第54話 ヤミィダンジョン 2
ブクマが300を超えました
嬉しいです(≧▽≦)
ありがとうございます
「この兎は肉食なのね……」
多分、この状況で聞くこととしては一番どうでもいいことをヨルに聞いた。他の事はまだ事態の把握が出来てない。
『おっきい相手には向かわない筈なのよー。ネズミとかトカゲとか食べるのよー。ホリィが美味しそう過ぎて突進しちゃったのねー』
それは魔力の話だよねぇ。ダダ漏れ魔力で魔獣ホイホイ。隠密を掛けようが認識阻害やぬらりひょんの付与があろうが魔力漏れによってホイホイ状態にはなるのか。困った。
このフロアは比較的安全だとエドさんが言った通り、この角のある兎は人間を襲うことは無いのだろう。我を忘れて向かってくるくらいに私の魔力が美味しかったのでなければ。
―角兎―
年齢 : 1
性別 : 雄
LV : 2
HP : 0/38
MP : 0/120
小動物を餌にする肉食魔獣
食用:適
味:上
―――――
食用が「可」じゃなく「適」かぁ。で、味ってのは初めて出たな。私の鑑定眼は食に貪欲だ。私がでは無い。私の【鑑定眼】が食い意地が張っているのだ。
『おバカさんよねー。食べちゃったら無くなっちゃうんだから舐めればいいのに』
何気なさそうにヨルが怖い事を言う。無くならないのなら食べたいのか、ヨルよ。
「突進して来て障壁にぶつかって……?」
『そうなのよー。どっかーんでキューってなったのよー』
自損事故です。障壁と反射の付与が仕事してくれたんだね、きっと。この位の魔物なら襲われても大丈夫だという事が分かって良かったけど、この兎はどうしたらいいんだろう?採取道具しか持っていない私が小さいとはいえ魔獣を仕留めたなんて無理がある。しかもどっかーんでキューってのをエドさんサジさん以外に説明のしようがない。
とりあえずインベントリに入れておこう。
角のある兎の事はいったん忘れて採取の続きだ。
マランの樹皮やビティアスの葉、紫花やクミタ草、素材の宝庫で欲しいものはいっぱいあるのだ。
半日かけてあれやこれやと採取出来てホクホクな私。収穫量も種類的にも大満足、なんだけど問題はインベントリに入っている4匹に増えた角兎と、ヒョウガラトカゲ、カミクダキガメ――カミツキガメより怖い名前だなぁ――です。魔獣ホイホイな私に突進してきてどっかーんでキューっです。
角兎はおいしいようだしカミクダキガメの血は薬の材料になる、ヒョウガラトカゲ……何かに使えるのかな?いや、そもそも私は兎もカメもトカゲも捌けないぞ。どうにか誤魔化してギルドに持ち込む?エドさんかサジさんにお願いする?
予定外の獲物の処理に困ってます。
「エドさん、サジさん、お待たせしましたー。ばっちり一人で大丈夫でした!」
そう、これが大事。隠蔽を解除してエドさんとサジさんに胸を張って報告だ。
「ホリィ……?」
「ホリィちゃん?」
ん?二人の様子が変だ。どうした?
「ホリィ……だよな?なんだっつーの。そこにいるのに、認識しづれえ」
ぬらりひょんのせいか!これ、そんなに優秀な付与なんだ!?
「すみません。付与のブレス付けたままでした」
慌ててブレスレットを外すと、エドさんとサジさんがホッとしたような顔で私の肩や頭に触れた。
「ホリィちゃんね、良かった。一応、ずっと目で追っていたつもりだったんだけど今一つ自信を持てなくて」
あちゃー、半日ずっと不安にさせてしまったようだ。
「ごめんなさい。私を認識させにくくする付与をブレスレットにつけたんです。まさか、ここまで凄い効果だと思わなくて心配させちゃいましたよね。本当にごめんなさい」
居るのに居ない扱いされるのは慣れていたけど、居るはずなのに認識できない人の気持ちを考えなかったのは私の落ち度だ。しかも、その人たちは私を見守るために付き添ってくれた人たちなのに。
「ヨルちゃんとタマコちゃんは見えていたし、この子たちに異常は見られなかったから大丈夫だとは思っていたのよ?でも、無事でよかったわ」
サジさんが私の肩を優しくなでてくれる。
「だな、こいつらの行動を見ていたから問題ないだろうとは思ってたぞ?」
エドさんが私の頭を撫でてくれる。
ぬらりひょんの効果が強いことが証明されたけど、ヨルとタマコの姿が丸見えなのは拙いな。私の姿が見えなくても、この子たちを連れていることが目印になってしまったら正体バレバレだ。帰ったらヨル達用にぬらりひょん付与のアイテムを用意しなくては。
変化して体の大きさが変わるタマコと、蛇のヨル……何を付けれれるんだろう。
「二人ともありがとうございます。バッチリ採取はできましたけど、想定外の収穫もあってどうしたものかと思ってるんで、相談に乗ってください」
「想定外?」
「宿に戻ってからでいいじゃない、エド。きっと人がいるところでは話せない事よ。だって、ホリィちゃんですもの」
そ……そこまで大事じゃないと思うよ、多分。
宿に戻ってから、障壁の効果とそれによる成果を話したらエドさんもサジさんもちょっと遠い目をして
「それならヤミィダンジョンのフロア1は問題なさそうね……」
「絡まれることもないだろうしな……」
と言ってくれた。
よし!ダンジョンに一人で潜っても大丈夫だというお墨付きゲットだぜ!
冒険者ギルドでのランクアップを狙わないのなら魔獣はアズーロ商会に卸してはどうかと言われたので、なるほどと思った。詮索無用の薬師様との繋がりを維持したい商会なら、お使いの獲物にも煩い事は言わないだろう。エドさんとも親しいようだし、一番無難な卸先かもしれない。
「問題は、私が一度に運べる量じゃないってことですね。マジックバッグとか使っちゃダメですかね?薬師様から借りたって事にして」
「ホリィとの取引は別室でするように俺からマージに話を通しておいてやるよ。あと、行きと帰りはそのブレスレットを付けておいた方がいいな。アズーロ商会は信用できる商会だが、取引に来るものも客もいる。どこで目を付けられるか分かんねーぞ?」
「そうね、ずっと目を離さずにいた私たちがホリィちゃんを認識できなくなる位ですもの。そのブレスレットがあれば万が一あなたに目を付けて薬師様に近づこうとしたり、マジックバッグを強奪しようとしたりする輩が出てきても安心だわ」
ぬらりひょん効果、絶大だな。
「はい、そうします。お二人とも、今日は本当にありがとうございました」
ヨルとタマコに相談して、リボンにぬらりひょんを付与することにした。宿と商会との往復時、それとダンジョン内でだけの事なので、タマコは猫姿でいてもらう事にし、ヨルには包帯のように巻いて使う。
これで、この子たちから私を辿るという線もなくなってより安全になったと思う。
今日はやらかしも失敗もなく、上々の一日でした!
読んで下さったあなたに感謝を




