第43話 告白
「正直に吐け」
エドさんが私の頭を鷲掴みにしているから逃げられない。
「い…言いたくない事は言わなくてもいいって、エドさんが言った」
言ったよ。初めて会った山の中で確かに言った。なので黙秘権を行使します。
「あの時と今では状況が違う。あの時は行きずりの他人だった。常識のない子供とそれを保護する親切なお兄さん、ただそれだけ」
「お兄さん」
「それはもういいっつーの。ともかく、今は違うだろ?お前と俺は”友達”だろ?何かあった時、裏を知っているかいないかで対処の仕方も変わる。知らないままで事が起きてお前に万が一のことがあった時、あの時にああしていれば――なんて考えたくない」
エドさんが私の目を覗きこんでくる。
「お前が言いたくない事を無理に言わせたいわけじゃないんだ。友達だから、助けになりたいんだ」
ちくしょーっ、エドさん、卑怯だ。そんなこと言われたら甘えたくなっちゃうでしょうが。
――ああ、違うな。私はもう既にエドさんに甘えている。この上なくどっぷりと。でなければ、ヨルが喋ったどうしようなどと彼の元に走ってくることは無かった。血の繋がった家族との縁を紡げなかった私は、第二界で初めて会った人に、まるで刻印付けされた雛のように追従している。
「エドさんはお友達っていうより」
「いうより?」
「オカンだよね」
「おい、誰がオカンだ!せめてお父さん……いや、それも嫌だな、お兄さんだろう、やっぱり」
デコピンもアイアンクローもなく、ただ頭を撫でられた。やっぱりオカンだよ。実年齢はともかく見た目的にお兄さんは図々しいし、お父さんはちょっと違う。だってインプリンティングされた雛が求めるのはお母さんなんだから。
「あのね、私、外の世界からオルダに来たんだよ」
そう切り出して、私はエドさんにこれまでの事を語った。
エムダさんには慎重にしろと言われたけれど、まだ会って十日足らずだけれど、この人は大丈夫だと私の中の何かが訴えてくる。
その何かが間違いでエドさんとの距離が開いてしまったとしても、悲しまずに一人で頑張ろう。
「そっか、大変だったな」
ちょいと、エドさん。こちとら一世一代の覚悟でお話ししたんですけど、どうしてそう軽く流すかな。
「やっぱ、信じられない?」
「何で?」
何でって、なにが何でなのか分からない。
「お前はここではない、地球?という場所からやってきて、オルダを管理すると自称する者からスキルや色々な力を貰った。オルダに来たのは俺と会った日。村から一緒に出たと言う14人は同世界人で、彼らがどこにいるのかは知らない。更にお前は元々オルダの人間だった。ここまでに間違いは?」
「ナイデス。――っていうか、信じるの?自分で言っておいてなんだけど、こんな荒唐無稽な話なのに」
日本でそんなことを話したら『あらあら厨二の病だね』とニラニラされるか病院へ行くようアドバイスされるかだと思うんだけど。
「丸呑みできる話じゃねぇが、お前がつまらない嘘をついている訳でも頭がおかしい訳でもない事くれぇは分かるよ、ホリィ」
男前だな、このオカン。世話焼きでお人好しでゴリマッチョで懐が広くて、なんていい人なんだろう。
「ありがと、エドさん。この話はオルダの人にするときは慎重にってエムダさん、あ、管理者さんね、そのエムダさんに言われてるんだ。界渡りについて、この世界の人は知らないからって」
「無理に言わせて悪かったな。お前の信頼を裏切る真似はしないということは信じてくれていいからな」
「信じてなかったら話してないです」
エドさんは照れたのか、頬をポリポリと掻いている。
「ホリィに警戒心を持てって言う方が無理なんだろうなぁ。俺が言うのもなんだが、お前、本当に少しは相手を疑うとか用心するとか……しねぇんだろうな」
『ホリィにはヨルがいるから大丈夫』
「ヨルがいるから大丈夫だって言ってます。ねー、ヨルもエドさんもサジさんもいるもんねー」
「コイツに何が出来んだよ、ったく。しかしま、お前が常識無いのも滅茶苦茶やらかすのも、元の世界とこっちとの違いがデカすぎるからなんだろうな」
「ですねー、フォロー宜しくお願いします、お母さん」
「お母さんじゃねえっつーの」
エドさんにお休みの挨拶をして部屋に戻るなりベッドにダイブ。あー、やっぱり緊張してたなぁ。エドさんが受け入れてくれて良かった。
「オルダで最初に出会った人がエドさんで良かったぁ」
『違うっ、最初に会ったのはヨル!』
「分かってるよお。最初に出会った人って言ったでしょ?オルダで最初に出会ったのはヨル。私の大事な大事なお友達のヨルだよ」
拗ねたヨルの頭を撫でてご機嫌を取ると嬉しそうに指を舐める。……そういえば、美味しいって言ってたな。齧らないならいいよ。乙女としては自分の汗がどんな味だか怖いけど、ヨルが美味しいって言うならいいよ。
「なんだか疲れちゃったから、もう寝るね。お休み、ヨル」
『オヤスミ、ホリィ』
上掛けをかぶった私の胸元で、ヨルももう寝るらしい。また明日ね、ヨル。
◇◇◇
素材を採りまくり、薬を作りまくった。
酔い止めの薬と疲労回復薬、胃腸薬や解熱剤などは調薬魔法で。栄養剤、体力回復ポーション、治癒ポーション、毒消しなんかは錬金魔法で。実際にはどっちも魔法で作っているけど、調薬魔法は本来の調薬の手間を省く魔法であるのに対し、錬金魔法は人が手間暇をかけても出来ない、魔法でしか作れない薬が作れる。
素材も上等なものを使い、顆粒や錠剤にした。自分たち用なので自重しない。酔い止めはドロップタイプにした。飴ちゃんの形状なら人前で使っても大丈夫だろう。
ギルドでいつも対応してくれる受付のお姉さんに、王都行きの事を話したらとてもがっかりされた。なんでも、私が納めた素材の評判が良く、これからもっと上級の採取依頼を勧めようと思っていたのだそうだ。
そりゃね、質を下げようと頑張っていた時以外は、素材は常にA等級の物を採取し、魔法を使って衛生にも気を付けた上に、採取後すぐにインベントリに入れていたから鮮度もバッチリでしたとも。
そういう細々した気配りを評価してくれたことは素直に嬉しいけど、ごめんねー。ヨルも来てくれるって言うし、王都行きは変わりません。
実家に戻っていたサジさんが宿に帰って来た時、エドさんの立ち合いの元で私のことを話した。すぐに受け入れるのは難しいけど、嘘ついている訳じゃない事は分かってるから――と言われ、頭を撫でられた。
サジさんも男前だ、オネエだけど。
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