第39話 等級Sの風邪薬はヤバかったようです
本日は2回更新の予定です。
2回目は夕方4時頃になると思います。
「で、これは何だ」
エドさんが風邪薬の一包を開けて見ている。何だって言われても風邪薬だよ。
「こんな粒の薬なんて見たことない。煎じ薬じゃねぇし、散剤よりややデカくて粒がそろってる。サジ、お前こういう薬を知ってるか?」
「いえ、知らないわ。風邪薬って大概煎じ薬よね?散剤は見たことあるけど、これはそれとも違うわね」
ん?こちらのお薬は煎じ薬が主流で、散剤も無い事は無い、と。散剤だと粉だからちょっと息がかかっただけで飛び散っちゃうよ。で、鼻に入っちゃってむせるの。喉に張り付いてもむせるの。ゲホゲホと。顆粒だとそこまでじゃないし、飲みやすい。錠剤でも良かったけど、効きの早さで行ったら顆粒の方がいいし葛根湯は顆粒のイメージだったんだ。そもそも生薬の風邪薬=葛根湯のイメージが拙かったんだろうか?
「これは私の郷里で葛根湯と呼ばれていた顆粒のお薬なんですけど、サラクでは知られてない…ですか?」
「カッコントー?王都でも聞いた事ねぇな」
「顆粒っていうのも知らないわ。ホリィちゃんの村ではこういうお薬が主流なの?」
葛根湯と言う名前が無いのはともかく顆粒もないのか。それなら顆粒出汁とかもないんだろう。いちいち出汁を引くのかな。ガラスープとかコンソメスープとかも顆粒だからこそお手軽に飲めるのに。
「粉薬、顆粒薬、錠剤が多かったです。水薬もありましたけど主に小さな子供用でした。煎じ薬は無い事はないですけど、あまり一般的じゃなかったような」
「錠剤っつーのも知らねぇな。なぁ、ホリィ。お前、作ったモンを他人に晒す前に俺かサジに見せろ。で、俺らが知らねぇモンは出すのやめとけ」
「えっ、これ、駄目ですか?せっかく作ったのに?初調薬で等級Sなんて我ながら凄い才能だと思ったのに!?」
「……等級S!?」
サジさんがビックリ顔だ。エドさんは額を押さえている。
あ…あれ?言っちゃ駄目だったヤツだった?いや、エドさんもサジさんも私が鑑定スキルを持っていることは知ってる。サジさんはエドさんが信頼している人だし、いい人だし、私もお世話になっているからエドさんに知られたことはサジさんに伝わってもいいと思っている。ただし、この二人の外に話が漏れるようなことはしたくない。とめどなく話が伝わって【安全第一】【いのちだいじに】モブライフが脅かされることになっては困るのだ。
「エド、あなた等級Sの風邪薬なんて知ってる?」
「あー、中央にいた頃には聞いたことがある。王族付きの宮廷医師や薬師が調合した物や、高位貴族御用達のバカ高い薬鋪なんかにはあるそうだ。それでも煎じ薬が主で、稀に散剤だな」
はい、またやらかしましたー。
いや、でもね?調薬魔法のスキルはLv.1だよ?薬草なんかの素材は厳選した等級Aの物を使ったけれど、スキルのLv.1って見習い程度の筈だよ?
「あー、でも、鑑定しなきゃわからないですよね?顆粒にせずに煎じ薬にすればいいんだし」
苦し紛れに言ったことだけど、そういえばそうだと思いなおす。鑑定眼スキル持ちなんて言っちゃなんだけど、こんな田舎にそうそう居ないだろうし、鑑定の魔道具だってギルドと裁判所とか教会とかにあるものだって第二界常識さんが言っていた。その魔道具もほとんど簡易版で、高性能のものは数が少ないとも聞いた。
初調薬の葛根湯は顆粒だから表に出せないとしても、煎じ薬を作ればいいじゃないか。初調薬時に葛根湯をイメージしたからこうなったけど、煎じ薬をイメージすれば大丈夫な筈。残念ながらこの葛根湯はお蔵入りだけど、自分用かエドさんサジさんに使ってもらうなら問題ないし。
――エドさんは風邪ひかない人種に見えるけども。
「モグリで売るんならそれでもいいだろう。サジから聞いたが、医薬ギルドや冒険者ギルドに卸すなら、品質はチェックされるに決まってんだろ」
「そうよ、薬を買い取るお店では品質審査の魔道具で確認されるもの。実績のない人間が作った薬を調べずに買い取れるわけないわ」
来たよ、魔道具。
「魔道具ってそんなに一般的じゃないってエドさんが言ってたのに」
「お前が使うような訳の分かんねぇ道具はねぇっつーの。マジックバッグや結界道具は希少だっつーの。けど、普通の魔道具はそれなりに流通してるに決まってんだろ。じゃなきゃ水やら灯りやら調理やらどうすんだよ……って、お前、そこから分かってなかったのか!?」
第二界常識さん、もうちょっと詳しく説明してほしかったよ。
魔道具は発展しているという第二界常識から、安易にエプロンのポケットをマジックポケットに偽装したら「そんな高価なもの」とエドさんに言われ、魔道具の発展≠普及で一般的には流通していないと思い込んでしまったじゃないか。
でも言われれば、宿の部屋にタッチ式の灯りはあったし、水道は無いと聞いていたのにお風呂場や洗面所ではお湯や水が出せた。レバーではなくセンサー式の様な蛇口だった。調理場の中は見ていないけれど、薪の燃えるような匂いはしていなかった。
灯りがあるのも水を出せるのも当たり前すぎて疑問を抱かなかった。常識ってムズカシイネ。
「え、でも、魔力持ちって少ないって(第二界常識さんに)聞きましたけど、魔道具ってみんなが使えるんですか?」
分からない事はやらかしたことがバレているエドさんに聞いてしまえー。また頭を抱えているけど、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の損だ。もう、今更エドさんとサジさん相手に取り繕ったって仕方ない。元々取り繕えてなかったしね。
「お前の常識はどうなってんだ。魔道具には魔石が埋まっていてその魔力を使うに決まってんだろ。お前のとこには魔石を使った魔道具は無かったのかよ……」
「あー、私と一緒に村を出た14人は(エムダさんから貰ったので)魔力をみんな持ってましたから」
魔道具なんて使ったことが無いとは言えないのでそう言った。
「どんな村だ……」
日本です。
「規格外はホリィちゃんだけじゃないのね……なんて怖い村かしら」
「怖いよな、こんなのがあと14人も散らばってんだぜ?ぜってー何処かで目立つことをやらかしているに決まってる。だからお兄さんはお前が心配なんだ」
「お兄さん……」
「なんだよ、23歳だって言っただろ!」
「年齢詐称……サジさんはオネエさんだけどエドさんはオジ――って痛い痛いっロープ―!」
「またそれかっ。何で俺がオジさんでサジがお姉さんなんだよっ。コイツは俺よりずっと年上だ!」
そこ!?オネエさん扱いはいいんだ!?
しかもエドさんよりサジさんがずッと年上とかまさか!
「ふふふっ。私、エドより7歳上よ?」
「まさかの30歳!嘘だ。エドさんとサジさんの年、逆でしょ!?サジさん、逆にサバ読んでるでしょ!?」
「おまっ、俺が30に見えんのかっ」
「見えるっ!」
アイアンクロー痛い。やっぱり仕事していないレジスト。
読んで下さってありがとうございました




