第48話 王都へ行こう 5 ―騒動―
朝食を済ませて宿を出ると、向かいの建物の前に元同級生二人が見えた。彼らは私たちの方をじっと見ているが、向かってくる様子が無いのでこちらもあえて近づくことはしない。おそらくもう会う事もないだろうけど、お互いに関わらないで人生を元気で楽しもうねー。努力してレベル上げしてねー。
心の中でお別れを告げ馬車に乗り込む。
快適な馬車の旅ももう明日で終わる。いよいよ王都に到着するのだ。盗賊が襲ってくることも、魔獣が現れることもなく、至極平穏な旅だった。
「ここまで何事もないのは珍しいな。天気も上々で足止めも食らわず予定通りに到着できる」
昼食休憩の時にエドさんが言った。そうか、こんなに順調なのは当たり前じゃないんだね。
「ホリィちゃんがいるからかしら」
「なんでですか。私に盗賊や魔獣や天気のコントロールなんて出来ませんって」
当たり前だ。神様じゃないんだから。
「いや、案外あるかもしれねーぞ?お前、規格外だから」
規格外どころか人外でしょう、それ。
「盗賊はともかく魔獣は見てみたかったですねー。ヨルしか知らないから」
サラクで採取活動をしていた時も、安全な森とは言え全く魔獣を見かけることは無かったのだ。怖いのは嫌だけど、遠目にチラッと見るくらいならしてみたかった。いやいやそれは安全第一のポリシーに反するか。
昼食を済ませ、馬車に乗り込むと乗客もみなどことなくソワソワしているように見える。半月の旅の終着点が、もうすぐそこなのだ。
「いよいよ明日は王都ですね。楽しみなような、ちょっと怖いような」
「俺が付いてるから大丈夫だろ」
「きゃっ、エド、格好いい!」
「それはホリィに言ってほしいとこだな」
ははは、格好いいですよー。有言実行してくれればね。
道中に滞りが無さすぎて気が緩んでいたのかもしれない。馬車の中と、その横を馬で並走しているエドさんが呑気な会話をしているときにそれは現れた。
「警戒!蛇型魔獣だ!」
殿で後方を警戒していた護衛から声が上がった。
「ホリィちゃん!」「ホリィ!」
サジさんとエドさんが責めるように私の名を呼んだ。
「冤罪ですっ!」
私が見たいと言ったから現れた訳じゃない!大体、遠目でチラッと見たかっただけだし!そのあとすぐに【安全第一】を思い出したし!
「アイトワラスだ!尾の炎に注意しろっ」
「なんだって?アイトワラスが襲ってきたのか!?」
護衛さんたちの戸惑ったような会話が聞こえた。
「サジさん、アイトワラスってどんな魔獣ですか?」
「人を襲うような魔獣じゃないんだけどねぇ。5メートル位の大きさの尾が燃えている四足の黒い蛇で、変化するのが特徴の魔獣よ。家に迎えれば繁栄が約束されるとか言われてるわね」
それ、魔獣のくくりでいいんだろうか?
「魔力のある獣を魔獣と言うからね。害が無い魔獣ももちろんいるわ。この馬車を引いているのも馬型の魔獣だし」
ヨルだって魔獣だもんね。害が無いどころか可愛くて賢くて優しい、素晴らしい子だ。
「あー、やっぱり普通の馬じゃないですよね?こっちではあの子たちが一般的な馬なのかと思ってました」
足が六本で体高が3m以上ありそうな馬だったもんなぁ。鑑定すればすぐに魔獣だってわかったんだから、これからは採取時だけでなく、知らないものには鑑定をかける癖をつけようか。使い続ければ鑑定眼のレベルが上がるかもしれないし。
「どうしてアイトワラスが襲ってきたのかしら」
「襲っていると言うか……近づいてきただけですよね?」
外の護衛さんたちを見てみると、彼らも当惑しているようだ。アイトワラスが無害な魔獣なら攻撃するのもどうかと思うし、かといって魔獣は魔獣だから余りにも馬車の傍に寄らせるのも拙いのだろうと思う。
「そうね、襲ってくると言う感じじゃないわよね。ホリィちゃん、何かした?」
「冤罪!私、ずっとおとなしく馬車の中にいたじゃないですか!」
「でも、ホリィちゃんだから……」
サジさんの中で私はどういうイメージなのかと思うと不安だ。
『ホリィ、ヨルがお話してみる?』
「え?ヨルはアイトワラスとお話しできるの?」
「そうなの?ヨルちゃん、凄いわねー」
サジさんは何気にヨルの事が大好きだよね。
「エドさん、エドさん、ヨルがアイトワラスとお話してみようかって言ってますけど、どうします?」
馬車の中からエドさんに声を掛けた。
「ヨルが?あー、でもヨルと話が出来るのはお前だけだよなー。お前を魔獣の傍に寄せんのもどうかなぁ」
「無害な魔獣なんですよね?」
「人を襲うって話は聞いた事ねぇが、実際に今は妙な動きをしているしホリィだからな」
エドさんもですか。オルダ常識が無いだけのただの小娘に何を言ってくれちゃってるんですかね。ホント、二人の私に対する評価が知りたいよ。
「さくっと殺っちまってもいいんだけどな。俺の一存じゃ決めらんねーから、リーダーに聞いてくるわ」
アイトワラスに一番近い位置にいる護衛さんの元へエドさんが走っていき、何やら相談している。何か事情があるのなら、サクっと殺るとか言わずにお話し合いで何とかしてほしいと思う。繁栄の象徴らしいし、殺すのは縁起が悪そうだ。
「ホリィ、ヨルと降りてきてくれ。サジ、付き添いを頼む」
「了解です」
膝にいたヨルが肩に移動したことを確認して席を立つ。乗客の皆さんの注目を気にしないようにしつつ馬車を降りた。元がぬらりひょんだからね、注目を浴びるのは本当に怖いのよ。
「ヨル、お願いね?」
アイトワラスを警戒して周囲を囲んでいた護衛さんたちの前に出て、ヨルに通訳を頼む。
あ、鑑定しよう。
―アイトワラス―
年齢 : 24
性別 : 雌
LV : 128
HP : 29514/31588
MP : 10205/11100
食用に非ず
特記:ウワバミ
―――――
また出たよ”食用に非ず”。食べないっていうの。私を何だと思っているんだ、鑑定眼め。もっと有用な情報があるだろうに。スキルとか使える魔法とかさ。鑑定眼のレベルが上がればそういうのも分かるようになるんだろうか。
『ホリィがいい物を持っているから追いかけて来たってー』
「え?わたし!?」
思わず出てしまった声で、エドさんとサジさんの冷たい目が……。
『美味しいお酒の匂いがするーって言ってるよ』
「あー……」
美味しいお酒――心当たりがある。今朝のガチャで出たネクタルというヤツだ。私は飲めないし、お酒なら飲んでしまえば証拠隠滅になるからエドさんとサジさんに渡そうと、リュックの中に入れておいたんだ。インベントリから取り出すところを誰かに見られたら困るから、敢えてのリュックにインだったんだけど、そのせいでアイトワラスを呼び寄せちゃったのか。瓶詰されているのに良く匂いが分かったね。
特記のウワバミは伊達じゃないのか。さすが蛇。
「エドさん、サジさん、独自のルートで手に入れて、ですね、あとでお二人に渡そうと思っていたお酒がリュックに入ってるんですよ。それがいい匂いで、後を付けてきちゃったと」
「独自のルート……って、アレか」
「アレです」
「続けてたのね、アレ」
「今のところは全て死蔵品ですが、いつかまともな物が出てきてくれると信じて挑戦し続けております!」
二人にバッグの中に入れていた理由を説明すると、困ったような呆れたような顔をされた。
「あげちゃっていいですよね?」
「あげなきゃ追いかけてくるんでしょうねぇ」
「お前がいいならアイトワラスにやっちまえ」
二人には悪いけど、アイトワラスにお酒をあげれば穏便にお引き取り戴けるでしょう。
エドさんが護衛のリーダーさんに説明をしている間に、リュックからお酒を出して栓を開けた。野営の時に使っている深皿に中身を注いで差し出すと、アイトワラスはそれをゴクゴクと美味しそうに飲んでいる。
ペットボトルよりやや大きいサイズの瓶は瞬く間に空になった。
『もっと欲しいって、ホリィ』
「ヨル、お酒はこれしか持ってないって伝えてね」
『わかったー』
これからはガチャで出たものはインベントリに収納しよう、そうしよう。
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