第72話 治験初日の結果
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「ホリィ、お帰りなさい」
戻った私たちを迎えてくれたのはリズ様。
「リズ様、お忙しいのは一段落ですか?お疲れ様です」
「ホリィ、あなた、素晴らしくてよ!」
喜色満面のリズ様からいきなりのハグです。ということは、汎用薬が上手く作用したのかな?まだ初日なのに目に見える成果が出たのだとしたら嬉しい。
「お薬、効きました?患者さんの容態はどうですか?」
「症状が軽い者はほぼ治ったといってもよさそうだと報告がありましたわ。まだ様子を見るために宿に留めてはありますが、心配はなさそうでしてよ。重篤患者も快方に向かっていて、命にかかわる事は無いとみられておりますの。それに、今までのお薬の概念を覆すほど美味しいと評判でしてよ?本当に良くやりましたわ、ホリィ!」
ぎゅーぎゅーと抱きしめられて嬉しい反面、ちょっと苦しい。これはあれだね、リズ様のお胸が私の顔面を圧迫しているからだね。ほっそりしているのにお胸だけはボリュームがあるとかけしからんスタイルだよね。身長差のせいで、正面からのハグでは私の顔がリズ様の胸に当たってしまうのです。しかも、見た目からは想像できないほどに腕の力が強い。骨が軋むーっ。褒めて貰えて嬉しいけど、このまま天に召されそうだ。
「リズ、ホリィが窒息すんぞー?」
エドさん、ありがとう!
リズ様の抱擁はとけないまでも緩んで、呼吸が楽になりました。
「汎用薬が天魔熱に効いてよかったです。大量生産に入りますか?」
「ええ!勿論よ。これは商機よ!価格設定は私に任せてもらえるわね?」
「全面的にお任せします。あと、大量生産するとなると、瓶に詰める作業を私とエドさんだけでは無理がありまして」
チラリとエドさんを見るとうんうんと頷いている。ああいう細かい作業は好きじゃないんだろうな。
「コイツは規格外でな。汎用薬は要望がある分だけ作れるが、それを商品にするのはリズに任せたいんだと」
「ええ、全面的に任せていただいて宜しくてよ」
「良かったわね、ホリィちゃん。リズ様にお任せすれば安心ね」
リズさんと細かく打ち合わせて、私は商会の持っている錬金工房で作業をすることが決まった。なんでも、懇意にしていた錬金術師が亡くなったあと、遺族に頼まれて買い取ったという。あとを継ぐ人がいなかったそうだが、錬金術師などそうそういないのでそのままになっているそうだ。
もちろん私に工房などは必要ないが、宿の一室に大甕なり貯蔵槽なりが現れるのはどう考えても不自然だ。
リズ様にぬらりひょんのブレスレットの事も打ち明け、人にそれと知られぬように工房への行き来が出来ると告げる。その上で、錬金薬師の正体は秘密にしてほしいとお願いする。
「ホリィは名誉欲がございませんのね?あなたほどの力があれば、薬師ギルドや錬金ギルドで上り詰めることも、狭き門である宮廷魔術師団に入ることも、それこそ王侯貴族の専任となることも可能でしてよ?地位も名誉も財も望むがままですわ」
要らない。そういうの本当に要らない。楽しく聖女をやれる安藤さんとは違うのだ。こちとら根っからのモブですから。
「そしてその美しい容姿ですもの。名誉も地位も財もある方々から引く手あまたになることも間違いありませんわ。金銀宝石で飾られた玉の輿に乗れましてよ?」
もっと要らない。上昇志向もシンデレラ願望もないです。
ぶんぶんと首を振る私に、リズ様が爆弾を落とす。
「それとも、もう、エディと将来を誓っているのかしら?」
「ぶっ」
エドさんが咽た。なんなんだ、佐伯君といいリズ様といい今日はそんな話題が出る日なのか。
「リズ、何でそんな話になんだ……。ありえねーだろ」
「ないです。それは全くあり得ないです」
「エディが随分と親身になっておりますし、ホリィだって頼りにしているように見えましてよ?ですから私はてっきりそういう仲なのだと思っていましたわ。……でしたらサジですの?」
「ぶっ」
流れ弾に当たったサジさんも咽た。
「ありませんよ、リズ様。どうしてそっちの方に話を持っていきたいんですか。ホリィちゃんだって困りますよ」
「ですです」
「まぁ、不甲斐ない男どもですこと。こんなに可愛らしい上に有能なホリィがどこぞの馬の骨に騙されて攫われる前に囲い込むくらいの器量は無いのかしら」
リズ様がため息をつくけど、ないからね?どこぞの馬の骨とやらがどんな人かわからないけど、外面美少女内面モブ女ですから。有能に関しては、本当にエムダさんのおかげだと感謝してる。けど、スキルが優秀すぎて隠すのに苦慮もしているので感謝の念も薄れる。
モブ市民を目指している私は表舞台に立つつもりは毛頭ないので、リズ様を頼りにしてますよー。
いつか誰かと恋に落ちる……うん、想像が難しい。いいんだ、私には友達が出来たし、ヨルとタマコがいるから。
◇◇◇
私はぬらりひょんのブレスレットを付け、リズ様とエドさんサジさんの3人が向かっている態を見せつつこっそり同行し、錬金工房へと連れて行ってもらった。
赤いレンガ造りの街並みの中で、その家は周囲から浮いていた。緑の屋根に白木の2階建ての家は、私がイメージしていた錬金工房とは違うし、サンストーン国にあってレンガ造りじゃない家はとても目立っている。建てた人はよほど拘りがあったのかなー。
「赤毛のアンのお家みたい」
『可愛いお家なのねー』
私の家になるわけでもないのに、タマコが気に入ったようで私の腕から降りてリズ様達の先頭に立ち家に入って行ってしまった。
「珍しいねぇ、タマコが積極的になってる」
『お酒の匂いでもするのかもー』
――ありそうだ。ガチャで出たお酒はタマコに半分、エドさんとサジさんに半分の分けっこをしているけど、そもそも酒率はそれほど高くないので、タマコには物足りないのかもしれないなぁ。
大好物のオムレツは私の自作で頻繁にあげられるけど、酒飲みの気持ちは分からないので同じ酒好きのエドさんたちに聞いてみた方がいいかもしれない。
魔獣もお酒の飲み過ぎで肝臓壊したりするのだったら、これからもセーブするけど。どうなんだろうね?
リズ様に必要な物を聞かれ、薬を入れる大きな容器だけお願いした。材料は私の魔力だから不要だとは言わず、自分の眼で見て確認するからと言って。
リズ様にこれからもお世話になるし、信頼できる人だと思うから私のあれやこれやを打ち明けてもいいかなー。これはエドさん達に要相談案件。機会を見てお話ししよう
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