第46話 王都へ行こう 3 ―盗聞―
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2020/06/13 ホリィの最後のセリフがしっくりこなかったので修正しました
森君(推定)はスキルコピーも物質複製も使えないスキルだと言う。
自分より上位者のスキルはコピーできないので、先ずはレベル上げをしなくちゃいけないんだそうだ。習得したけど使ったことないから知らなかった。物質複製は私と同じく”劣化コピー”になってしまうとの事。
木村君(推定)は召喚と調教こそが使えないスキルだと言う。レベルが低いせいで召喚できてもスライム程度。ごくごく普通のスライムが一匹でスライム無双は夢のまた夢だとか。調教は要はテイムで、やはり低レベルの魔物しか従えることが出来ないのだそう。香の物は白菜の浅漬け。唐辛子が入っていてピリリと美味い。ゆず風味のも好きなんだけど、ゆずはオルダにあるのかな?
「そういえばさー、お前、林のこと狙ってたんじゃねぇの?だから、一緒に行こうって誘ったんだろ?」
「え?誘ってないよ、狙ってもない。てっきり、森が誘ったんだと思ってた」
「俺も誘ってない。なんで林は俺らと一緒にこっちに来たんだろうな?」
二人が首をかしげている。普通に仲良さそうに見えたけど。誘ったわけでもないのに自然にチームになったなら尚更。それにしても、このコールスローサラダ美味しいな、ほんと。
「あ、あれじゃない?混ざるところなかったんじゃない?」
「おー、そうかも。女子は6人だったよな?安藤、伊藤、小野寺、水野、林、堀」
「安藤と伊藤はもう普段からべったりくっついてたし、小野寺と水野はテンション高い土屋たちのチームに入ってたよね。あそこの浮かれ具合に混ざれるほど林はイっちゃってなかったよ」
確かに。安藤さんと伊藤さんのペアにもし混ぜて貰えても、疎外感を覚えただろうし、土屋君チームって真っ先にギフトを貰って第二界転移を望むくらいにノリノリだった。あのグループに混ざるにはかなりの度胸が必要だと思う。唐揚げが味噌味だからかな、汁物は味噌汁じゃなくお吸い物。かきたま汁、美味しい。ご馳走様でした。
「柳たちは3人で組んでて入る隙がなかったし、佐伯は一人で行く気満々だったし、消去法で俺らんトコ」
「堀と一緒は無いしね」
「無いな。堀は無い」
スミマセン、無い堀です。これ、私が聞いてちゃいけない会話になりそうだな。二人は元気そうだし、林さんの結婚のニュースも聞けたし、情報収集はもう終了でいいか。
エドさんとサジさんも食べ終わっているようなので、出ようと促すとサジさんが拒否する。
「いいじゃない、もう少しお話聞きましょ?ホリってホリィちゃんの事よね?」
えー。私は気にしないけど、エドさんとサジさんが聞いて楽しい話じゃないと思うよ?
それに、私があっちに馴染めなかったことは話したけど、第三者からの話をサジさんやエドさんに聞かれるのはちょっと嫌かも。スキルの話のように私に有益な情報を話してくれるといいんだけど。
エドさんやサジさんにしてみたら、私の話だけでなく別の人から界渡りの話を聞くことが出来るチャンスか。私を信じてはくれても、異世界転移なんて言う胡散臭い話だから裏打ちがあれば受け入れやすくなるだろう。まだ付き合いも浅いし、無理に私のいう事を全面的に信じてほしい訳じゃないんだけどなー。
誠実なサジさんなら仕方ないか。
仕方なくお茶を飲む。香ばしくて美味しいほうじ茶だ。ここまで食文化が似ていると、もしかして転生者でもいたんじゃないかと疑ってしまう。
「俺らは先に出たけど、堀はやっぱボッチだったろうな」
「しかも、佐伯と違って望まないのにボッチ」
望んでソロだったよ。ボッチじゃなくソロだ。
「教室でも存在感無かったよね、暗いし喋んないし。なんでアイツ異世界を選んだんだろう?」
「あれじゃね?ラノベでよくある異世界行ったら才能開花して俺TUEEE出来ると思ったんじゃね?よくあるじゃん、モブがチート持って異世界無双のラノベ。そんなの無理だっつーの」
いやいや、私は目指せモブ市民だし。そんな事よりも、ぬらりひょんの私を認識していたことの方が驚きだよ。
「俺たちだって、食べていくのにいっぱいいっぱいだもんね。堀って……」
「惨めな生活してんだろうな。いや、生きてんのかね、あいつ?」
「カワイソー」
「だよなー、あいつ、異世界向いてないって」
生きてます。惨めでもないです。どうやってチート隠して一般市民をやれるか試行錯誤中だけど、オルダ生活を楽しんでる。二人の口ぶりは心配してではなく、笑いを含んでいる。なんで、この人たちはほぼ関わりのなかった私をこんなにくさすんだ。嫌われるほど接点は無かったと思うんだけど。
「ホリィちゃん、私、ちょっとあの少年たちに説教して来てもいいかしら?」
「いやいや、止めてくださいよサジさん。私は全くこれっぽっちも気にしてませんから」
嘘だけど。
「じゃ、俺が躾をしてきてやろう」
「エドさん、駄目ですって。躾ってアレでしょ?デコピンとかアイアンクローとか。見ず知らずの人にそんな事したら、エドさんが暴行犯ですよ」
私は立ち上がりそうな二人の腕を掴んだ。落ち着かせねば。
「私、本当にあっちでは誰とも関わってなくて、ああいう風に言われるのも分からなくはないっていうか」
分からないっていうか。
「そういう問題じゃないでしょ?陰で女の子の悪口を言っているような輩は説教必須なの」
「デコピンやアイアンクローで済ますかよ。訴え出る気が起きないよう、ちゃーんと躾てやるさ」
この二人、ダメダメ過ぎる。私のことで怒ってくれるのは嬉しいけど、私にとって彼らは通りすがりの人だから、多少ムカついても後を引くほどのダメージは無いんだから。
もしも、エドさんやサジさんが陰で私のことを悪しざまに言っているのを聞いたら、穴掘って埋まりたいくらいに落ち込むとは思うけど。
『じゃ、ヨルが噛んでくるー』
「え、駄目だよ、ヨル」
私の右手はサジさんを掴んでいて、私の左手はエドさんを掴んでいる。要はヨルを止めるには手が足りない!
肩にいたヨルが器用に私の体を伝ってテーブルに乗るなり元同級生たちに向かって威嚇した。
「ヨル、駄目!」
『ヨルの大好きなホリィの悪口言った悪い奴、噛む』
「いやいや、私は気にしてないから、大丈夫なの、ヨル!すみません、私の従魔が……」
突然に威嚇された彼らは驚いた様子だったけど、ヨルは小さな黒曜蛇。それほど脅威には感じていないようだ。大事にはならなそうで良かったと胸をなでおろしていたら、元同級生たちの顔が強張った。あー、うん、振り返ってみなくても分かる。エドさん、サジさん、あなたたちの威嚇はヨルの比じゃないんだよ。駄目でしょ、少年たちにそれは刺激が強すぎる。
180cmのサジさんでさえ日本人から見たらガタイがいいんだから、2m超えでガチマッチョのエドさんなんて鬼のように見えるんだからね。
「エドさん、サジさん、美味しかったね。さ、買い物に行こう!ヨル、肩まで上がっておいで。来ないと置いてっちゃうよ」
『ダメ、ヨルはホリィと一緒』
「じゃ、おいで」
スルスルと肩まで戻ってきたヨルを確認し、エドさんとサジさんの手を掴んだまま立ち上がる。早くここから去らねば。友達思いのエドさんたちが犯罪者になってしまうかもしれない。
「うちの子が失礼な事をして本当にごめんなさい。失礼します」
「あ、いえ…」
元同級生たちに向かって頭を下げる。ちなみに”うちの子”にはエドさんとサジさんも入る。
ヨル、肩にいてヨシ。エドさんサジさんの手を離さないままに会計だー!会計してさっさと店を出よう。
使えないとか言わないで、第二界の生活を楽しめればいいのにね……
「なぁ、今、第二界生活って……」
「言ってたよね、もしかして……」
元同級生たちの会話が聞こえてきた。
え?私、声に出してた!?
……ああ、またやらかしちゃった。
読んで下さってありがとうございました。




