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第41話 王都行きの準備

 王都行きを決めた後、エドさんは冒険者ギルドへ行って定期馬車の護衛依頼を決めてきた。定期馬車のチケットも入手して来てくれた。しかも2枚。


 「2枚?」

 「1枚は私の分よ?付いて行ってあげるわよ、お友達でしょ、私たち」


 王都に行ってみたかったのよねー、とサジさんが笑いながら言う。

 私は涙出そうだ。


 「出発は5日後だ。準備しておけよー?キルタの件が片付いたから、俺も拠点を王都に移す。王都に行っても面倒を見てやるから安心しとけ」

 「私の面倒も見てね、エド。王都は初めてなのよ。でも、一度あちらで仕事をしてみたかったのよねー。あっちにはどんな依頼があるのかしら」


 泣く。泣くぞ、私。

 エドさんもサジさんもどうしてこんなに良くしてくれるの。私は何を返せるの。なるべく早く、一日でも早く自立しなくちゃ。しっかりした常識のある薬師になって、エドさんとサジさんが困っているときは助けられる自分になろう。


 「5日後ね、だったら私、ちょっと家に戻って報告してくるわ」


 やっぱりサラクにお家あるよね。でもいいの?5日後に王都に行くわー、そっちを拠点にするわーってあり?

 あ、いくら若く見えてもサジさんは30男だった。30歳の息子が家を出て一人立ちするよっていうのを止める親はいまい。ろくでなしならともかく、サジさんはしっかりしてて優しくていい人だもん、心配無用だよねー。


 「私は馬車旅で必要な物を買い出しかなぁ。何が必要です?」


 「着替えと携行食と水、あと毛布と寝袋かしら。水場には頻繁に寄る筈だけど、念のために多めにね。馬車旅はしたことある?」

 「ないです」

 「道の悪いところだと振動が辛いから、初めてなら酔い止めがあると楽かもしれないわね」

 「おお、それ、作ってみようかなー」


 自分用だからもちろん飲みやすい顆粒で。半月の旅程でどこの町にも寄らないってことは無いだろうけど、お薬は色々と用意しておこう。

 錬金術でポーション類も作っておきたいけど、エドさんにバレたら怒られるかも?

 でも、インベントリに入れておけば見つからないし、万が一の備えを用意しておくだけで心安らかにいられそうな気がするので、コッソリ作ってコッソリ仕舞っておこう。


 見つかっても”栄養剤”と言い張れば何とかならないかな?あ、本当の栄養剤も作っておこう。薬師の仕事の範疇でしょう、多分。


 

 5日後だから余裕があるとはいえ準備は早いに越したことはない、ということで先ずはお買い物。


 リュックタイプのバッグを買って、毛布や寝袋、携行食を選んでいく。インベントリがあるからバッグは不要だし、本当はホカホカご飯を屋台や食堂で見繕って仕舞い込みたい。でも、そんなことをしたらアイテムバッグ持ちだと思われ、目を付けられるから我慢。


 学習する女ですから。


 お水は最初にエムダさんから貰ったタンブラーがあるし、水魔法も使えるから大丈夫なんだけど、水袋も買っておく。【いのちだいじに】なら、チートは隠すものです。


 買い物をしていると、薬を売っている露店を見つけた。覗いてみると、風邪薬や傷薬のほか、胃腸薬やら打ち身の薬やら色々とある。後学の為にその一つ一つに鑑定をかけていくと、どれも品質はD~Fランクだった。


 私が作った薬が


 ―風邪薬―


 風邪の諸症状によく効く薬

 1日2回、食前にお湯または水で服用

 等級:S


 で、この露店にある薬だと


 ―風邪薬―


 初期の風邪の諸症状を幾分抑えられる薬

 1日2回、食前にお湯または水で服用

 等級:E


 となる。そしてお値段が一包当たり銀貨1枚と小銀貨5枚。およそ1500円ほど。高くない?一日分で3000円。第二界では風邪薬ってこんなに高いの?その疑問が顔に出ていたんだろう、店主らしきおじさんが私に声をかけてきた。


 「ちょいと高いと思うだろう?だが、この薬は厳選した特殊な薬草を使って秘伝の調合方法で作成した、とてつもなく良く効く薬なんだよ。可愛いお嬢さんには、ちょいと負けてやるよ?」


 うーそーつーきー。改めて薬は自分で作ることを決意させてくれてありがとう。

 私は曖昧に笑って露店から離れた。


 成程。医薬ギルドや冒険者ギルドでの買取に品質検査が必要なわけだ。お値段が高い方が効く気はするけど、品質Eの風邪薬をさも薬効の高い薬のように売るなんてプラシボ効果も追いつかないよ。勉強になりました。買い物をするときは【鑑定眼】でのチェックは必須だね。黙って使う分にはチートだってバレないし。


 人目のないところで荷物をインベントリに仕舞って、薬草採取に行こうっと。



 ◇◇◇


 「ホリィさん、今日はまた随分たくさんですね」

 買い取り受付のお姉さんが、私の出した薬草類を見て目を丸くした。


 「えへへ。ちょっと思うところがありまして。多すぎました?」

 「とんでもない。ホリィさんは丁寧に採取して来て下さるので後の処理も楽ですし、大助かりです」


 良かった。多すぎても問題ないらしい。露店を見て自作の薬を増やそうと沢山採ったので、ギルドに卸す半分量でもいつもの倍くらいあるのだ。


 「いつもと違う薬草もありますね。――あ」


 新しい薬の為に、色々と手を出したからね。あ、依頼ボードの確認を忘れてた。


 「買い取り対象じゃないのも入ってました?」

 「いえ、そうじゃなくて、これ、買い取りでいいんですよね?ランクC依頼のキノコが入っていますので、依頼ボードから依頼票を取ってきてください。あ、採取依頼なので、ランクは気にしないで大丈夫ですよ」


 ギルドに登録したときの説明で依頼は自分のランクの一つ上のランクまでという話だったけれど、採取依頼に関しては問題ないそうだ。良かった。

 不可となったら自分で使うだけだから、それでも問題なかったけどね。


 そして買取金額が小金貨!ビックリだ!旅支度に物入りだし出発までに少し稼いでおこうかな。



 その夜、私は覚悟を決めて黒曜蛇ちゃんに聞いてみた。お喋りが出来る訳じゃないから、どんな反応だって自分のいいように解釈してしまいそうな気はするけれど。


 「黒曜蛇ちゃん、私、ここからずっと遠くに行くの。王都っていうくらいだから、ここよりずっと都会で黒曜蛇ちゃんには、もしかしたら暮らしにくいところかもしれないんだ。それでも、私はあなたと一緒にいたい。ヨル……一緒に来てくれるかな?」


 今まで呼べなかった私が勝手につけた名前で黒曜蛇ちゃんを呼んでみる。私がホリィで黒曜蛇ちゃんは夜のように黒いから、聖夜(ホーリーナイト)から取った名前だ。

 この地でお別れすることになって、いつか別の黒曜蛇に出会う機会があったとして、それでもあなたは特別な子だよ。そんな気持ちだ。


 『いいよ、どんな所でも一緒に行ってあげる。可愛い子』


 「……はい?」


 『どうしたの?一緒に来てほしいんでしょう?ヨルだってホリィと一緒にいたい』


 「……ヨルがお話、してる」


 『ホリィがヨルの名前を付けてくれたから。ヨルが大好きなホリィと一緒にいたいから』


 「えっえっえっエドさーんっ。どうしよう!どうしようどうしよう!?」


 『こんな感動的場面でヨルじゃない名前を呼ぶなんて、ホリィは無粋』


 ちょっと怒っているヨルを抱き上げて、私はエドさんの部屋に走って向かった。




誤字報告ありがとうございます、お世話になっておりますm(__)m

ブクマ・評価も感謝です


読んで下さってありがとうございました

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2020/08/22 短編の異世界恋愛もの「スライムの恩返し」を投稿しました 宜しかったらこちらも是非
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