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第58話 リズ様との対面 1

 「キュアポーションねぇ……」

 「効くかどうかは分からないんですけど」


 マージカレアさんから聞いた話から私が出来そうなことを話してみると、エドさんもサジさんも顔をしかめた。ですよねー。目立たない一般市民を目指すと言いながら火事を鎮火し、火傷を負った重体の女性を完治させ、更には流行り病の特効薬を作りたい、だもん。


 「お前、目立ってもいいのかよ?」

 ヤダ。でも、人が死ぬのもヤダ。私は首を横に振る。


 エドさんは深く深くため息をついた後に言った。


 「リズを巻き込むか」

 「まぁ、リズ様をこちらに引き込めたらやれることの幅は広がるわね。餌は極上で食いつかない筈ないし」

 「すげー張り切って俺らを振り回すリズの姿が目に浮かんでコワイ」

 アイツと会せるのは避けてたんだけどなぁ……と、エドさんが遠い目をする。

 我儘を言ってスミマセン。私一人で出来ることなんてほんの少しだからといって巻き込まれる筋合いないだろうに、本当に申し訳ない。


 「よろしくお願いします」

 頭を下げ助力をお願いした。


 ◇◇◇


 エドさんが手配してくれて、私はようやくリズ様にお目にかかることが出来た。場所はアップタウンにあるレストランの個室。従魔連れもOKとの事でヨルとタマコも一緒だ。


 「ずっと会いたいと思っていたの。お目にかかれてとても嬉しいわ」

 エドさんから聞いていたリズ様の話から、私は肉食系ダイナマイトバディのゴージャス美女だと勝手に想像していたので、お目にかかってみて驚いた。

 リズ様は楚々として優しげな微笑みを浮かべた、清楚で控えめな雰囲気のほっそり美人さんだったのだ。

 美人って所しか当たってなかった。


 「初めまして。私はアズール商会当主の妻でリザベツというの。どうぞリズと呼んで下さいませね?」


 出された手は白く細く、まるで彫像のように美しい。私がこの手に触れていいものかと思いつつ握手をした。


 「はじめまして、ホリィです。エドさんとサジさんにお世話になって、三ヶ月前に王都に来たばかりです。肩にいるのは私の従魔で黒曜蛇のヨルで、こちらはパートナー契約をしたアイトワラスのタマコです。よろしくお願いいたします」

 『ヨルなのよー』

 「みゃあ」


 ヨルとタマコも紹介しておく。従魔と会話が出来るという事は非常識らしいので、ヨルの挨拶を通訳することはしない。


 「こんなに小さいのに薬師様のお使いをなさってるんですってね。偉いわね」

 「あの、私、15歳です。もう、成人しています」


 リズ様は175cm位だろうか。やはりオルダの人は大きい。


 「エディにも義母にもそう聞いてはいたの。でも、実際にあなたを見るとどうしても、ね。二人にはあなたに会いたいと何度もお願いしたのに聞いてくれなかったの。酷いと思わない?」

 リズ様がくすくすと笑う。嫌味なところが全くない花の様な笑いだ。


 「エディ……」

 エドさんの事だろうと、彼の方を見る。

 「リーズ、いい加減、そのガキの頃の呼び名は止してくれ」

 「ふふふっ。体は大きくなっても、私にとってはあなたは小さなエディのままなのよ?」


 うぉ?リズ様ってお幾つ?エドさんが30歳……じゃなかった23歳なのに、子ども扱いだよ。


 「ホリィ、見た目に騙されんな。リズはこう見えてもう三十半ば…イテっ」

 「あらまぁエディったら、レディの年齢を口にするだなんて、少し教育が必要かしら、困った子ね」


 三十半ば――見えない。二十台前半で通る。そして、マッチョに突っ込みいれるスレンダー美女とかビックリだ。


 「あなたのおむつを替えたことがあるお姉さまに向かって、今度また不作法な事を口にしたらちょん切っちゃいますわよ?」

 「何を!?」

 清楚な見た目からとんでもない言葉が出てきて驚いた私は思わず突っ込んでしまった。

 リズ様はそれに答えず、ふふふと笑っただけだった。リズ様コワイ。でも格好イイ。


 薄々思っていたことだけれど、エドさんはやはりいいとこの出なんだなぁ。高位貴族出身のリズ様が”おむつを替えたことがある”っていう位だもの。


 4人でテーブルに着き、ヨルは私の肩にタマコは足元に丸くなる。

 リズ様の正面にわたし、私の横にサジさんでリズ様の隣にエドさんだ。

 給仕さんがお茶を供して下がって行った。これは前もってお願いしていたことで、話が終わってから食事を出してもらう事になっている。


 「リズ様、私はお使いとして商会に出入りさせてもらっていますが、実は薬師です。錬金薬師でもあります」

 「え?」


 エドさんとサジさんとの話し合いで、薬師様の正体をリズ様には打ち明けようと決めていた。他のチート能力を明かすかどうかは、私がリズ様を信用できると自分で認識したうえで考えることにしたが、薬師であることを隠したままだと私が懸案を薬師様に持っていき答えを持ち帰るというタイムラグが生じ鈍重な動きとなってしまうからだ。

 

 「私は孤立した村の中でも更に人交わりせずにいました。なのでとてつもなく常識知らずなんです。世間一般で当たり前のことが私には分からなくて、エドさんやサジさんに沢山迷惑をかけてしまっています」

 「そうなの。でもいいのよ?男は女のために働くものなの。迷惑をかけてなんてことはまったく気にしなくていいわ。ましてエディですもの」

 「そ……そうですか?えーと、それで、自分が作る薬が駆け出し薬師に作れるようなものじゃない事も知らずにいまして、そのことを教えてくれた二人と相談して、薬師の正体は明かさずに私がお使いとして動くことにしたんです」

 「大変だったのね。成人したてなのに薬師としての腕が上々でその美しさですもの。隠して正解ですのよ?」

 「あ……ありがとうございます」


 この美しさは何かの間違い、おそらくエムダさんの手違いだと思うのであまりそこに注目しないで頂けるとありがたいです。


 「こいつはリズとは違う意味で非常識でな、何度肝を冷やしたことか」

 「でも、ホリィちゃんはいい子なんですよ。リズ様」


 私の何処が非常識なのかしら?と小首をかしげるリズさん。エドさんが言うような我が道を行く人にはとても見えない。


 「今回、リズにこいつを会わせたのは頼みがあるからだ」

 エドさんが口火を切ってくれたので、私が説明する。

 天魔熱の話をマージカレアさんから聞いた事、私が作る薬が効くかもしれない事、効果があるのなら出来れば自分は表に出ずに薬を広めたいこと。それを伝えてキュア・ウォーターをテーブルに乗せリズ様の方へ滑らせた。


 「鑑定させていただくわ」


 リズ様は断りを入れて薬瓶を手に持ちじっと見つめた後、キラキラとした目で私を見た。

 何かコワイ。美人さんが目をキラキラさせている、ただそれだけなら眼福と言っていいのだが、圧が凄まじいのだ。

 思わず身を引いた私を、エドさんとサジさんが苦笑いをしながら見ている。いや、見ていないでフォローしてよ。リズ様が怖いんだってば。


 「ホリィさん……いえ、これから長いお付き合いになると思うからホリィと呼ばせていただきたいわ。宜しくて?」

 「え?あ、はい、どうぞ」


 元高位貴族様に敬称付けされるのも居心地悪いし問題なしなんだけど、この豹変ぶりは一体何なんだ。


 「ホリィに巡り合わせてくれた神に感謝を。会うのを邪魔していたエディに怨嗟と呪いを!」

 「おいおい……ホリィがドン引きしてんぞ?少し落ち着けよリズ」


 エドさんが言うも、リズ様の耳には入っていない様子。身を乗り出してきたリズ様を見て、間にテーブルがあって本当に良かったと思った。

 

 「私、絶対にホリィを逃がしません事よ?」


 これが”餌は極上で食いつかない筈ない”なのかな、サジさん。


 楚々とした美人さんだった筈のリズ様が、もう肉食獣にしか見えない……。



読んで下さったあなたに感謝を

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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