第40話 腕が良過ぎてコマッタナー
本日2回目の更新です。
キリよく40話で10万字突破(≧▽≦)
エドさんサジさんに説教されるのに慣れてしまった今日この頃。
薬の素材を採取して半分をギルドに納品し、もう半分で調薬で等級を落とした薬が作れないか試す日々だったけれど、上手く行かないまま宿代の先払いをした一週間目になってしまった。
ちなみにエムダさんの手紙は本当に消えた。5日目にもういちど読んでみて、封筒の中までしっかり調べたけど、最初に見たままだった。
調薬をする際に等級AではなくBやCの薬草を使ってみたのだけれど、出来た薬は等級Aまでしか下がらなかった。思いきってD以下の等級の素材を使ってやっと等級Bの薬が出来た。煎じ薬の形状にすることは割合と簡単だったのに、等級が下げられずに薬師としての道は前途多難状態です。
調薬魔法を使わずに調薬をしてみるには道具から揃えなくてはならない。道具にお金を使って、もしも等級が高い物しかできなかったら――と思うと二の足を踏んでしまう。
エドさんとサジさんが言うには、新人薬師が作るとしたら等級D、腕がいいと思われるくらいなら構わないとしても等級Cに抑えるように言われてしまったが出来ないものは出来ない。
あー、腕が良過ぎてコマッタナー。
傷薬も同様で、良い素材で作れば等級S。素材の等級を下げに下げて等級Bにするのが精一杯。たかだか数日で言うのもなんだけど、私、薬師を選んだのは失敗だったんだろうかと悩んでしまう。
ちょっとやさぐれ気味です。
開き直って天才薬師とかしてみる?モブ生活を放棄して錬金薬師やってみる?異世界通販を使って商人になる?ガチャ使って……何が出来るのかな?
「まあ、勿体ない事を言うのねぇ」
相変わらず食堂にいるサジさんを見つけて、対面の椅子に腰を下ろしてお茶を飲む。
出来上がりの薬の品質が良すぎるから薬師は諦めなきゃいけないかと愚痴を言うと、サジさんに笑われた。
サジさん、一週間ずっと食堂で会えているけれどお仕事はいいのかなぁ。ちなみにエドさんはお仕事だそう。
「自覚はありますよぉ。でもね、私はサジさんやエドさんが言うように世間知らずの常識無しだから、せめて世の中のことをもう少し知るまでは極力地味にいきたいんですもん。出来れば一生地味にいきたいですもん」
「せめて自覚があっただけでも良かったと思うわ、私。ただでさえ規格外の事をしでかすのに、常識が無い事を意識してなかったら大変だったもの」
大真面目に言われた。
「先払いした分の宿代がもう終わりだから、これからどうしようかなぁと」
「行く当てもないんでしょ?いいじゃない、ここで」
そうだけどさー。先の見通しがつかないなら動いてみるのも手かなと考えているんですよ。鑑定スキルのおかげで薬草採取だけでも宿代くらいは稼げるし、余計な買い物をしなければ暮らしていけそうな気もする。採取生活でモブ市民する?
それだとスキルが勿体ない事もあるけれど、ただ暮らしていけるだけで余裕がない。親兄弟もいない、頼れる相手もいないこの状況だから、お金は出来るだけ稼いでおかないと、何かあった時に人生詰む。お金は大事。
だから、安全に確実に稼げる職業を希望したんだけどなぁ……。スキルが強力過ぎる弊害があるなんて思わなかった。
「他にしたい事とかあるの?」
「ナイデス。私たちを助けてくれた人と話をしてあの職業を目指そうと決めてたので、他の事は考えてなかったんですよー。あー、もう、どうしよう。目立つ事をして厄介な状況に陥った時に、私にはそれを回避できるスキルもなければ、いなす事が出来る性格でもないもん。薬師への道は厳しい……」
料理のスキルも貰っているし、そっちでなんとかする?日本食無双は不要だけど、食文化に違和感がないから料理人もありかな。
「薬師への道は厳しいって、普通は意味が違うけどね。ホリィちゃんは自分が目立たなければいいのよね?だったら、私かエドを間に入れて、信頼できる商人に他言無用で卸すっていうのはどうかしら?私にはそういう伝手は無いけど、エドなら持っていると思うわよ」
「え、それイイ!そんな風に出来たらすごく嬉しい!――でも、エドさんやサジさんにそこまでお世話になるわけにも……」
「何を言ってるの。エドは頼られたら喜ぶし、私だってホリィちゃんが好きだから問題ないの。まだ小っちゃいんだから大人に頼ってもいいの」
「成人してますう。15歳ですう」
エドさんやサジさんに出会えたのは本当に幸運だ。出来ることなら同級生たち皆にこの人たちに出会えた私のように、良い縁がありますように。
「とりあえず、もう一泊の延泊手続きをしてらっしゃい。エドが帰ってきたらまた、相談しましょ?」
「はい。サジさん、本当にありがとう」
「商人との仲介?」
「そう、ホリィちゃんが前に出なくても私かエドが間に入れば卸せるんじゃない?エドなら口の堅い懇意にしている商家の一つや二つあるでしょ」
「そりゃ、無い事もねぇけど、サラクじゃなくて王都だな、そういうのは」
「ですって、ホリィちゃん」
サジさんの部屋でエドさんに商人仲介をしてもらえないか話していたんだけど、王都かぁ……。
「サラクでもいねぇことはねぇ。ただなぁ、こっちでそんなことしたら目立つぞ?そういうのは田舎より中央の方が目を引かねぇだろうなぁ。色んなとこから人間が集まってるし、田舎から出てきて一旗揚げようって奴も少なかねぇしな。サラクじゃ、ずば抜けた新人なんてどうしたって目を付けられるだろうよ。俺の伝手が多いのもあっちだし」
お説ご尤も。そうだよねぇ、田舎よりも都会の方に優秀な人材は集まるだろうし、その中でなら私程度は埋没しちゃうだろう。有難いことに。
「気が進まないか?」
「あー、ごめん。ちょっと考え込んじゃった」
返事を返さない私が失礼だったのに、エドさんに気を使わせてしまった。こんなに私のことを考えてくれているのに、不作法だった私を更に気遣ってくれている。それに値するような大人にならなくては!
「ありがとうエドさん、サジさん、色々と考えてくれて」
最初にエドさんに王都行きを示唆された時には反発しかなかったのに、今は王都に行くのもありかなと思える自分がいる。
「すぐに結論を出さなきゃならない訳じゃないけど、ホリィちゃんはどうしたい?」
「エドさんにご迷惑をおかけしちゃいますけど、王都へ行ってみようかな、と思ってます。最初だけエドさんに繋いでもらえば、その後は私が”お使い”で納品してもいいかと思うし」
「あー、そうだな、お前なら”お使い”でイケるよな」
「そうね、小っちゃい子が”お使い”って可愛いものね。薬師本人だとは思われないと思うわ」
何度も言われているから、こちらの世界じゃ15歳に見えないのは分かってるから”薬師のお使い”をしても作り手とは思われないだろうと自分でも考えて提案したけどさー、はっきり客観的に言われるとちょっと凹むじゃないか。日本では年相応だったんだよー。
ま、しかし、エドさんにずっと間に入ってもらう訳にはいかないし、自分でどうにか出来るならそれでOKだと思わねば。
「じゃ、何を考えていたの?何か問題がある?」
問題……と言うか、心配なのは
「黒曜蛇ちゃん、付いてきてくれますかねぇ……」
王都がどんな所か分からないけど、ここから馬で半月もかかる都会へと連れて行っていいものか、そもそも来てくれるのか。でも、一緒に行きたい、来てほしい。
「元の山に帰さねぇのか?」
「この子が帰りたいなら帰します。――でも」
帰りたいかな、帰っちゃうかな?
「生まれて初めてできたお友達だから、出来たら、一緒にいてほしい……」
離れる時が怖くて名前も付けられないチキンだけど、初めてのお友達と別れることを考えるだけで辛い。
「おまっ、何だよ、ホント不憫な奴だな、おいっ」
「ホリィちゃん、大丈夫よ、私もエドもホリィちゃんのお友達よ!」
「おう、友達だ!もしもその蛇が帰ることになっても俺らがいるだろ!?」
エドさんとサジさんが、私の頭を撫でながら必死に言ってくれた。何だ、このいい人たちは。嬉しくて涙が出そうだよ。
読んで下さってありがとうございました




