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第52話 子どもの癇癪

 今日は滋養強壮剤、神経痛・関節痛の薬、酔い止めを持ってアズーロ商店へ。

 エドさんがしつこい位に付いて来ようとしたけれど、サジさんの援護もあって何とか押しとどめることが出来た。


 受付で名乗ってマージカレアさんを呼んでもらう。

 マージカレアさんに要請された薬を渡し、代金を受け取る。

 更に、前回は持ち込まなかった薬をサンプルとして差し出す。

 需要がある薬を聞く。

 次回の約束を取り付けてアズーロ商店を後にする。次回は3日後の予定だ。


 ほら出来た!初めてのお使い状態よろしく付いてきたエドさんに胸を張った。気が付いてたよ、宿を出る時から私の後を付けていたこと。ホント、オカンは心配性で困る。あの番組で見守られているのは小さな子供だからね?私は(この世界では)成人してますから!


 「大丈夫だったでしょう?」

 「スマン」

 「エドさんは心配し過ぎなんですよ。そりゃ、私が常識が無いのは分かってますけどね。だからこそ色々と経験しないとダメなんです」

 「……スマン」


 2m超えのマッチョがシュンとしている姿は、その筋の人が見ればギャップ萌えとやらを起こすんじゃないかな?残念ながら私にはその属性は無いようで、笑いをこらえるのに必死だ。

 心配性なオカンに一人で出来たよと報告するのは誇らしいと共に擽ったい気持ちになる。心配されることも嬉しいのだから困ったものだ。誰にも関心を持たれることのなかった日本での環境と違いすぎて対応に困ることもしばしばだけれど、誰かに気にかけてもらうというこの状況が私を温かい気持ちにさせる。


 「しょうがないので許してあげましょう。でも、もう、後を付けるなんてしないでくださいね?」

 「……」

 「しないでくださいね?」


 なぜ、返事をしないのだ。


 「――エドさん?」

 「スマン。だが、目を離した隙にホリィが何をやらかしているかと思うと、どうにもじっとしてらんねー気持ちが、だな、こう沸々と」

 「はい!?」


 なんてこった!

 エドさんは、私「に」何か起こるかもしれないと心配していたのではなく、私「が」何か事を起こすんじゃないかと心配していたのか!?

 さっきまでの私の温かい気持ちを返せ――!!



 苛ついた私はエドさんを放って歩き出す。目指すは冒険者ギルドだ。依頼ボードとダンジョンの詳細の確認をするのだ。

 エドさんは私の後を付いてくるが、こちらが腹を立てているのが分かるのか話しかけてはこない。ちくしょー、過保護なオカンだと思っていたら、私に信用が無いだけかっ。



 「こんにちは、私、王都に来たばかりで採取をメインに活動しているホリィと申します。薬草の採取が出来るダンジョンの事をお伺いしたいのですが」

 冒険者ギルドで受付のお姉さんに声を掛ける。

 「ようこそ、王都第一冒険者ギルドへ。薬草や果物が取れるダンジョンは王都の北部にございます。ここからですと乗合馬車で1時間ほどかかりますが、昼夜問わず馬車は動いているので便利ですよ」


 一日中出入りがあるのか。凄い。有効利用していると言われるだけの事はある。朝取りダンジョン野菜とか果物とかが市場で並ぶのかな。


 「ダンジョンのフロア1でしたら商人の方も潜るくらいですから危険は比較的ありませんが、なにかトラブルや事故などが起きても自己責任でお願いします」

 私が出した冒険者カードを見て初心者であることを知った受付のお姉さんが親切に言ってくれる。


 「はい、ありがとうございます。あと、手頃な値段の防具を売っている店でお勧めありませんか?」

 「初心者向けですと、ナツツバキかラピスあたりが宜しいかと」

 出してもらった地図で場所を確認しつつ、見ただけで自動マップに反映されればいいのになーと考える。レベルが上がればそういう機能も付いてくれるだろうか?しかし、自分のレベル上げとなると魔獣退治とかしなきゃならんのかな。

 それはちょっと怖いな。出来る気がしない。


 お礼を言って、とりあえず近い方の防具店「ナツツバキ」へと向かう。

 私は一人。付いてくる人などいないのだ。遠慮がちに私の名を呼ぶ声など聞こえないったら聞こえない。


 ナツツバキは初心者向けに良いとのお勧めだけあって、私にも買えそうな防具が並んでいる。一通り見て、レギンスと厚手のシャツ、皮のパンツと籠手、ロングブーツ、マントを購入。しめて金貨2枚也。薬の代金が思ったよりずっと高かったとはいえ、所持金から考えると贅沢な気もする。いいや、ま、必要経費だ。高いものは本当に手が出ないほどに高かった。

 アーマー類も軽量化の付与を付ければ装備できそうだけど、私の体格でごっつい鎧を着ていたら奇異に映るだろうし、そもそも予算不足だ。


 あとは宿でこれを複製してから付与魔法をかけよう。



 「ただいまー、サジさん。ヨルもタマコもただいまー」

 「おかえりなさい、ホリィちゃん……と、エド」


 腹立ちは納まらなかったので、付いてくる人はいない事にしたまま宿に戻った。サジさんがどうしたの?と言うように首をかしげているが、にっこり笑ってスルーする。


 「今日もヨルとタマコを預けちゃってすみません。これ、お土産です」

 露店で買ったお菓子をサジさんに渡し、二匹を受け取って自分の部屋に戻る。


 「ヨルとタマコにもお土産だよー」

 自分に清浄をかけてから買ってきた果物を二匹に勧め、買ってきた防具を出した。


 【清浄】【複製】


 「やっぱり劣化するなぁ……」

 マスターをインベントリに入れ、複製した防具を見てひとりごちる。レベル2に上がった複製スキルだけど、効果は今のところ変わっていないように思う。


 付与魔法もレベルが上がった。他愛のない付与だが毎日行っていた成果だ。


 マントに認識阻害、ブーツに敏捷倍増、レギンスに回避、シャツに快適、パンツに反射、籠手に障壁の付与付けをした。


 これは上手く作用するかどうか分からないけど、手持ちのブレスレットに【ぬらりひょん】を付与。これが効いてくれると大変助かるんだけどどうだろう。


 付与が終わった時に、ドアがノックされた。


 「ホリィちゃん、いい?」

 「サジさん?どうぞー」

 立ち上がって、ドアを上げると困ったような顔のサジさんがいた。


 「今日は何があったの?エドがすっごく分かりやすく落ち込んでるんだけど」

 「いやー、ちょっとムカついちゃって」


 そう言って、今日の日中にあったエドさんストーカー事案から、私の身を心配してではなく私がしでかす何かに警戒していたことを話す。


 「あらあら。エドがホリィちゃんの起こす騒動に注視するのなんていつもの事でしょうに」

 確かに。


 「なんで、私はそんなにも腹が立ったんでしょう?」


 そうだよ。初めて会った時から、エドさんは私が何かをしでかすたびに叱ってくれて注意を促してくれて……なのに、なぜ今日はやり場のない怒りを覚えたんだろうか。


 「……がっかり、しちゃったのかも」

 「がっかり?」

 「そう。エドさんはいつも私のことを気遣ってくれて怒ってくれてたから、いつの間にか増長してたかもしれないです。エドさんにそんな義理ないのに甘えすぎてた。だから、何で私の心配をしてくれないんだ!ってムカついちゃった気がします」


 自覚するとなんて図々しい思考回路だろう。たまたま出会っただけの子どもに行き場が無いならと世話をしてくれたエドさんに対して、反抗期の子どもが親に対して持つような反発心で癇癪を起してしまった。

 オカンのようだと揶揄していても、あの人は私にとって他人なのに。

 血縁上の親にだってこんな気持ちは持ったことが無いのに。


 ただただエドさんに申し訳ない。子どものような駄々をこねたせいで落ち込ませてしまった。


 「一人でやっていこうと思っていたのに、エドさんとサジさんに優しくされて依存しちゃってました。ごめんなさい」


 サジさんにも私はずいぶんと甘えている。これでは駄目だ。


 「エドさんにも謝ります。そして、もうちょっと適切な距離感を取るように気を付けます」

 「ホリィちゃん、何でそんな結論になるの?私たちお友達でしょう?距離を取るなんて寂しい事を言わないでちょうだい」

 「お友達ですよー。だから、距離を取るって言っても離れていくわけじゃなくて、お友達として適切な距離感を持とうと思います。もし、今まで嫌な思いをさせてしまっていたらごめんなさい」


 距離感を学ぶのは大事。人付き合いをしてこなかったせいでそれを知らないからって、相手にそんな事は関係ない。

 よし、学んだ!人付き合いには適度な距離が必要だ!




読んで下さったあなたに感謝を

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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