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第83話 「認めてやってもいい」と言われましても

 ヒール・ウォーターと栄養剤を納めてから一月後、リズ様から栄養剤調薬の依頼が来た。

 薬を魔獣に与えて検証した結果、コスパで考えると栄養剤を呑み水に混ぜるのが一番よさそうだという事だった。

 もちろん、怪我をした子には治療の為にヒール・ポーションを与えるけれど、これは一般的なポーションとの兼ね合いがある為に、どうしても高額にせざるを得ない。栄養剤ならば素材も安価だし、一般的にも手に入れやすいお値段での販売がされているので、一般で魔獣を扱うお仕事をしている人たちが手頃な価格で入手できる価格帯となる。

 国に仕える従魔士や竜騎士などにはヒール・ポーションも併せて勧めるために、まずはお試しで無料で贈呈したそうだが、そちらからのアクションはまだ無いという。


 栄養剤ならヒール・ポーションと違って煎じ薬だから生薬でのお渡しとなるので運ぶのも楽だが、そろそろ顆粒での納品・販売を相談してみてもいいかも。

 煎じるのは手間がかかるし道具も必要だが、顆粒ならば水に溶かすだけでいい。


 エドさんとサジさんにお伺いを立ててOKが出たらリズ様に相談してみよう。



 「アズーロ商会です。栄養剤の引き取りに来ました」

 「はーい」


 呼ばわった声に返事をして、玄関のドアを開ける。

 お……おおっと、シオンさんだ。彼がここに来るのは初めてじゃなかろうか。そもそも彼は魔獣担当の御者さんだった筈なのに、なんでお使いしているんだろう。結局、サンストーンから王都までの馬車旅でも気まずいままだったし、その後は会う機会もなかった。いい関係は築けなかった相手だけに少々居心地の悪さを感じてしまう。


 「今日は、栄養剤だけですよね?袋に小分けした物を木箱に入れてありますので、よろしくお願いします」

 内心を隠して、お仕事バージョンで対応する。タマコが部屋にいて良かった。ジロジロ見られたり、触りたそうにされたらイラッとしちゃいそうだもん。


 納入書に認めを貰い薬の木箱を指す。代金は、月ごとに纏めて支払ってもらう事になっている。


 「確かに受け取りました。また、よろしくお願いします」

 当たり前だけど、シオンさんもお仕事モードだ。御者している間もお仕事なんだから、あの旅の間もこういう態度だったら良かったのに。


 「…………」

 納品が終わったというのに、シオンさんが帰ろうとしない。


 「どうしました?新規の発注ですか?」

 「いや……」

 一体何なんだ。旧交を深めるような間柄でも、お茶を出してもてなすような仲でもないし――あ、目的はタマコ!?アイトワラスの姿とドラゴンの姿を見てから、シオンさんはタマコの事を凝視していた。


 言いよどんでいるシオンさんを見て思う。そりゃ言いだし難くもあるでしょうねー。自分は私とバイコーンの間を邪魔しておいて、どの面下げてタマコに会いたいって言えるか。ふっふっふ。バイコーンとの触れ合いを条件にタマコに近づきたいと思っても無駄だよーだ。

 私はマージカレアさんと王都に戻ってきたリズ様のお二人に許可を貰って、ベルちゃんたちとはしょっちゅうイチャイチャしてますからねー。


 バイコーンとイチャイチャした後は、ヨルとタマコをその倍は可愛がるのがお約束。妬かれちゃいますから。


 「お……お前のことを認めないと言ったことは取り消してもいい」

 「――はい?」

 何を言っているんだ、この人は。


 「認めてやってもいいと言ってるんだ!」

 「いや、別に認めてもらわなくて結構です。どうでもいいので」

 認めてやってもいいと上から目線で怒鳴られる筋合いはない。

 この人は、どうしてこんなに私を恨みに思うんだろう。私が従魔を持っていることも、お兄さんが従魔師でシオンさんにその素質が無かったことも、私にはまったく関わりが無い事なんだけど?

 お兄さんに対して劣等感があるなら、私にじゃなくてお兄さんにぶつければいいじゃん。

 従魔師の資質が無かったとしても、従魔と触れ合う為に今のお仕事を選んだんなら、それでいいじゃないか。


 「どうでもいいって……」

 「逆にお聞きしたいんですけど、あなたに認められることに何のメリットがあるんです?最初から喧嘩腰で怒鳴りつけてくるような人の承認が、いったい何になるんです?」

 「なっ、生意気な女だな、お前は!」

 「お前呼ばわりされるのも不愉快です。お仕事で来たんですよね?もう、済んだんじゃないですか?」

 そう言って出口を指すと、シオンさんは怒りの形相でさらに怒鳴ってきた。


 「この俺が、認めてやってもいいと言っているんだから、素直に頷いておけばいいのにっ、お前みたいな貧相な小娘、従魔がいなけりゃなんの力も無いくせに大きな顔しやがって!」

 「ぷっ」

 シオンさんの言い草を聞いて、思わず笑ってしまった。

 「何だよ、お前っ!」

 「()()()()――って、何様ですか。そーんなにお偉い方とは存じませんで、たいっへん失礼いたしました」

 せせら笑ってしまったのは勘弁してほしい。だって……ねぇ?「()()()()」って言われたら笑っちゃうよ。

 ついつい煽るような言い方になってしまったが、本心だ。思っていたより自分は性格が悪いようだ。人付き合いを始めてからまだ一年足らず、自分でも知らなかったひねくれ者の自分にビックリだ。


 あー、顔を真っ赤にして怒っている。もう、言葉も出ないようだ。


 本当に、どんな理由で「認めてやってもいい」なんて言うのだろう。タマコの為なら、もう少し下手に出てもいいんじゃないかなぁ。



 結局、タマコの事を言いださないままシオンさんは帰っていった。ま、言える雰囲気じゃなかったけどね。

 夕飯の時にエドさんとサジさんに彼の来訪時の出来事を愚痴ると、二人は苦笑いをして肩をすくめた。


 「ガキだな」

 「あの子は幾つかしら?エドと大して変わらないんじゃない?」

 「あー、俺より二つ三つ下くれーか」

 見た目的には10歳は離れているように見えるけどね。と思っていたらデコピンが飛んできた。

 「俺は23歳だって言ってんだろ!」

 ははは。実年齢より上に見られることを実は本人も気にしているとか?私は気にしているよ、自分が年より下に見られること!


 「なーんか、むかっ腹立ってしまって、結構嫌味な対応しちゃいました」

 反省も後悔も実はしていないけど、嫌味な事を言う自分を発見したことは衝撃だった。

 「いいんじゃね?」

 「元はあっちからですもんねぇ。タマコが気になるならなるで、もうちょっとやりようがあると思うんですよ。上から目線で”認めてやる”なんて言わずに、せめて謝罪から入ればいいのに」

 「あー、そっちに取ったのね、ホリィちゃん」

 「そっち?」

 って、どっちだ?


 「彼が気になっているのはホリィちゃんだと思うわよ?」

 「気になるって、従魔師として?」

 なら、なおさら下手に出たまえ!と、私は言いたい。


 「違う違う、女の子としてってこと」

 「えー、それは無いですよ。あの嫌味な態度、見下すような言葉、私のことを嫌っているとしか思えないですもん」

 「ふふふっ、ホリィちゃんもまだ子どもね。シオン君は、好きな子に意地悪しちゃうタイプなんじゃないかしら?」

 「まさか」

 そういうのは、小学校低学年までに卒業すべきだと思う。二十歳を超えた男がやっても可愛くない。


 「俺もそう思うぞー?ホリィ、アズーロ商会の受付の奴の視線はすぐにわかったのに、なんで奴のはわからねーんだ?」

 「アズーロ商会のって……えーと、ローマンさんですね。あの人は本当に分かりやすく好意を向けてくれてましたけど、シオンさんは違うと思うなぁ。タマコ狙いですよ、ホントに」


 敵愾心か嫉妬か分からないけど、好意とは逆方向の感情だと思う。

 万が一、億が一にも好意だったら、あの態度で女の子に好かれるかどうかを周囲に聞いて回るといいわ。



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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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