第49話 王都へ行こう 6 ―到着―
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なんで、こんな事になったんだろうなぁ。
自分でもうつろだと自覚している目で、いよいよ近づいてきた王都の城壁を見た。隣にはサジさん、肩にはヨル、そしてなぜか膝に黒猫がいる。
実はこの猫は炎の尾を持つアイトワラスが変化した姿だ。
貰った酒に味を占めたのか、もう無いと言っても馬車の中にまで付いてこようとしていたのを、そんなに大きい子は入れませんと拒否したまでは良かったが、大きくなければ良いのだろうと言わんばかりに猫の姿に化けたのだ。
拒否した理由が”大きいから”だったのが拙かった。
『ホリィが美味しいから付いてきたのよー』
「美味しい!?」
ヨルの不穏な言葉が怖い。ヨルも私のことを美味しいと言ったけれど、それは汗?よく私のことをペロペロと舐めるからそう思っていたけど、アイトワラスはお酒を飲んだだけで私を舐めてないぞ。
『ホリィの魔力美味しいのよー。傍にいると美味しくてポカポカするの』
魔力って、ダダ漏れしてるのか…って、もしかして私は魔獣ホイホイになってしまうのではないだろうか、怖い。どうにかアイトワラスに帰ってもらう方法は無いものか。魔獣に【隠密】は通用するかな?馬車を降りたら巻いてしまいたい。
そう思っていたのに、気が付けば右手が柔らかな毛並みを撫でている。ヤバい、情が移ってしまう。第四界では動物を撫でるなんて経験は皆無だった。猫ってこんなに温かいんだねぇ。サラサラの毛が気持ちいい。
いかんいかん。この子は猫じゃなくて蛇。いや、蛇も好きだけど――というか、ヨルが好きだから蛇が好きになったと言うべきか。
私が葛藤している間にも馬車は進み、とうとう門にたどり着いた。サラクと違って王都はぐるりと囲む壁が三重にもなっている。さすがに厳重だ。
いちばん外側の壁の門に馬車が連なっていて、入都手続きの順番を待っている。やっと私たちの乗った馬車の順番が来て、乗客はいったん外に降りて身分証を提示し、通行料を支払う。アイトワラスとヨルはギルドで従魔証明を受けるように言われた。ヨルはともかく、アイトワラスは従魔じゃないんだけどどうしよう?
問題なく手続きが完了し馬車に再度乗り込み、ゆっくりと壁を二つ通り抜ければとうとう王都だ。馬車を降り、町を見回すとその賑やかさに驚いた。
「お……っきいですね」
さすが王都だ。門を入ったばかりだというのに、賑やかさは今まで見た町の比ではない。
「先ず、ギルドに行って従魔登録か」
「私、この子と契約していないんですけど、なんでこんな流れになっちゃったんでしょうね?」
まだ、自分の口さえ養えないこの状況でさらに口を増やすとか無理すぎる。これは早急に薬師として動く必要があるな―ーそう考えて、アイトワラスを養う気になっている自分に気付き、苦笑する。
「しょうがねぇだろ、そこまで懐かれてちゃ」
エドさんも苦笑気味だ。
「ホリィちゃんは契約魔法は持ってないの?従魔としてじゃなく、パートナー契約をしたらどうかしら?」
サジさんが言う”パートナー契約”はサラクから乗ってきた馬車を引いてきた馬の魔獣のように、テイマーを主とする永続的な主従関係ではなく、両者の同意がある間だけ結ばれるものであるらしい。幼体の頃から育てて人に懐かせて成体を売る魔獣斡旋店もあるそうだ。
これで、テイマースキルが無くても人が魔獣を使う事が出来る。
ただし、虐待をしたり無理な仕事をさせたりして、魔獣側から契約を切られることもあると言う。魔獣は安全な寝床と餌、人間に対する信頼によって契約を結んでくれるので、それを裏切ることは魔獣を使う人間にとって忌むべきことと聞き、魔獣と人との共存が上手く出来ていることを意外に思うとともに、温かい気持ちになった。
「持っていないですけれど、この世界にある魔法なら使える……んじゃないかなぁ」
柳君の『第二界で知られる全魔法を使えるようになりたい』というリクエストが私にも反映されている筈。
「ホント、規格外ねー」
習得可能スキルには載っていなかったんだけど、どうやって取得するのかな?
「でも、どういうものか分からないので、専門職の方がいるならその方に――って、あ、アイトワラスにその気があるかどうか聞いてなかった!ヨル、アイトワラスに私とパートナー契約を結ぶ気があるかどうか聞いてくれる?」
アイトワラスにその気が無ければ、ここで別れるよう説得せねば。
『契約するってー。だからご飯ヨロシクって』
「するのかー」
嬉しいような困ったような。生き物に懐かれるなんて経験はオルダに来なければできなかったことだし、率直に言えばもう情が移っているし、この子は可愛いしで、うん、嬉しいね。
「ご飯って何を食べるの?」
まさか、酒だけで生きてきたわけじゃあるまい。主食=酒なんてことになったら、飲む量にもよるけれどエンゲル係数が怖い事になる。
『ヨルと同じで果物がスキ。あと、オムレツ。”前に人の家で暮らしていた時に覚えた好物”って言ってる。あとお酒』
お酒がメインと言う訳ではなさそうなのでホッとした。果物とオムレツかぁ。案外と可愛いものが好きなんだ。マウスとかミルワームとか言われたらどうしようかと思っていたよ。
エドさんの勧めで先ずギルドへ行き、そこで契約魔術を使える魔術師を紹介してもらおうと言う事になった。
さすがに大きな王都だけあって冒険者ギルドも複数あると言うが、そのなかでもいちばんおおきなギルドへとエドさんの先導で向かった。
幸い、そのギルドの中にいる魔術師に契約魔法をかけてもらうことが出来、そのままギルドカードに従魔のヨルとパートナーのアイトワラスに名付けたタマコの記載をしてもらう。
オムレツ → 卵 → タマコ。安易だけど、考えている時間が無かったんだよ!
契約ですねー、お名前は?と聞かれてとっさに出たのがタマコだったんだもん。タマコ本猫は気にしていないようなのでいいのだ。
そして、習得可能スキルに【契約魔法】が生えた。
習得するときの様なゾワゾワを感じて自分を鑑定してみたらひょっこり生えていたのだ。ただ、見ていただけなのに。これは、見ることによって生えたのか、契約魔法と言うものを知ったことによって生えたのか。
前者だった場合、これから目にする魔法のすべてが習得可能になると言う事だが、魔法を使える人間が少ない上に囲い込まれていることが多いので目にする機会は少ないかもしれない。
後者だった場合、自分で考えて魔法を作ることが可能なんじゃないだろうか?
その場合『第二界で知られる全魔法を使えるようになりたい』と願った柳君と、それに便乗した安藤さんと佐伯君もそうなんだろうか。
いや、まだ後者だと決まったわけじゃないし、そうだったとしても【安全第一】【いのちだいじに】だったら不要な機能だ。
「とりあえず宿をとるか。俺の実家も王都内にあるんだが、顔出したらめんどくせー事になるから、俺も宿に泊まる。で、知り合いの商家に面会を申し込んでおこう。ホリィ、宿に着いたら卸す予定の薬を出しておいてくれ」
「お手数おかけしますがよろしくお願いします」
サラクで作ったお薬が結構な数あるので、出すのは大丈夫。問題はどの等級の薬を卸すかだよね。等級S~等級Bまでございます。
「Sに決まってる」
「Sでいいんじゃない?」
宿に着き、部屋の中でエドさんたちに相談すると間髪入れずに等級Sにすべきだとの返事だ。
「頑張って頑張って等級を落としていたのを知ってるもの。普通に作ってSならそれでいいじゃない」
「どうせホリィはいつかやらかすんだから、最初っからかましとけ」
いや、私は表に出ずに薬を運ぶ”お使い”役だよね?何をやらかすと言うのだろう。ちょっと納得のいかない気分だけれど、アドバイス通りに等級Sの風邪薬、胃腸薬、傷薬、解熱剤をそれぞれ5つエドさんに渡す。もちろん頓服薬は顆粒ではなく煎じ薬だ。
錬金魔法で作った魔法薬は出さない。
いずれ錬金薬師として立てるものなら立ちたい気持ちはあるけれど、先ずは安全な足場を固めよう。
「よろしくお願いします」
薬師として安全に稼げますように!
扶養家族が二匹もいるからね!
読んで下さったあなたに感謝を。




