第51話 商談はほぼ成立
じょーきゅーかぜぐすり……。
言われたことを理解するのに少し時間がかかってしまった。
上級風邪薬?私が作った等級Sのお薬が?
横を見るとエドさんも固まっている。
「おや、エドヴィリアスタ様もご存じなかったのですか。そうですね、店の鑑定魔道具では『等級S』と出ただけでございますもの。同程度の鑑定しかなさってなければ分かりませんね。当家の息子の嫁が優秀な鑑定眼持ちでございまして、嫁の鑑定によれば、こちらは通常の風邪薬の範疇には収まらないとの事でございました」
私よりレベルが上の鑑定眼持ちなんですね、すごいなー。私もレベルをあげれば騒動の元を表に出さずに済むかもしれないなぁ……なんて、”上級風邪薬”から目を逸らしていたらエドさんに睨まれた。しょうがないじゃんかー。私の鑑定眼では等級Sまでしか分からなかったんだから。
マージカレアさんを驚かせるつもりが自分に衝撃を食らったエドさん。私の薬のせいかもしれないけど、自業自得部分が大きいと思うぞー。
「か…価格については専門家の方に一任すると薬師様より申しつかっておりますので、マージカレアさんの宜しいようにお願いいたします。薬師様は何も仰ってませんでしたので、薬の効果についてはご存じないと思います。あと、私のことはどうぞホリィとお呼びください。様付けされるような身分ではありませんので」
この分だと他の薬もヤバいかもしれないが、それは棚上げにしておこう。
私としては、薬を卸す先が出来、お代を頂戴出来て、こちらの詮索をされなければ問題ないのだ。それに、とんでもない薬を作れる薬師と言う事で認められれば顆粒のお薬も卸せるかもしれない。顆粒の方が便利だし、こちらを是非に広めたい。……異世界無双じゃないよ?
「かしこまりました、ホリィさん」
エドさんはまだ再起動がかからないようでマージカレアさんは私を見て話し始めた。
「正直に申し上げて、エドヴィリアスタ様のご紹介とはいえ初対面のホリィさんに全てをお任せすることに躊躇はございます」
だよねー。でも、エドさんをこれ以上使う訳にもなぁ……。
「ですが、この商機を逃すわけにも参りません。薬師様とのご縁を繋いでいただけますよう宜しくお願い致します」
「こちらこそ!どうぞよろしくお願いいたします!」
やった!調薬が優秀でよかった!
ん?いやいや、お薬が普通だったら、この苦労は無かったわけだよ。でも特殊なお薬だからこそ高値で買い取ってもらえる訳で……。まあ、今後何があるか分からないのだから、冥土に旅立つまでは何が正解なのかは不明だ。
優秀なスキルで苦労はするけど、それの結果が高価な薬。塞翁が馬だ。
「契約を交わす前に、薬師様がこちらに卸しても良いとお考えになる薬の種類と量とを確認させて下さいませ。先ほどの価格表にこちらの希望する数量はしたためてございます。それと、本日お持ちいただいたものの他にもございますようでしたら、鑑定をさせていただきたいと存じます。宜しいでしょうか?」
「はい、問題ありません。薬師様に確認を取り、またお邪魔させていただきます。次回はいつが宜しいですか?」
「薬師様に不都合が無いようでしたら明日にでも。それが無理なようでしたら、また日付をご連絡下さいな」
明日で問題ないです!なんなら今すぐにでもお薬を出しましょうか?と言いたいところだけど”薬師様”と相談しなきゃいけないから即答はしません。
苦虫を噛み潰したような顔をしたエドさんを促して、マージカレアさんに辞去の挨拶をする。
さて、帰りに果物を調達してお留守番しているヨル達のご褒美にしようか。お酒は買わないけど、オムレツが売っていたらそれも買っていこう。
◇◇◇
「まぁ………」
アズーロ商会での話をサジさんにすると、呆れたように目を丸くしたまま言葉が出ない様子。エドさんも固まっちゃってたし、上級風邪薬のインパクトは強かったようだ。
「いずれやらかすんだから、最初からかませとは言ったけどな。まさかこんな事になるとは思わなかったぜ」
「さすがホリィちゃんよね」
褒めてないよね?
二人を疲れさせて申し訳ないけど、薬の効果が分かったのはラッキーだった。
「リズ様にはお目にかかったの?」
「いや、顔を出さなかったな。そのうちホリィを紹介しようとは思ってたんだが……どうかなぁ。組み合わせ的に拙い気もしてな。騒動を起こすのが目に見えてるっつーか」
「リズ様?って、鑑定眼スキルを持ってる方ですよね?」
サジさんが”様”付けで呼んでいるし、元上位貴族様なので言葉には気を付けよう。
「そうだ。俺がどこぞの世間知らずな錬金薬師志望の子どもを拾った時に、伝手を頼らせてもらおうと思ってたんだよ。あいつなら顔が広いから。――寄る辺ない可哀想な子供だと思ってたら、あまりにも規格外で扱いに困っちまってな。リズに会わせていいもんかどうか悩むところだ」
「へー、エドさん、そんな事があったんだぁ。大変ですね。苦労性ってよく言われません?」
「お前の事だよっ!」
デコピン来た。分かってて言ってるんだから、ジョークとして流してくれよぅ。
お土産を食べ終えたヨルと黒猫タマコがすり寄って慰めてくれた。君たちは私の癒しだよ。ありがとう。……慰めだよね?傍にいるとダダ漏れ魔力が美味しいからとかじゃないよね?
魔力が漏れないように制御することは可能かな。ヨルとタマコだけなら魔力を食べてもらっても全く問題ないんだけれど、魔獣ホイホイとなってこれ以上の扶養家族を抱えるのは辛いものがある。
「で、これからなんですけど」
今のところ、薬草類も調薬済みの薬もある程度の数を持っているが、売ればもちろん無くなる。劣化コピーの複製スキルは使えないので、素材の入手から始めなくてはならないのだ。
購入するか自分で採取に行くかだけれど、近場で採取できるところがあるなら自分で採取したい。私なら鑑定しながら等級の高い素材を採れるからだ。
マージカレアさんの要望では、薬はそれぞれ30個を納品となっている。これは手持ちで可能だ。その後は売れ行きを見ながら補充する。売れなかったら……は怖いから今は考えない事にする。
「王都内にあるダンジョンで質のいい薬草が取れるぞ?」
「ダンジョン!?王都内にあるんですか!?」
危なくないの?スタンピードが起こったりとか。
「厳重に管理されているし、魔獣も大して強い奴はいない。その割に質のいい薬草やら果物やらが取れるから潰さずに有効利用してるっつー感じだな。ただし、お前ひとりで入るのは勧めない。行くなら付いてってやる」
「最初の一回は付き添いお願いします。そこで一人での採取が私に出来るかどうか確認したいです。一人で出来ないようなら素材の入手は他の手を考えます」
ダンジョンに行く前に防御力マシマシ付与装備でも作ろうかなー。隠密+鉄壁ディフェンスで何とかなると嬉しいな。
「んだよ。一回と言わず付いてってやんのに」
「エド、過保護。ホリィちゃんの一人立ちを邪魔立てしちゃだめよ?」
そう言うサジさんも、ちなみに最初の一回は私も付いていくからね?などと過保護な事をおっしゃいました。
よし、ダンジョンで一人で立派に採取できるところを見せてやるぜ!
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