第71話 近況報告
サポイチを食べた後、佐伯君が屋台を片付けるのを待って私たちはカフェでお茶をしている。
私たちと言うのは、エドさん、サジさん、タマコとヨル、佐伯君と私だ。佐伯君と一緒にいた女性は宿へ戻っていった。エドさんとサジさんに佐伯君は大丈夫だと伝えたのだけれど付いてきた。前回の事があるからとはいえ、心配性だ。
「エドさんとサジさんは私のことを話してあります」
二人を紹介してから佐伯君に私が界渡りをした事実を彼らは知っていると伝えた。
「マジで?あー、俺は誰にも言ってないんで、その辺は考慮してくれると有難いっす」
「ああ、そうそう言えることじゃねえからな」
「で、どっちが堀の彼氏?どっちも?」
佐伯君が笑って言う。あーはーはー。彼氏とか笑う。
「違いますよ。エドさんは私のオカンで、サジさんはオネエさんです」
「誰がオカンだっ」
「何だ、それ」
私の説明とエドさんの突っ込みに、佐伯君は呆れを含んだ笑い顔だ。いや、マジでそうなんで仕方ないです。ヨルとタマコも紹介したら「可愛いなー」と相好を崩している。猫のタマコはともかくトカゲのヨルにも本気で言ってくれているようで嬉しい。
トカゲと言うかブラックサラマンダーの幼体なんですけどね……。
「へぇ、林が結婚かぁ。すげー」
ケビアの町での事を話すと佐伯君が感嘆する。だよねー、電撃結婚だもん、ビックリするわ。私はサラクの町に着いてからこれまでの事を当たり障りのない程度に話し、佐伯君もこれまでの事を語ってくれた。
「俺、山ん中でボッチでさー。人里に出るまで3日かかった」
「大変でしたねぇ……。私はすぐにエドさんに会えて幸運だったんですね」
「羨ましいよ、マジで。で、その山ん中で家出中の王子様拾っちゃってさー。いや、こっちが拾ってほしい位の状況だったのに、何の因果なんだかな。やっぱ、あれか。ギフト欲張り過ぎて試練とか与えられたかー」
「王子様が山の中に落ちてるもんですか。で、それを拾えるもんですか。佐伯君、ハードモードだったんですね」
「マジに大変だったから!堀は謙虚だったから試練が無かったんじゃね?やっぱ、自分の行いは自分に帰って来るっつーかさぁ」
「あ、でも、あの後に説教されました。何の力も無しに何が出来るかって、何もなしに【安全第一】だなんて驕った考えだって言われて、結局、私も色々と貰いました。そのおかげでこちらでの生活が何とかなっているので、佐伯君にも感謝しています」
「あ、あったな、それ、安全第一!スキルじゃねーって笑った覚えがある」
エドさんとサジさんは私と佐伯君の会話を聞いて、安心した様子で見守ってくれている。心無い言葉で傷つくことを心配してくれてたから。
「聖女様のこと、知ってますか?」
「あ、安藤だろ?この間会った。すっげー楽しそうに聖女様やってた」
わお、やっぱり世間は狭い。あ、安藤さんが目立っていたから会えたのか。
「伊藤も元気そうだった。別の道だけど、やっぱ仲間意識あるからさ、楽しそうなのは良かったよ」
「安藤さんに会ったんですよね?王子様に見初められて王宮に招かれたというのは本当ですか?」
「微妙に違う。王子様じゃなくて王弟殿下だってさ。で、安藤は聖女ライフに夢中で今んところ袖にしてるって聞いた」
ロマンスに発展はしていないのか。確かに、こっちに来てまだ5カ月弱でそういう余裕はないのかもしれない。そう考えると林さんの思い切りは本当に凄い。
「袖に……ですかぁ。確かに、こっちではもう成人していますけど、結婚とか考えるにはまだ早いと思っちゃいますよね。そのお相手が王族ならなおさら」
「だよなー。俺ら一般庶民だっつーの。でもさ、すげー意外だったんだけど、堀ってば超美人になってんじゃん?【安全第一】でモブ希望かと思ったよ、俺」
「そう!それなんですよ!」
モブ希望ですとも!今現在もまさに目立たない一般市民を希望していますとも!
「容姿に関して、此方で浮かないように平均的な顔をお願いしたんです。そうしたら、同年代の女の子の平均でって事になったのに、なんで、こんな面倒くさい顔に……」
正直、ぬらりひょんの腕輪をせずに一人で歩いているとしょっちゅうナンパされる。目的地までの往復は腕輪をしていてもいいけれど、ギルドでの依頼受注や納品、買い物や商会へのお使いなどで外さなくてはいけない事は多々ある。
エドさんたちに言わせれば私は子供に見えるそうなのに、成人男性からのお誘いが多いのは何なんだ。ロリコンが多いのか。
「あ、それ、前提からして失敗だ」
なんですと!?
「前に何かで読んだことがあんだけど、テキサスだか何処だかの大学の研究結果でさぁ、人の顔って平均に近づければ近づける程”美しい”って認識されるっつー研究結果が出たとか。統計の母数が多ければ多いほどいいらしいぞ?十人より百人、百人より千人、この世界の同年代女子がどのくらいいるのか知らんけど、少なくとも数万件のデータの平均だろーなー」
な……なんてこった。
「堀の要求はモブ顔じゃなくて、美少女希望だったなぁ。いまさら顔は変えらんねーし、ドンマイ」
「中身はモブのままなのでそぐわなくて困りますが、顔は変えられないので諦めるしかないですよね」
私にはぬらりひょんのブレスレットがあるさっ。
よもやま話をしたのちに、縁があったらまた会おうと言って佐伯君と別れた。
「良かったな、同郷の奴といい感じで話が出来て」
エドさんが帰り道で私の頭を撫でてくれた。
「そうよねー。また腐ってる奴じゃなくて良かったわ」
サジさんも撫でてくれる。
『ホリィの悪口言ったら噛もうと思ってたのよー。良かったのよー』
「にゃー」
肩のヨルも腕の中のタマコも安心した様子。タマコはあの時はいなかったけども。
「ありがとうございます。ホント、良かったです」
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