第59話 リズ様との対面 2
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「サジ、席を変わりなさい」
え、ヤダ。間にテーブルがあってもグイグイと圧をかけてくるリズ様が隣に来るなんて恐れしかない。目でサジさんに訴えるも、サジさんはさっさと立ってリズ様と席を変わってしまった。カップを置き換えたのももちろんサジさんだ。リズ様はそんな些事に手を出すつもりは毛頭ないご様子。
「ホリィちゃん、リズ様は敵に回すとそれはそれはもう恐ろしい方だけど、味方に付いて下さったらアダマンタイト製の堅牢な盾よりも頼もしい守りの力を発揮してくださるからね」
いや、守りなら障壁魔法がありますし……。そういう事じゃないのは分かっていたけど、ちょっと現実逃避してみました。隣に座ったリズ様が私の手を握りしめて離さないんだもの、逃げたい気持ちになっても仕方ないと思うんだ。
「ホリィ、あなたはこの薬をどう見ていて?」
手を握ったまま問いかけるリズ様に私が見た鑑定結果を話す。
キュア・ウォーターまたはキュア・ポーションと言う名の薬で、毒・麻痺などの状態異常回復、病・内部疾患の治癒の効果があると。
「私にはこの薬が”汎用薬”と出ましたわ。万能薬ほどの効果の高さは無いものの、あらゆる毒を除去し、あらゆる病を快癒に導くと。即効性で言えば万能薬には及ばないものの、飲み続けることで同等の効果があると、私は見ましたのよ」
おお、そりゃ凄い。万能薬の劣化版か。即時回復とはいかなくても、問題なく効果が期待できそうだ。
「そしてお味が宜しいという事も重要ですの。『舌が麻痺する万能薬』と言われますように、お薬は決して飲みやすいものではございませんもの」
良薬口に苦しって界は違えど共通認識なんだね。糖衣錠とか喜ばれるかも?
『ホリィの魔力は美味しいのー。だからお薬も美味しいのー』
なるほど。私の魔力で作っているからなんだ……って、分からんわー。舐めてみる?自分が出した魔力を自分で吸収することに意味はあるんだろうか?
「それで、いつ旅立てまして?」
「はい?」
旅立つの?私が?王都を追い出されるの?私が何をした。上級風邪薬を作って、他の薬類も通常より高性能で、火事を消して火傷の女性を治したのはバレていないからノーカンで、汎用薬だってリズ様が効果を保証してくれて……何が悪かったんだろう?
頭の中が?でいっぱいになった私を見て、エドさんが助け舟を出してくれた。
「リズ、それじゃホリィに意味が伝わんねーよ。ホリィ、リズはその薬の検証をしに隣国へ行かないかって言ってるんだ」
付き合いが長いらしいエドさんにはリズ様の思考が読めるのか。そういえば、この人は心が読めるのかと思ったことが何度もあったな。
「少々、性急すぎましたかしら、ごめんなさいね、ホリィ。私はこの薬が天魔熱に効果があると確信しておりますわ。ですが、検証は必要です。実際に隣国で流行り始めているとの事ですから、被験者には事欠かないと思いませんこと?」
「被験者……」
「言葉は悪いですけどね。年齢別、性別、重症度別に投薬して経過を観察するには罹患者が多い隣国へ行くのが手っ取り早いですわ。今回は治験ということで無料か安価にて投薬、そこでデータを取り、検証の後にこの国で販売いたしましょう。サンストーン国の民は安い対価で病が治ってうれしい、私たちはデータが取れて嬉しい。一挙両得でしてよ」
リズ様の中では、私が隣国へ行くのは決定事項のようだ。まだ返事してないよね、私?
いや、こちらからお願いしたこととはいえ、販路を隣国には求めてなかったよ。私に出来ることなんて限られているんだから、アズール商会に穏便に秘密裏に薬を卸してあとは丸投げのつもりだったのに。
「もちろん、検証にかかる費用は商会が持ちますし、報酬もお支払いいたしますわ。ホリィが身一つで馬車に乗って下されば、必要な物はすべて手配いたします。エディとサジの分も勿論」
私が渋っているように見えたのだろう。リズ様がそんな提案をしてきた。お金の問題で返事をしなかったわけではなく、怒涛の展開に付いていけなかっただけなんだけどなぁ。そして、エドさんとサジさんが一緒に行くことも決定事項なんだ。二人とも反論無しだし。
確かに検証は必要だ。効くだろうと思い込んでいた薬が効かなかったら実際に天魔熱が流行った時に洒落にならない。行った方がいいだろうか。
「サンストーン国はわが国アイオライトと友好条約が結ばれています。アズール商会と懇意の商会もございますし、私には他にも色々伝手がありますわ。聖女様が顕現されたと聞きますし、私も近々行ってみたいと思ってましたの」
「リズ様もご一緒に?商会の方は大丈夫なんですか?」
「遠出はよく致しますの。私が性急なのは夫も義母も商会の面々も良く知っているので問題ありませんわ」
「リズが同行するならコイツのコネで厄介事はずいぶん減るぞ?」
元高位貴族としてのコネか、アズール商会のコネか、リズ様本人が作ったコネか、もしかしたらそれら全てかもしれない。
「それにホリィのように可愛らしい女の子を野獣二人だけと旅させるなんて危険極まりません。同行致しますわよ」
「おい、誰が野獣――」
「はは、エドさんはともかくサジさんは野獣って感じじゃないですよね」
「……ねぇ、エディ?」
「おい、ホリィ!どういう意味だ!リズに殺されるから誤解を解いてくれっ!」
お、これは”男はオオカミなのよ”的な意味での野獣でしたか。私は外見や雰囲気、あと男臭い位の意味だったんだけど。
「エドさんは獅子って感じですよね。サジさんは鹿みたいなイメージです。なので、野獣っぽいのはエドさんだけかなーと」
なんだ、という顔をしてリズ様が肩をすくめ、エドさんは青い顔をして長いため息をついた。エドさんってばそんな図体してそんなにリズ様が怖いのか。リズ様が一番の野獣なのではないだろうか。
「隣国までどの位かかりますか?旅程にかかる分のお薬を前もって商会に卸しておきたいです」
私を睨むエドさんから目を逸らしてリズ様に尋ねる。
「そうですわね、片道に4日、あちらでの滞在を2週間とみて余裕をもって一月分を納入していただけると有難く思います」
「片道4日ですか、近いんですね。サラクから王都まで半月もかかったのに」
「ええ、サラクより隣国の方がずっと近いんですの。駅馬車ではなくアズール商会の馬車を使いますしね」
いろいろと打ち合わせをして、出発は1週間後という事になった。リズ様の決断は疾風怒濤の如し。
汎用薬作成の時間を問われたがある程度の数だけを持っていき、あちらで本格的に作成することを伝えた。作成は一瞬だし魔力的にも問題ないから、運ぶ手間の方が甚大だ。
リズ様が表立ってくださるなら、私は気楽に隣国観光のつもりでいいのかな?
お仕事を頑張るのはもちろんとして、少しは楽しめたらいいな。出来れば聖女様のお姿を拝見したいところ。安藤さんたちは容姿を変えないと言っていたから、見れば彼女たちかどうか確認できる。
隣の席のリズ様から熱い視線を感じつつお料理を頂いたが、それでもとても美味しかった。
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