第69話 サンストーン国到着
サンストーン国に着いて最初に入った街は赤い街だった。
私が異世界から転移したアイオライト国は石造りの建物が多かったが、この国はレンガ造りがメインのようだ。横浜の赤レンガ倉庫より濃い目の鮮やかな赤なのは、材料の粘土に含まれる鉄分が多いからかな?うろ覚えの知識なので、それが正解かどうかは分からない。
アズーロ商会のサンストーン国支部の宿舎に荷物を置き、早速リズ様はキュア・ウォーターの検証についての打ち合わせに出ている。既に手紙で連絡をしていたようで、明日から早速投薬し治験が始まることになっている。
私はお借りした部屋で取りあえず薬の量産だ。手持ちは20本で、リズ様からは100本は欲しいと言われている。万能薬なら一本で治癒するけれど、汎用薬でどのくらいかかるかがまだ不明。そのための検証だし、効果が出るとなったらサンストーン支部での販売も考えているという。
そして作る量が多いというのでエドさんが手伝いを申し出てくれた。薬を作るのは手間じゃないけれど、蓋を開け閉めしたり瓶に薬を詰めたりするのが地味に手間なので手助けしてもらえるのは助かる。ちなみにサジさんはレーグルさん係だ。
「そりゃ、アイオライト国に影響が出る前に、サンストーン国で収束してくれればそれに越したことないもんなー。【清浄】!」
先ずは部屋を綺麗にして薬瓶の複製。
アイオライトの王都で買った薬瓶をマスターにして20本ほど複製する。
「エドさん、蓋をあけておいてください」
「おう」
大男が小さな薬瓶のコルク蓋をちまちまと開けていく姿は、可愛いといえない事もない――かもしれないけど似合わないなーと思う。
【キュア】
あらかじめ用意しておいた梅酒を漬けるようなガラス瓶にキュア・ウォーターを注ぐ。若草色の液体が瓶の中にたまっていく。
【鑑定】
念のために鑑定はしておこう。
―キュア・ウォーター―
別名:キュア・ポーション・汎用薬
毒・麻痺などの状態異常回復、病・内部疾患の治癒
飲用
美味
等級:A
美味しく出来た模様。別名にリズ様命名の汎用薬も付いている。こっちの名前の方が商品名としていいのかな?キュアと言う名前だと、治癒魔法で作りました感があって要らないフラグが立ちそうだ。
「エドさん、お薬の瓶詰めお願いします」
「おう」
お玉と漏斗でチマチマと汎用薬を瓶に注いでいるエドさん――やっぱり似合わないと思うが言ってはいけない。だって私がやらせてるんだもんねぇ。
エドさんが瓶詰めしている間に、また瓶の複製。そして蓋を開けてもらっている間に汎用薬の作成。それを繰り返して出来た数は300本。リズ様に100本と言われたけど、インベントリに仕舞っておけばいい事だし、エドさんという地味な仕事をしてくれるアシスタントがいる時に作り置きしておけば後が楽だろうと思って、ガンガンこき使い……お手伝いしてもらった。
「やっぱり規格外だな……」
私の錬金薬師としての仕事を初めて見たエドさんがため息をついた。
「規格内をしりませんからねぇ、規格外と言われましても」
「錬金薬師の仕事じゃねぇだろ、これ」
「えっ!?」
じゃ、私は何者!?
「材料皆無って所でなんか違うと思えよ、お前は」
「材料……は私の魔力ですね、うん」
「それがそもそも常識外れだっつーんだよっ」
そうかぁ。そういえば確かに錬金魔法は使ってなかった。使ったのはキュアだもん。
――だとすると、キュア・ウォーターは何だろう?分類としては魔法薬に属すると思うけれど、錬金魔法で作った薬を魔法薬と言うなら、これは魔法薬じゃない――のだろうか?
「ま、いいじゃないですか。これが治療薬になるのなら、私がするのは作るところまで。あとはリズ様に丸投げと言う事で」
「……リズの方こそそれを望んでるからな。双方がいいっつーならいい……のか?俺まで常識が分からなくなった!どうしてくれる!?」
「言いがかりだ―!」
1時間ほどの薬作りで300本の汎用薬が出来たけれど、やはり薬を作ること自体よりも手間がかかるのは薬瓶へ入れる作業だ。
「これ、効くことになったらどの位の量を作るんでしょうねぇ」
今回はエドさんにお手伝いしてもらえたけど、一人作業で延々とするのはヤだなー。瓶詰の魔法とか無いかな。あー、蓋の開け閉めの魔法も欲しい。ちょっと遠い目をしてしまったのは仕方ない。
「リズに丸投げでいいんじゃね?最初に持ってきた20本はともかく、この短時間で100本差し出したら、それだけでもう怪しいだろうが。鍋でも甕でも使ってどーんと汎用薬?っつーのぶち込んで、薬瓶に詰めるのは向こうにお任せで」
エドさんも瓶詰め作業は嫌か。面倒くさいもんね。
「商会なら人手もあるし、リズが3台も馬車を連ねて来たんだから、その中に薬の貯蔵槽があったって事にしてくれんだろ。――っつーか、その辺の打ち合わせはしてねぇのかよ!?」
「てへっ」
とりあえず笑って誤魔化す。基本的にリズ様はこちらが言いたくない事を詮索してこない。ぐいぐいと圧をかけてくるようでいて、こちらが困惑する気配を見て話を変えてくれたりする、人の心の機微に敏い方だ。そういうところはぜひ見習いたいと思う。
なので、リズ様が采配してくれるならいいかー、と既に心の中では丸投げ状態だったのだ。
「うん、ああ、いいよ、リズに任せとけ」
疲れたように言うエドさんに、私は勿論だと答えた。
どうぞ、このお薬が効きますように。わたしは明日からの治験でリズ様の期待に応えられるか、病に苦しんでいる人を救えるかと不安な気持ちになりながらサンストーン国1日目を終えた。
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