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第56話 隣国の聖女

 「ねぇねぇ、聞いた?サンストーン国に聖女様が現れたって!」

 「聞いた!なんでも祈りを捧げるだけで怪我人を治してくださるとか」

 「希少な品々を(くう)から取り出す方もいらっしゃるそうよ」


 そんな会話を耳にしたのは王都に来てから3ヶ月ほどたったころ、アズーロ商会の中でのことだった。

 祈りを捧げて怪我をいやす聖女様……安藤さん?癒しとか回復を使いたいと言っていた気がする。空から希少な品々をっていうのはもしかしてガチャか?ガチャ+幸運のギフトを貰った伊藤さんかも。


 凄いな、聖女様か。

 隣国まで噂が届くとなると、相当な活躍をしているんだろうなぁ。充実しているようでよかった。王都に来る途中で漏れ聞いた(というか盗み聞きした)森君と小林君は順調とは言い難い様子だったので、良い噂が聞けたのは嬉しい。

 本当に安藤さんと伊藤さんかどうかは確認のしようもないので、勝手にあの二人が隣国で元気にやってると思っておこう。


 私のガチャは相変わらず死蔵品ストック状態。たまに出る果物やお酒、食べ物類はヨルとタマコにあげたり、エドさんサジさんと一緒に食べたりしている。レア度は基本的にSR(スーパーレア)でたまに(レア)UR(ウルトラレア)なんてのも出たりする。インベントリに収納すれば騒動の元にはならないし、私の中での当たりはもはや食べ物関連だったりする。


 エドさんもサジさんも私がガチャでとんでもない物を出す事に慣れてしまっていて、飲食物が出ると喜ぶまでになっている。

 美味しいは正義!売れば幾らになるんだよ……なんて類の希少アイテムはイヤん。そんなものはモブ市民には不要なのです。



 「あら、ホリィちゃんだって、聖女様やろうと思えばできるんじゃない?」

 商会で聞いた噂話を夕食の席で披露したら、サジさんがとんでもない事を言った。

 「無理無理。柄じゃないですよー」

 祈りを捧げて――って所がもう聖女様っぽいよね。私のヒールなんてシャボン玉だよ。


 「あ、いいことを思いついた!」

 「ホリィの良い事ってこえーな」

 「エドさん酷い!あのですね、私のヒールってシャボン玉みたいじゃないですか」

 「あら、そうなの?」

 あ、そうか。見たことあるのはエドさんだけか。そもそもエドさんに使った時と、エドさんから食らったデコピンの痛みを取るときにしか使ったことが無いわ。怪我人に遭遇していない事もあるけれど、辻ヒールするにしたって、シャボン玉が人に向かって飛んで行ったら目立ちすぎる。


 「そうなんですよ。何でだかわからないですけど。それでですね、そのシャボン玉をそのまま瓶詰にしたらヒールポーションになりません?そういうポーションってあります?」

 インベントリに眠ってはいるが、錬金魔法で治癒ポーションを作った事がある。魔法とはいえ素材が必要なので、ヒールをそのまま瓶詰め出来れば材料を集める手間も費用も掛からずお得じゃない?やってみないと出来ると断言はできないけど。


 「作れてもエドさんとサジさんに渡すしか使い道は無いんですけどね」

 そう、これで商売をする気は今のところない。いずれ錬金薬師に――と思っていても、実際どうすればいいのかは王都に来て3ヶ月たった今でも分からない。

 あれこれ作ってみるのも、何が出来るかの確認というよりはただの好奇心。せっかく魔法のあるオルダに来たんだから楽しんじゃえー位の気持ち。

 うん、楽しんでいます、異世界。


 「ホリィちゃんが作ってくれるお薬、とても重宝してるわ。役得ね、私たち」

 「お友達特権ですよー」

 マジックバッグや調薬魔法で作ったお薬あれこれ、錬金魔法で作ったポーションあれこれは二人の役に立っているようだ。嬉しい。

 採取専門で安全な依頼しか受けない私と違って、荒事をこなす彼らが無事に帰ってくるための助けになれているのなら光栄だと思う。チートもりもりで良かった!内々にしか使わないけどねっ。


 「だから、みんなを癒やす聖女様って凄いなーと思って」

 「お前だって、見ず知らずの初対面の俺にヒール使ったろうが。しかも押し売り状態」

 そうだった!けど、第一オルダ人遭遇だったしさー。山の中で何処に向かえばいいのかもわからない状況だったし、周囲に助けを求められる状況じゃないのに怪我人を放っておく事も出来なかったんだもん。


 「聖女様ってね、お忍びで市井を視察していた第二皇子殿下に見初められたって噂もあるわね」

 なに、その王道。乙女ゲーかっ。

 「教会で人々を癒やす姿を見た殿下が”この方こそ聖女”と称賛して王宮に招いたとか招かなかったか」

 どっちやねん。


 「お前は他人に目を付けられねえように気を付けろよ、ホリィ。まだまだ常識の勉強中なんだから」

 「あら、普通にふるまうのはだいぶ上手になったじゃない?」

 私も!私もそう思うよサジさん!


 「せっまい範囲だけならな。今のところ、俺とサジ、マージ位だろ親しく話すのは。マージは世故に長けた商人だから、少々のことは飲み込んでくれるが、例えばリズなんかだとやべーぞ?」


 そうなのだ、もう3ヶ月もアズール商会にお世話になっているのに、いまだにリズ様とはお会いできていない。エドさんから聞いたリズ様のイメージだと、上級風邪薬を作った薬師とそれを運ぶお使いに興味を持たない訳はないと思うのだけど。


 疑問に思ってエドさんに聞くと


 「マージが止めてる。俺が頼んだのもあるが、目端の利くマージはリズの暴走で優秀な薬師が消えるのが怖えんだろ、やっぱ」

 と言われた。


 なるほど、金の卵を産むガチョウに逃げられたら困るよね。効果の高い薬を、望んだ数だけ望んだ期日で納入してくれ、こんな薬が無いかという希望にも即座に対応する薬師。エドさんの後見があり、提示された対価を丸呑みし文句も無理も言わない薬師。

 うん、優秀な薬師だ、私。

 都合がいい、使い勝手がいいとも言えるが、都合がいいのはこちらも同じ。Win-Winでしょう。


 「せっかくお前の目指す地味な一般市民をやれてるんだから、あんま目立つ真似すんなよ?それこそ聖女様になっちまうぞ」


 しないよっ。そういう晴れがましいポジションはリア充だった元級友たちに任せるとも!


 その晩に試したヒールポーションは大成功。

 エドさんとサジさんに渡した。もちろん、使うような機会はないほうがいいけれど。



 【鑑定】


 ―ヒール・ウォーター―

 別名:ヒール・ポーション

 怪我を癒やす

 服用または患部にかける

 美味



読んで下さったあなたに感謝を

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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