官補佐様が席を外した後に待っていたのは説教だった。
ブクマ・評価・感想ありがとうございますm(__)m
励みになっています(≧▽≦)
これからも、どうぞよろしくお願いします




