表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/111

第81話 緑の指どころじゃない

 宿を引き払ってお屋敷に引っ越した。

 私の荷物は基本的にインベントリの中だし、それだって着替えと薬の素材、完成品位のものだ。エドさんとサジさんも冒険者稼業であちこち移動しての宿屋暮らしが基本なので、荷物はごくごく少ない。引っ越し自体は、ほぼ身一つで完了した。


 「この広い部屋をどう使おうか」

 20畳ほどの広い部屋はパールホワイトの壁紙とクリーム色の絨毯で、清浄魔法が無かったら汚すのが怖くて仕方なかっただろう。

 備え付けの家具は、書き物机、応接セットのローテーブルと3人掛けの猫足ソファが2脚と一人掛けのソファが二つ。飾り棚は今は空っぽだけど、あそこに何を入れればいいんだろう?

 この部屋だけで十分に暮らせるというのに、ベッドルームと衣裳部屋は別。更に調薬室と素材置き場の部屋もある。私一人で5部屋も割り当てられたよ!この屋敷で私に割り当てられた分だけで、第四界の元の家族5人でだって余裕で暮らせるよ!

 これはどう考えても一般庶民の住む家じゃない。目指せモブ市民の矜持は何処へ行ってしまったんだ。リズ様の斡旋してくれた家という時点で、それは諦めるしかなかったんだろうか……。

 せめてサンストーンで借りた家位のこぢんまりとした棲家を希望する! 15歳の小娘が一軒家と言うだけで分不相応だとは思うけど、赤毛のアンのお家の様なあの家は可愛かったなぁ……。


 「ホリィが希望するなら、薬師としての能力を詳らかにして王宮に部屋を持つ事だって可能でしてよ?」

 にっこり笑うリズ様が怖い。

 滅相もない事です。これからも、リズ様の後ろで隠してください。このお家を有難くお借りします。


 とりあえずという事で、大瓶5本のヒール・ウォーターと同量の栄養剤をリズ様に納入した。栄養剤はヒール・ウォーターと違って魔法でポン!というやり方ではなく、ちゃんと素材収集をして調薬をする。風邪薬と素材が結構被っているので、追加で4種をヤミィダンジョンで採取してきた。


 魔法で出した水で素材を洗い、これでもかというほど清浄をかけたクリーンルーム状態の調薬室で栄養剤を調薬。鑑定して等級がSであることを確認した。

 リズ様は実験的に「ヒール・ウォーターのみ」「栄養剤のみ」「ヒール・ウォーターと栄養剤両方」を、アズーロ商会の契約魔獣たちに与えて経過観察をするそうだ。体力値の回復を数値化するために、商品特化の鑑定眼を持つリズ様ではなく生き物特化の鑑定眼を持つ鑑定士を臨時契約で雇い入れたというのだから、気合が入っている。

 効果とコスパとを鑑みて、どの方法が一番良いのか検討するという。


 私は作るだけで後は丸投げなので楽なものだ。


 サクサクと調薬を終わらせたのは、今日はしたいことがあるからだ。屋敷の裏手に出て、何も植わっていない畑を眺める。

 どうぞ、生まれて初めての植物育成が成功しますように。


 先ずは雑草取り。とは言っても、たいして生えてはいない。前の住人さんの手入れも良かったのだろうし、その後の管理もしっかりされていたのだろう。


 雑草を片付けたら、次は耕す。これは、土魔法でイケる筈。伊達に全属性の魔法素養があるわけではない。自力でバスケットコート大の畑を耕すなんて私の細腕では厳しいし”チートもりもりは勘弁して”と言ったのは昔の私だ。今の私は使えるものは使う強かな女になったのだ。

 開き直りともいう。


 【掘り起こし】


 はい、適当な呪文です。大丈夫、適当な呪文だけど、想像したとおりに30cm位の深さまで土がざっくざくと掘り起こされ、土塊を砕き、空気を含ませて見た目フカフカな土になった。触ってみると柔らかいふんわりとした手触りだ。いいんじゃない?これ、なかなかいいんじゃない?


 初めてで成功するかどうかも分からないため、さすがに全面に種まきをする気は無い。1メートル×3メートル位の広さの中に畝を3つ作る。これも土魔法だ。掘り起こしの時もそうだったけど、勝手に土が動いていく様は特撮かCGの様で見ていて面白い。


 『ホリィ、凄いのねー』

 「ありがとう、ヨル。もっと褒めてー」


 凄いのは私じゃなくて魔法だけどね。


 ヤミィダンジョンで栄養剤の材料を採取したときに一緒に採ってきたトーキの種、クミタ草の種、アカヤジオウの種をまく。芽が出てくれるかなぁ……。第四界での記憶がよみがえり、少し不安になる。授業で植えた朝顔の種、私だけ芽が出なかったもんなー。


 『ホリィ、お水を上げるのよー』

 「ん、そうだね」


 【スプリンクラー】


 イメージ大事。呪文なんて適当でいいのだ。霧のように細かい水が畑に降ってきて虹を作る。煌めく水と光が畑に舞い降りて、土に染み入っていく。どうぞ、元気に育ってね。大きく育ってね。君たちの芽が出るのを首を長くして待っているからね。




 結果、首を長くしているような時間は無かった。

 

 今、たった今種をまいたばかりだというのに、土を押し上げるようにして芽が伸びてきた。


 「……はい?」

 え?ダンジョン産だからなの?ダンジョン産植物はこんなに成長速度が速いの!?


 呆然としている間にも、双葉が出て本葉も生まれた。茎が伸び節を作り葉が増えて……。お……おう、蕾が付いた。え、もう咲くの?

 さすがにダンジョン産の植物だってこれほどの異常速度で成長する訳はないだろう。


 佐伯君がエムダさんに願って、私にも付いた成長促進のギフトを私は取得した覚えがないぞ。まさか、何かを育てるとデフォで付いてくるの?

 教育番組などで見たことのある植物の成長過程の早回し映像が、目の前で展開されている場合、私は一体どうすればいいんでしょうか。


 まっさらの地面だった場所が、あっという間に花が咲き誇る畑になってしまった。


 私は悪くない。

 ――私は悪くないんだけど、エドさんに怒られそうな気がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
― 新着の感想 ―
[良い点] 怒られそうなことは理解してるんやね笑笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ