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第44話 王都へ行こう 1 ―出発―

 いよいよ王都へ出発だ。

 天気良し、体調良し、忘れ物無し、宿の支払い完了。体調に関しては自作の薬もあるし、忘れ物に関してはそれこそ買った物も作った物もインベントリに収納してある。もちろん、偽装用に買ったリュックにも詰めた。


 実はリュックに付与魔法を使ってみたのだ。内部の拡張、重さ軽減、清浄固定。傍から見てあからさまにたくさん入るとか、ぎっしり入っているのに小指一本で持てるとかそういうのじゃなくて、ほんのすこーし多めに入る、気持ち軽く感じるくらいのもの。


 付与魔法のレベルを上げて、エドさんサジさんに何か贈り物が出来たらいいなぁと思い練習中なのです。


 この世界にない顆粒の薬やレコーダー機能の付与は拙いけど、ちょっと便利になるもの、ちょっと安全になるものなんかは目立たない程度に作ったり使ったりしていこうと思っている。私に出来ることで恩返しだ。


 「ホリィちゃん、おはよう」

 「サジさん、おはようございます」


 エドさんは馬車の護衛依頼を受けたので先に宿を出ている。サジさんが差し出してくれた手を取って、私たちは宿を後にした。


 「ホリィちゃん、ヨルちゃん、よろしくね」

 「こちらこそよろしくお願いします」

 『ヨロシクしてあげるのよ』

 「ヨルがヨロシクって、サジさん」

 「ま、いい子ねー」

 『ヨル、いい子』


 お喋りしながら向かった馬車の発着所に到着。私たちが乗る予定の長距離馬車は近距離の乗合馬車と区別して駅馬車と呼ぶそうだ。


 おお、西部劇に出てくるような幌馬車の様なものをイメージしていたけど違った。箱型の馬車は小型バスほどもある大きさで、御者台がある他は外観も似ている。基本は木材のようだが、鉄でしっかりと補強されていて、計8つの大小の車輪が付いている。待機している馬は4頭。――馬、だよね?体高が私の身長の倍くらいありそうだけど、足が6本もあるけど。


 「王都までよろしく」


 乗降口で立っているお姉さんにサジさんが二人分の券を見せ、私たちは馬車に乗り込んだ。


 馬車の内部では背もたれのある革張りのベンチシートが進行方向を向いて並んでいた。中央が通路で、右側に二人用、左側に3人用。新幹線みたいだ。シート同士の間隔には余裕があり、満席で20名位が乗れるだろうか。中々快適そうでよかった。エドさんに快適さと安さとどちらが優先か聞かれた時に、快適さを選んでよかった。金貨1枚と小金貨5枚は痛かったけど、馬車に乗り続けるのは結構苦痛だとラノベでも第四界の観光馬車リポでも読んだことがある。半月間の快適さを取ったことに後悔はない。


 サジさんが座席を持ち上げて荷物を入れると、私に窓側に座るよう誘導してくれた。おお、ジェントルだ。


 「こんなに大きな馬車がすれ違えるほど道が広いの?」

 「都市部ならそういう道も多いけど、町を繋ぐ街道はそこまで広くはないわね。それでも大型馬車同士がすれ違うなんて一日に一度あるかどうかだし、街道沿いなんて大概が平原だもの、どちらかが退避するだけね」


 ほうほう。旅をする人はあまりいないという事だね。


 「よう」


 エドさんが窓をノックして声をかけてきた。腰に剣を佩いた皮鎧姿のエドさんはとても強そうに見える。とても幼い少女(に見える私)にデコピンしたりアイアンクローしたりする大人げないマッチョには見えない。


 「おはよう、エド。護衛頑張ってね」

 「任せとけ」


 馬車の護衛は盗賊や魔獣・猛獣対策だ。今回はエドさんを含めて5名が王都までガードしてくれる。頼もしい限りではあるけれど、護衛の人たちの出番がないのが一番なので、ノーイベントを願おう。


 定刻に出発した馬車はゆっくりとした速度で町を出て、街道でスピードを上げた。サスペンションが効いているのか、あまり揺れはひどくない。念のために馬車が動き出した時点で身体強化をかけてあるので、お尻も痛くならないままに昼食休憩の為に馬車が止まるまでオルダの景色を楽しんだ。最初の山とサラクのごく一部しかまだ見てなかったからね。


 「体は大丈夫?馬車酔いはしていないかしら?」

 「ありがとう、大丈夫です。サジさんは?」

 「私はこう見えても冒険者ですもの。半日馬車に揺られたくらいなんでもないわ」


 細身だけどしっかり鍛えているんだろな。体が資本のお仕事だもん。


 元の世界でも車酔いはしたことなかったけど、この体も三半規管が強いのかまったく酔わなかった。そうはいっても長旅の間で体調がよろしくない際に酔うかもしれないから、お薬を用意しておいたことに後悔はない。

 使わなかったとしても、インベントリに入れておけば劣化しないのだからいつか日の目を見ることもあるだろう。


 そう思っていたのだけど、同じ馬車に乗っていた老婦人の顔色の悪さと食の進まなさが目につき気になってしまった。


 「大丈夫ですか?」


 思わず声をかけたら驚かれたようだけど、老婦人は青白い顔にそれでも笑みを浮かべて酔いやすい体質なのだと言った。王都へ行くのは孫娘の結婚式に出席する為なので、老骨に鞭打ち馬車旅に耐え忍ぶのだと。


 お孫さんの結婚式じゃ、体調に不安があっても無理しちゃうよねぇ。


 「これ、気休めですが良かったらどうぞ。スーッとするので、少しでも気分が良くなるといいんですが」


 酔い止めのドロップが10粒入った小瓶から1粒出して自分の口に放り込んだ。見ず知らずの人間から貰った飴を口にするのは躊躇するだろうから持ち主である私が毒見役をば。


 謙遜して”気休め”と言ったが、効果は保証付きです。



 ―酔い止め―


 乗り物酔いによる頭痛や不快感に非常に効果がある

 酔う前の服用が効果的だが、症状が出た後でも可

 等級:S


 「お孫さんの結婚式の為になんて素敵ですね。少しでも楽になりますように」


 どう?初めましての人にこちらから話しかけて、ちょっとだけ対人スキル上がったんじゃない?


 『ホリィ、いい子ー』

 「ありがと、ヨル。あのおばあさん、具合がよくなるといいね」


 ヨルがペロペロと私を舐めて褒めてくれた。これは、賞賛のための行為だよね?美味しいからとかじゃないよね?


 「ホリィちゃん、ちょっとこっちにおいでー」


 サジさんが有無を言わさず私を人気のない馬車の影に引っ張っていく。途中でエドさんに目配せしたのは何故だ。あ、二人掛かりで褒めてくれるのかも。良い事をしたし、私。





読んで下さってありがとうございました。

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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