第6話 ギフト付与
その後、疑問や質問を投げかけては答えてもらうという繰り返しが続いた。
曰く、獣人はいない。妖精や精霊は人間とは違う層にいるので会うことは出来ない。エルフは森の中から出てこないので会う事は難しい。魔族や魔王はいない。
王国制で貴族もいる。現在のところ戦争している国はないが、この先もないとは限らない
マジックボックスはかなりレアでインベントリ持ちは世界に3人しかいない。
どこの国も自然豊かで野生動物も魔獣―魔力を持つ獣―も多い。野生動物はテリトリーに入ったり攻撃したりしなければ襲ってこない。魔獣は向こうから探知して襲ってくる。
こういうの、第二界へ移住したら貰える”一般常識”内の話だろうに管理者さんは優しい人だ。
そして交渉の結果、インベントリは無理だけどマジックボックス(小)は全員に与えられることになった。
貰うギフトが思うように効果を発揮できなくても、これさえあれば職は安泰らしい。
ひとしきり質問に答えてもらったところで、今度はどんなギフトを貰うかを相談し始めた。
もちろん、私以外が。
会話に加われないからね、私。
ギフトも特に必要としていないし。
食いっぱぐれのない職業を教えてもらい手に職をつける。
これが私の目標だ。
異世界なら誰かと繋がりが持てるかもしれない。生き物と触れ合えるかもしれない。植物を育てることが出来るかもしれない。
その”かもしれない”に過度の期待をしないようにして、安全第一・いのちだいじに異世界ライフだ!
そしてきましたギフト付与。
「ガチャで!見た目はイケメンで!」
「錬金術がいいです。見た目はあまり変えたくないので、第二界で浮かないようならこのままで」
「万物創造は無理か―。じゃ、異世界通販でおねがいします。細マッチョで」
「日本食無双したいです。料理スキル下さい。あと、どんなに食べても太らない体で」
「魅了はないですかぁ…。魅力ましましってありですか?じゃ、それと人も羨む美貌でナイスバディ」
ギフトに関して一番盛り上がっていた男子3人と女子二人の要望が早々に決まった。
この5人は同じ場所へ行くらしい。
5人でスタートするなら役割分担というか、お互いを補い合って暮らしやすくしようとは思わなかったんだろうか。見事に欲望に忠実でいっそ清々しい。
「じゃあねー」
「向こうで会えたら宜しくー」
5人が手を振って、そして消えた。
うわぁ…。移住―というか転移?なのかな?こんなにあっさりとしたもんなんだ。
あっさりといえば、旅立っていった5人も随分とあっさりしたもんだ。
私はともかく、ほかのクラスメイトとの別れに思うところはなかったのだろうか。
第二界の広さは分からないけど、地球レベル……いや、日本サイズだとしてもそれぞれ別の場所に転移してしまったら会えるとも限らないのに。まして見た目が変化していたら尚更だ。
「魔法素養の強化とMPの最大限増加、それと第二界で知られる全魔法を使えるようになりたい。見た目は変わらなくていいです」
そう言ったのは柳君。
「ユニークスキルとかも考えたんだけど、一から自分で構築していって使いこなす自信がない。なら、いま知られている全魔法が使えれば生き方の選択肢が広がる」
「俺は戦闘能力特化で。体術、剣術、槍術、弓術、身体強化の力をください。武術に向く体で」
「鑑定眼と錬金術と薬師スキルを。器用さのある体で逃げ足が速ければ嬉しい」
「俺と久保田と吉村は同じところにお願いします」
男子3人の要望は通った。
願うギフトは1個だとは言ってなかったね、そういえば。
最初に旅立った5人を少し不憫に思う。
頭のいい人に先に問答してもらえば良かったのに。
「スキルコピー 物質複製 ガチャ」「召喚 調教 ガチャ」「ガチャとあと回復魔法と攻撃魔法と生活魔法」を望んだ男子2人と女子一人も旅立つ。
三人とも人に恨まれない程度にモテる容貌を希望して。
しかし、ガチャ人気だな。
残っているのは安藤さん、伊藤さん、佐伯君、私の4人だ。
「ねーねー、今まで話を聞いてたけどー、意味がさっぱり分かんない」
伊藤さんが安藤さんの袖を引っ張りつつ眉をへの字にして言った。
「リリはアニメも見ないし漫画もラノベも読まないもんねぇ。異世界転移が分かんないのに、よくこっちに来たね」
「沙也と一緒が良かったし、死ぬの怖かったもん」
おお、仲良しさんだ。
人と関わるのを諦めたとは言っても羨ましい。
第二界に過度の期待を持つまいとは思っても、”友達がいる私”を想像し……無理だ。
私にとって人間関係は二次元か脳内かのいずれかだけれど、自分を登場人物にするのは烏滸がましいというか妄想に及び難いというか。
「リリはチートとかユニークスキルとかよりも”幸運”とかどう?小難しいことは考えずに、”運がいい”生活。それにガチャを足したらいい感じにならないかな」
「あ、それいいねー。それでお願いします。で、沙也は?」
「私はせっかくだから異世界ならではの魔法。柳君と同じでお願いします。癒しとか回復とかできたら食べるに困ることはなさそうな気がするし」
前の人に倣え。これは良い。
繰り返すけど、最初の5人は勿体ない使い方だった。
お互いに見た目が変わると戸惑いそうだからと外見はそのままに仲良し二人組も旅立った。
「俺は今までの人の要望全部と、マッピング、レジスト、超成長、ライブラリ、隠蔽、偽装、付与術、気配遮断、成長促進―あ、さっきの超成長は自分の成長でこっちは自分以外を対象とした成長です。あと緑の指、転移、結界、記憶力、老化遅延、長寿。これらで許される限りのギフトを」
よ…欲張り過ぎない?
『ご希望のうちいくつかは”全種類の魔法”に含まれますが……強欲ですね。分不相応だと思いませんか?』
「思います。でも、こんな機会は一回こっきりっしょ?分なんて考えず、思いつくものは全て希望しちゃえーって感じっすかね。そのために最後まで残ってたんだし。要望はおもいつくまま最大限にして、貰えるかどうかは俺の知らないルールやらで制限あるかもしれないし、貰えたらラッキーだなーと」
『――最後、ですか』
「はい?」
管理者さんの視線をたどって私を見つけた佐伯君は目を見開いた。
なぜ驚く。そもそも”最後”ってなんだ。
まさか、真っ白な空間に三人きりなのに認識されていないとは思わなかった。
この状態なら本当のぬらりひょんだって気付いてもらえると思う。
ぬらりひょんだと思ってたけど、黒子か、私。
【見えるけどいない事にするのがお約束】みたいな。